Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第535号(2022.11.20発行)

美しく豊かな海を未来につなぐために

[KEYWORDS]生物多様性/若者/将来世代
一般社団法人Change Our Next Decade代表理事、千葉大学大学院園芸学研究科博士後期課程3年◆矢動丸琴子

(一社)Change Our Next Decadeは「人と自然がより良く共生する社会の構築」を目指し、生物多様性保全の分野で幅広く活動する若者の団体である。
試行錯誤しながらも政策提言や普及啓発活動を継続して実施し、海洋生物多様性に関する課題の解決を目指している。
私たちの生きる未来でも美しく豊かな海洋の恵みを享受できるよう、今後も邁進していきたい。

抱く、海洋問題への危機意識

■図1 COND集合写真

(一社)Change Our Next Decade(通称COND)は「人と自然がより良く共生する社会の構築」を目指し、生物多様性保全の分野で政策提言・普及啓発・国際協働・意識調査などを幅広く実施する若者の団体です※1。2019年8月に設立し、2021年7月に法人化しました。メンバーは大学生・大学院生で構成されており、それぞれのメンバーが多様な専門性を活かしながら活動をしています。特に、生物多様性条約(CBD)やCBDに基づいて日本政府が策定する生物多様性国家戦略に焦点を当てており、2022年12月にカナダ・モントリオールで開催されるCBD-COP15パート2にも、メンバーが現地参加します(図1)。
生物多様性は包含する範囲が広く、分野も多岐に渡りますが、CONDが特に着目しているのは海洋生物多様性に関する諸課題です。気候変動やその対策による負の影響、海洋保護区の指定や管理、海洋プラスチック、富栄養化や汚染、漁獲量の減少、混獲や乱獲、海中騒音など、挙げ始めるときりがありません。例えば、海洋保護区の制定について、愛知目標11とSDG14.5にて設定された10%を保護区とするという目標値には到達したものの、短期間で変化する海洋環境に合わせた柔軟な対応が必要であると考えています。そのため、2030年までに陸域と海域の30%を保護区にするという国際的な目標である「30by30」の達成に向けた効果的な管理や、海のOECM(その他の効果的な区域型保全措置)の活用などの動向を注視しています。また、日本の「海洋生物多様性保全戦略」は2011年の制定後、1度も見直しが行われていません。10年以上が経過しているにも関わらず、見直しがされていない戦略が正しく機能しているのか、海洋保全に貢献しているのかについては、疑問を抱いています。そこでCONDでは、このような諸課題に対して、国内外での議論の動向や取り組み、漁業者を含む地域住民と自然保護の現状などに関する情報を日々収集し、団体内での議論を通して、政策提言文書の作成などを実施しています。
また、このような課題に加えて、2020年7月に起こったモーリシャス沖での重油流出事故の際には、事故の状況を知るために、現地の若者団体であるソラナチア(SovLanatir)などからも事故当時やその後の状況に関する現状について直接話を聞くことで情報を集めました。モーリシャスの豊かな自然環境が重油によって汚染されたことや地元住民の生活が脅かされていることにとても衝撃を受け、心を痛めました。海洋生態系の破壊や汚染によって一番に影響を受けるのは、その土地で海とともに暮らし、生活を営む地元住民だからです。このような現状を目の当たりにし、生態系の回復に何十年もかかると言われているこの事故を風化させないための取り組みや、二度と同様の事故を起こさないようにするための対策が必要だと感じました。そして、現地で聞いた話をもとにしたインタビュー動画の作成と配信、SNSでの事故概要解説の投稿、現地の若者団体と協力してのオンラインイベントの開催などを実施してきました。また、声明文をホームページ上に掲載し、意見表明を行いました※2。

「危機意識」で終わらせないために

これまでCONDは、東京都環境審議会企画政策部会、環境省生物多様性国家戦略小委員会、環境省・水産庁ご担当者との意見交換会など、さまざまな機会をいただき、海洋生物多様性に関する提言を行ってきました。このような機会を最大限に活かせるよう、提言文書を作成する際には、できるだけ多くの若者の率直な意見を集約することができるよう努めています。例えば、2021年6月に実施した環境省・水産庁ご担当者との意見交換会の際には、事前に海洋生物多様性に関するオンラインユースフォーラムを開催し、参加した30名程度の若者の意見をCONDが集約する形で提言書を作成し、意見交換に臨みました。また、その際の提言を軸として、国家戦略やその他の関連する動きに合わせて情報や提言内容を更新し、それぞれの機会やタイミングに合わせて提言書を作成しています。実際に、2021年12月に開催された第2回生物多様性国家戦略小委員会では、海洋生態系保全の重要性を認識し、これまで以上に対策を強化してほしいとの思いから下記の提言を発表しました。
− 海洋生態系の現状を把握し適切な保全を行っていくための基礎的知見集積の強化
− 次期生物多様性国家戦略の策定に合わせた海洋生物多様性保全戦略の見直しと改定
− 生態系保全を目的とする保護区の設置や、現在より短期間での海洋保護区や管理方法の見直し
− 海洋生態系に配慮しないかたちでの、洋上風力発電の設置や深海採鉱を伴う経済活動の禁止

私たちにできることを一歩ずつ

生物多様性条約や次期生物多様性国家戦略策定プロセスへの参画については、政策提言活動のみならず、イベントの実施やSNSでの普及啓発も同時に実施しています。2022年5月には、国際自然保護連合(IUCN)日本委員会が主催するリレー形式のオンラインシンポジウム「生物多様性国家戦略を考えるフォーラム2022」にて海洋問題について考える分科会を担当しました。この分科会では、海洋プラスチック問題、気候変動による影響、海域評価・保護地域指定の3つのテーマに関する研究者の方々にご講演を行っていただくとともに、その後のパネルディスカッションにて、今後どのようなことが必要になっていくのかなどについて議論を行いました。イベントを開催しただけで終わらせないために、この分科会での議論を含め、国家戦略に対する提言をまとめる作業を行っています。
最近では、生物多様性条約や関連する内容について関心を持ってもらいたいという考えから、さまざまなユース会議への参加や開催をしています(図2)。また、国際会議の期間に合わせて用語の解説を行う画像のSNSへの投稿やクイズ形式で国際会議について学ぶことのできる動画の作成と発信を実施しています。海洋に関する内容では、生物多様性条約の主要議題の1つであるEBSA(生態学的・生物学的に重要であると指定された海域)の意味や選定基準について解説しました(図3)。
このような取り組みを実施する中で上手くいくこともあれば、思い通りにならないことも多々あります。しかし、行動を起こし、試行錯誤しながらでも継続していくことが最も重要であると考えています。私たちの生きる未来でも美しく豊かな海洋の恵みを、現在と変わらず(願わくは今以上に安心して)享受できるよう、今後も邁進していきたいと思っています。(了)

■図2 2022年2月に共催した「プレ・ストックホルム+50ユース会議」のグループワークの様子(会場はスウェーデン大使館、前方向かって右のファシリテーターが筆者) ■図3 EBSAの解説ポスト
  1. ※1一般社団法人Change Our Next Decade ウェブサイト
    https://condx.jp/
  2. ※2https://condx.jp/media-210624/

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