Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第538号(2023.01.05発行)

「海しる」海洋教育コンテンツ~海洋教育をGISで支える~

[KEYWORDS]気候危機/SDGs/初等・中等教育
海上保安庁海洋情報部情報利用推進課海洋空間情報室長◆山尾 理

小中学生や教職員を主な対象として、海洋についてインタラクティブに学習することができる海洋教育コンテンツを、海上保安庁海洋情報部が運用する海洋状況表示システム「海しる」に公開しました。
学年・単元毎にセットされた海洋情報を地図上で見ながら生徒自身がさまざまな操作を行うことで、海について興味を持って学んでいただきたいと願っています。

「海しる」とは

海運や水産など、海での活動では、海に関連するさまざまな情報を集約することが必要となる場合があります。こうした海のデータを集約し共有するというニーズに応えて、海の状況を総合的に把握するサービス「海洋状況表示システム」(愛称:「海しる」)※1が、内閣府総合海洋政策推進事務局の総合的な調整のもと、2019(平成31)年4月に運用を開始し、その当初から海上保安庁が運用を担当しています。「海しる」は、政府機関などが保有する250項目以上の海のデータを地図上に重ねて、世界中だれでも見ることができる情報サービスとなっています。
「海しる」では、掲載されている複数の海洋情報を透過機能などを用いて見やすく重ね合わせ、独自の地図を作製することができます。例えば「海上風」と「波の高さ」や「黒潮の位置」を重ねることで、船が安全かつ効率的に航行できる場所を見つけるなど、ユーザーそれぞれの利用目的に応じて、自由に地図を作製し使うことができます。海での活動には、海上安全、海洋開発、環境保全、水産等のさまざまな分野があり、それぞれの目的でさまざまな情報の取得を行ってきましたが、「海しる」を通じて、分野を横断したデータの共有・連携が可能となったことで、海洋情報の利用シーン拡大が見込まれ、データの有効活用につながっています。

「海しる」海洋教育コンテンツ

2019(令和元)年度に開催された「海洋状況表示システムの活用推進に関する検討会」などにおいて、多くの海洋情報を集約している「海しる」を使うことで、海洋教育の推進に貢献できるのではないかというご意見を多数いただいたことを受け、海上保安庁において「海しる」海洋教育コンテンツを開発し、2022(令和4)年9月に公開しました。
「海しる」海洋教育コンテンツでは、既に「海しる」に掲載されている多くの情報を用いて、海上の風や火山、地震などの自然情報や、水産業、海上での物流やエネルギー資源の利用などの社会情報が、小学校、中学校の理科、社会科で海について学ぶ単元ごとに網羅されており、効果的な学習につなげられる構成になっています。「海しる」海洋教育コンテンツの開発にあたっては、地理空間情報システム(Geographic Information System; GIS)の優位性を活かして、子どもたちに興味を持って学習を進めてもらえるようにとの願いを込め、掲載されている情報の内容や、情報の選択等の操作についての解説ページを作成しました。
「海しる」に掲載されている多くの情報のうち、学習指導要領に基づき学習単元に必要なコンテンツのみを表示した「海しる」に簡単にたどり着けるよう、ページ構成にも配慮しました。具体的には、「海しる」トップページから海洋教育コンテンツにアクセスし、単元を選択したのちに、解説ページを経て、必要な情報だけを表示した「海しる」まで、最低限の3クリックでたどり着けます(図1)。

海洋教育におけるねらい

■図1 「海しる」海洋教育コンテンツの一例
https://www.msil.go.jp/msil/Education/toppage.html

「海しる」を含むGIS全般の特徴ではありますが、上空から鳥の目で見るように、地域を一望することができるという特徴があります。自分の住んでいる地域など興味のある地域をクローズアップしてみることができる一方で、縮尺を小さく、引いてみることで、地球全体の海の様子を見たり、北極の氷の様子を見たりすることもできます。こうして地図上での移動、縮尺や、表示情報の切り替えなど、自身で操作することができるので、あたかも「海しる」上を旅するかのように楽しみながら学習できるのではないかと考えています。例えば、自分たちの住んでいる町から最も近い港に「海しる」上で行ってみて、そこにどれぐらい船が寄港しているのかを調べるといったことができます(図2)。海の上の風や波など、時々刻々と変わる海の姿については、リアルタイムの状況、まさに「今、海がどうなっているのか」を見ることもできます。
情報の重ね合わせによる効果もみられます。例えば、現在の洋上風力発電施設の位置に水深と海上での風速を重ね合わせることで、施設の立地条件がわかるなど、GIS上で情報どうしの関連性が一目でわかり、それぞれの情報単体ではわからなかった新しい気づきが生まれることが期待できます。学んでいる対象物の位置や周辺の情報を合わせて地図上で「視る」ことで知識の関連付けができ、興味関心が刺激されることで主体的な学びにつながると考えています。
海洋教育コンテンツで表示した情報に、「海しる」に存在する他の海洋情報を重ね合わせることができるほか、「海しる」上では、図を描いたり、テキストを入力したりすることもできます。こうして作成した資料をプリントアウトすることも保存することもできるため、例えば、提示された課題について「海しる」上で調査、分析し、資料作成まで一貫して生徒自身で行う、といったアクティブな学びにも利用できます。

■図2 身近な港の一例:鹿島港をクローズアップし、船舶通航量を調べる

さらなる発展を

「海しる」海洋教育コンテンツは、(一社)海洋産業研究・振興協会が内閣府総合海洋政策推進事務局の委託を受けて2019(令和元)年度に実施した「海洋状況表示システムの活用推進に関する検討会」での検討結果や、同じく2020(令和2)年度に実施した「海洋状況表示システムの利活用及び普及のための調査事業」の結果を参考に、内部でも議論を重ねながら開発を進め、万全を期してリリースしました。しかしながら、まだ開発サイドだけでは盛り込み切れていないアイディアがあるのではないか、特にユーザー視点でのご意見があるのではないかという想いがあります。そこで今後は、まずは教育現場の方々を始め、多くの方々に使っていただき、その上で、「海しる」トップページの「海しるの要望はこちら」等を通じて、一言でもご意見をいただきたい、と考えています。現場の先生方や使われた皆様の声に耳を傾けながら、「海しる」海洋教育コンテンツを、今後もさらに使いやすく海への関心を持ってもらいやすいものに発展させ、わが国の海洋教育を支える一助でありたいと願っています。(了)

  1. ※1「海洋状況表示システム」(愛称:「海しる」)
    https://www.msil.go.jp/

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