Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第535号(2022.11.20発行)

アフリカにおけるブルーエコノミーの推進

[KEYWORDS]ブルーエコノミー/ブルーファイナンス/TICAD8
チュニジア国立海洋科学技術研究所(INSTM)教授◆Cherif SAMMARI

国連が「国連海洋科学の10年」を宣言し、アフリカでもブルーエコノミーの将来は有望視されるが、いまだ海洋やその資源の開発・利用は旧態依然としており、地域・国際レベルにおける連携・シナジーも十分ではない。
アフリカにおけるブルーエコノミー政策の早期実施のためにも、海洋ガバナンスや新しいコンセプトを適用した制度の策定が重要となり、地域間協力と国際協力によって推進していきたいと考える。

ブルーエコノミーへの期待

この10年間、海洋と海洋科学に対する関心が再び高まりを見せている。科学技術の進歩により、海洋と持続可能な開発を巡る主要課題に対し信頼性の高い回答を導き出すことが可能になった。しかし、今なお残るさまざまな不確定要素や諸課題は、研究者のみならず一般市民の間でも不安視されている。具体的には気候変動とその影響、海洋生物資源の枯渇、さらには気温調整に大きな役割を担う海洋の機能などが挙げられる。このほか、都市の開発圧力や沿岸域に対する影響なども極めて重要なテーマである。
こうした背景下で注目を集めているブルーエコノミーは、国際機関においても社会的包摂や資源保全の有力な手段とみなされるようになった。国連も海洋の重要性を認識し、2021~2030年の10年間を「国連海洋科学の10年」と宣言した。その最終目標は学術や経済、社会、ガバナンスなどの分野におけるシナジーを一層高めることである。市民科学を確立し、社会の発展に資する学術研究の成果をより「見える化」することが必要不可欠である。
2019年、アフリカ連合(AU)が発表した『アフリカのブルーエコノミー戦略』※1によれば、ブルーエコノミー関連セクターとその構成部門が2,960億米ドルの付加価値と4,900万人の雇用を創出している。これらの創出価値・雇用は、2030年には4,050億米ドルと5,700万人に、2063年には5,760億米ドル(図1)と7,800万人に達すると予測されている。
このようにブルーエコノミーの将来は有望だが、海洋やその資源の開発・利用には今なお旧態依然とした方法が用いられている。直線的で細分化され、かつセクター別に独立したアプローチがとられており、地球規模、国家間、国内の各レベルや関係セクター間の連携・シナジーも十分ではない。実際、加盟国の多くは未加工製品や原材料(魚、鉱物、油など)を輸出し続けているが、これらはいずれも自国内で加工することで利益を得ることができるものである。あらゆる分野における付加価値の創出やサプライチェーン全体の最適な社会的統合のためには、新たなブルーファイナンスのメカニズムを通じた投資による支援が欠かせない。ただし、投資を確保するには障壁を取り除く必要がある。優先的な投資の対象としてはイノベーションや技術移転が挙げられるだろう。

