Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第540号(2023.02.05発行)

SDGsネイティブ世代とプラスチック問題

[KEYWORDS]ごみ/環境教育/自分事化
京都大学大学院地球環境学堂准教授◆浅利美鈴

最近の小中高生は、幼い頃から社会課題に関する知識を身に着けているSDGsネイティブ世代と言える。
持続可能性・SDGsに関する知識・理解レベルも高く、海洋プラスチックごみ対策についても、目を見張るような活動・実践事例が散見される。
他方、無関心層の存在も指摘されており、実践等により、自分事化する仕掛けが重要と考えられる。

ごみと環境教育の視点から

この四半世紀、ごみが筆者の研究テーマである。家庭ごみ、プラスチックごみや食品ロス、災害廃棄物などについて、発生実態や3R(リデュース・リユース・リサイクル)の取り組み、消費者の意識・行動変容、幅広いステークホルダーによる持続可能なシステムの共創などを探求している。学生のころより、環境教育・啓発・コミュニケーション活動をライフワークとしてきた経緯もあり、現在の専攻は環境教育論である。これらの視点を融合させ、最近では、ごみや持続可能性・SDGs(国連が提唱する持続可能な開発目標)をテーマにした教育プログラムの開発と、効果実証などに力を入れている。筆者が大学に入学した翌年、国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)(1997年)で京都議定書が採択された。メディアも地球環境問題を度々取り上げ、企業もこぞって環境管理システムの導入(ISO14001認証取得等)を進めた。しかし実際、学内外でいろいろな人と関わっていると、そこまで環境意識は浸透しておらず、市民権を得ていないと実感し、環境活動に携わりながら挫折感を感じたことも少なくない。
そのような中、2015年に採択されたSDGsや、今般の脱炭素化に向けた機運の高まりは、これまでと強度が違うと感じる。ESG(環境・社会・企業統治)投資の広がりからも、企業等の意識変容、取り組みの主流化も確認できる。相まってか、海洋プラスチック問題に対する世間の関心の高まりも、これまでにない熱量だと感じる。プラスチックごみ問題に携わってきた者としては、これを機に、課題解決につなげたいと奮闘する日々である。

SDGsネイティブ世代の出現

■図1 1990年代前半の作品。海洋プラスチックは当時から問題視されていた。
環境漫画家「ハイムーン」は筆者の恩師、ごみ研究者として著名な高月紘先生 図1、2とも、ハイムーン工房(highmoonkobo.net)より

日本の義務教育においては、国語や理科、社会のように、「環境」という独立した教科があるわけではない。そこで、例えば、ごみについては、一般的に小学4年生で、社会の授業の中で、自治体のごみ処理について学ぶ。清掃工場への見学付きということも多いので、ごみを分別することや、分別したごみがリサイクルされたり、焼却されたりすることも、当たり前のように知られることになる。また、総合学習の時間を活用して、さまざまな環境問題について学んだり、実践活動をしたりする学校やクラスもある。地域の個人・団体と連携した取り組みも散見される。
しかし、最近の小中高の学習指導要領や、それに基づく教科書を眺めていると、内容の進化を、つくづく感じる。例えば、小学生からさまざまな教科と連携させて世界や地域の持続可能性・SDGsについて学び、中学生の理科では、私たちより豊富なプラスチックの知識を得る。高校の必修科目「公共」ではSDGsなどの社会課題を、学ぶだけでなく、議論し、自分事化する充実した内容だ。まさに、若いころから多様な社会課題の知識を身に着ける機会を得た「SDGsネイティブ世代」の出現と言えるのではないだろうか。実際に、アンケート調査等でも、中高生らのSDGsの認知・理解度が高いことが示されている。
実践活動もすごい。筆者たちの活動の一つに、2025年の大阪・関西万博に向けて、資源循環分野のレガシーを作るための「ごみゼロ共創ネットワーク」構築プロジェクトがある。2022年11月に、そのキックオフとして、全国の元気な団体が取り組みや提言を共有するハイブリッドセッションを設けた。短期間の呼びかけにも関わらず、北海道から沖縄の小学生から企業・起業家まで、ユニークな約30の団体が集まった※1。海洋プラスチック問題に関する若者中心の活動団体も多く、志の高さやアイデア、展開力に感心した。現在、(公社)2025年日本国際博覧会協会では、持続可能性についてもビジョンやプランを議論しており、筆者も有識者委員として参画している。中でも、大阪開催ということもあり、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」※2の達成に貢献することもキーワードとなっている。万博も一つの契機に、若者の熱意や行動力が結実し、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」達成への布石になることを期待すると同時に、ごみゼロ共創ネットワークとしても、貢献していきたいと考えている。

二極化する若者

■図2 人は慣れて楽な方に流れるものだ。

他方、気になる調査結果もある。例えば、内閣府の2019(令和元)年の世論調査によると、プラスチックごみによる海の汚染などのプラスチックごみ問題に非常に関心があると答えた割合は、全体では33.5%だったものが、18~29歳の若者層では10.5%と顕著に低く、一方、関心がないと答えた割合は、全体では10.9%だったのが、若者層では25.9%と顕著に高くなっていた。つまり、高い知識レベルが必ずしも関心や意識につながってない可能性が示唆される。正確には、SDGsネイティブ世代は18歳以下が主対象となるため、今後の動向を注視しなければならない。また、同じく内閣府の2022(令和4)年の世論調査によると、レジ袋有料化や新しいプラスチック資源循環法の施行により、プラスチックごみ問題への関心や行動に変化があったか聞いたところ、「関心は高まったが、行動に変化はない」と答えた割合は、全体では16.2%だったものが、若者層では、25.5%と高くなった。
若者においては、先進関心層と無関心層の二極化が進んでいることを指摘する別の調査結果もある。この原因が何なのか、まさに重要な研究テーマになり得る。無関心層が多い理由の一つには、社会課題を自分事化できないという点が考えられる。自分に被害が及ばなければ、自分事として捉えることは簡単でない。他方、先進関心層、いや、たとえ無関心層と思われる若者であっても、海岸・河川・街中清掃のような実践活動を始めることにより、手応えや外部評価、仲間と取り組むことの喜びなどを味わい、それが強い推進力となり、自分事化するための知識を得つつ、どんどん進化する事例を目の当たりにしてきた。
SDGsネイティブ世代に感心するだけでなく、自分事化の仕組み作りができる、頑張る背中を見せられる、世代を超えて一緒に挑戦できる、そんな先輩世代になれればと思う。(了)

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