■図1 アフリカにおけるブルーエコノミー関連セクターの付加価値とその構成部門

アフリカにおける取り組み

国連アフリカ経済委員会(ECA)は2016年にこの問題を取り上げ※2、アフリカにおけるブルーエコノミーにとって最も望ましい新たな枠組みのベースとして、統合的、体系的、動的、包摂的、参加型の、そして生態系に基づくアプローチを提案している(図2)。このアプローチは、セクター間の障壁を事業活動レベルで最小限に抑制し、地域・国際レベルで環境、社会および経済の各側面のつながりを強化する新たなガバナンス方式の提案でもある。
前述の『アフリカのブルーエコノミー戦略』では、従来の開発モデルを改め、包摂的かつ持続可能なブルーエコノミーの新たな土台を築くことによりアフリカ大陸の変革と成長に大きく寄与する、と指摘されている。この文書には克服すべき全ての課題(経済、社会、食糧、環境、海洋空間計画(MSP)、海洋生態系、海洋の安全と治安、付加価値の創造など)が列挙されているが、最も注目すべきは海洋ガバナンスに関する課題である。現在多方面で進展がみられるにもかかわらず、実際にはガバナンスや制度上の問題が山積しており、このためアフリカのブルーエコノミーに関する新しいコンセプトを適用した成長政策、また環境保護や生態系の健全性回復に資する政策を策定・実施する上で、各加盟国が十分にその力を発揮できなくなっているという。つまり海洋開発への投資を確保するには効果的な政策・規則の枠組みと、イノベーション、技術移転および開発促進につながる環境整備への政策が求められている。ブルーエコノミー分野で国や地域の主要機関・組織が実のある取組みを実行するためには、その制度的な能力強化につながる枠組みや政策を導入すべきである。
また研究と教育は、アフリカにおけるブルーエコノミーの発展に不可欠な2本の柱である。現在、研究・教育活動は漁業と養殖を対象とするものが多く、再生可能エネルギーや深海の資源開発、石油、ガスなどのセクター(アフリカの教育・研究機関との結びつきが弱い多国籍企業)に関しては専門知識が圧倒的に不足している。ブルーエコノミー関連セクターとその構成部門(ブルーカーボンなど)の重要性が増す現在、南アフリカやセイシェル、モーリシャス、ガーナなどの国においては新たな教育プログラムの開発が進んでおり、こうした動きは2063年まで続くものと思われる※3

■図2 アフリカにおける望ましいブルーエコノミーの枠組み

地域間協力と国際協力の動き

最近では優先政策として持続可能なブルーエコノミーの推進を掲げる沿岸・島嶼諸国も多く、第2回国連海洋会議(2022年6月27日~7月1日、リスボン)でもこのテーマが議論された。また第8回アフリカ開発会議(TICAD8、2022年8月27~28日、チュニジア)では、アフリカにおける持続可能なブルーエコノミーの推進に向けた地域間協力と国際パートナーシップが主要テーマとして掲げられた。こうした追い風を受け、チュニジア国立海洋科学技術研究所(INSTM)と日本の海洋政策研究所(OPRI)は、TICAD8において、ブルーエコノミーに特化した国際ワークショップと、公式サイドイベント「アフリカにおけるブルーエコノミー推進のための持続可能な漁業と養殖業開発に関する政策対話‐地域協力と国際連携」を開催した。これらのイベントでは国内外の専門家(アフリカのための全球海洋観測システム(GOOS-AFRICA)、国連食糧農業機関(FAO)、政府間海洋学委員会・アフリカ小委員会(IOCAFRICA)、国際協力機構(JICA)、国連工業開発機関(UNIDO)、国連開発計画(UNDP)、世界自然保護基金(WWF)など)の間で意見交換が行われ、現状確認とともにアフリカにおけるブルーエコノミー政策の早期実施に向けた複数の提言が示された。提言は主に、地域レベルで構成されるプロジェクトを通じたガバナンスと知識の拡充に関するものであった。専門家のグループでの連携を進め、提言の実施状況を監視するとともに、社会的包摂の大きな役割を担う海洋事業の具体化を進めている。今後も多くの国々や諸機関と協力し、アフリカにおけるブルーエコノミーを推進していきたい。(了)

  1. ※1“Stratégie de l'économie bleue de l'Afrique” UA-BIRA, 2019,Nairobi, Kenya
    http://repository.au-ibar.org/handle/123456789/511
  2. ※2“Africa's Blue Economy: A policy handbook.” 国連アフリカ経済委員会(ECA),2016
    https://www.un.org/africarenewal/documents/africas-blue-economy-policy-handbook
  3. ※32013年のアフリカ首脳会議で採択された行動計画参照。
    https://www.nepad.org/file-download/download/public/121894
  4. 本稿は、仏語でご寄稿いただいた原文を事務局が翻案したものです。原文は、当財団英文サイトでご覧いただけます。
    https://www.spf.org/opri/en/newsletter/

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