Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第530号(2022.09.05発行)

有明海の干潟がつなぐ高校生の環境保全活動

[KEYWORDS]世代融合/環有明海高校生サミット/高校生の環境保全活動
森里海を結ぶフォーラム事務局担当、「環有明海高校生サミット」主催者◆鈴木弘章

2022年3月に有明海の干潟がつなぐ高校生のつどい「環有明海高校生サミット」を開催した。
2団体4校の高校生たちによる環境保全活動の発表と干潟にまつわる議論は、有明海の干潟を介して世代を超えたつながりを育み、未来への一歩を踏み出すきっかけとなった。

高校生サミット企画の背景

2021年10月、長崎県諫早市で「多良岳に感謝の会」と森里海を結ぶフォーラム実行委員会が、「第1回 森里海を結ぶフォーラム」を開催しました。その発起人は、森から海までの多様なつながりとその再生を目指す「森里海連環学」を創設した京都大学名誉教授の田中克先生です。会社員の筆者は、知人であるNPO法人シマフクロウ・エイド事務局長の菅野直子さんの紹介で田中先生と出会い、森里海を結ぶフォーラム実行委員会の事務局を務めました。今も任意団体「森里海を結ぶフォーラム」の一員として活動しています。
この第1回フォーラムでは最後に「森里海宣言」が行われ、やながわ有明海水族館館長で高校2年生(当時)の亀井祐介さんが「一番の絶滅危惧種は自然の中で遊ぶ子どもである」と発言しました。自然の中で遊ぶ子どもの少なさに日頃から危機感を抱いていた筆者は、世代を融合して取り組まなくてはいけない喫緊の課題であると気付かされました。
同フォーラムでは、「Fridays For Future Nagasaki」(以下、FFF長崎)の若者たちにも出会いました。FFF長崎はフォーラム参加前に、気候非常事態宣言の発出などを求めて請願書を長崎県議会に提出していましたが、その請願は後日、不採択となりました。FFF長崎から経緯を聞いた筆者は、若者世代と議員世代がお互いの考えを理解し合い、共に歩まなければ“いのち育む時代”は訪れないと確信し、世代を超えたつながりを育み未来への一歩を踏み出すことを目的とした「環有明海高校生サミット」の開催を決意しました。

実現した「環有明海高校生サミット」

「環有明海高校生サミット」は、(1)体験活動を通じてからだ全体で自然の大切さを感じ、豊かな未来を考える時間を設ける、(2)環境活動に取り組んでいる同世代の若者たちが、対面でお互いの取り組みや考えを報告し共感し合う、(3)若者の環境活動を理解ある大人に伝え、賛同者や支援者を増やし活動を支える基盤を築く、という3つの目標を掲げました。
美しい景観と特有な生態系に加えて貴重な漁業資源の宝庫として、かつて「宝の海」と呼ばれていた有明海。しかしながら、近年は赤潮の多発や海苔生産の不安定化、タイラギやアサリなど二枚貝類の著しい減少など、海域環境の変化と生態系の危機に直面しています。これら情報は新聞やネットニュースでも度々取り上げられていますが、海へ足を運ばなくなった若者にとっては遠い世界の話でしょう。そこで、有明海に面する九州4県(福岡、佐賀、長崎、熊本)の若者が有明海を訪れ、有明海の特徴の一つである干潟に直に触れることが体験活動に望ましいと考え、干潟が目前に広がる佐賀県の鹿島市干潟交流館を会場に選定しました。サミットのコーディネーターは長崎県出身で有明海に詳しい佐賀大学経済学部の樫澤秀木教授に引き受けていただきました。
2団体4校の参加が確定した秋以後は先生方だけでなく高校生にもオンラインミーティングに参加していただき、意見を聞きながら全体構想を固めていきました。結果、チラシ(図1)はエネルギーにあふれ、「新しい干潟遊びの提案」と「海の生きものと人が共生するためにできることは何か?」という魅力的な議題も設定できました。

高校生と大人世代をつなぐ

■図1 FFF長崎 林田芽依さん作成のチラシ■図2 福岡県から伝習館高校とやながわ有明海水族館、佐賀県から龍谷高校と鹿島高校、熊本県から芦北高校、長崎県からFFF長崎が有明海の干潟に集まった。

高校生中心のイベントということで年度内に完結する必要がありましたが、2022年1月になっても新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着かず、結果的にサミットを2部構成にし、第1部はオンラインでの大人向けの発表、第2部は鹿島市干潟交流館での若者中心の集いとしました。
第1部は3月3、10、17日にオンラインで開催しました。各回50~100名程度、40~80代の大人が全国から参加し、質疑応答を通じて高校生と考えや意見を交換しました。熊本県の芦北高校林業科の生徒たちは、林業技術を応用してアマモの花枝をロープで固定して落ちた種子からアマモ場を見事に再生させたものの、令和2年(2020年)7月豪雨で一夜にして大部分が消失したと写真やグラフを交えて報告しました。そのほかにも計5つの団体と高校による活発な活動報告が続き、参加した大人から「既に大学の修士論文レベル」とのご意見もいただきました。若者たちの励みになったことは間違いありません。FFF長崎の高校生たちが請願書提出の試みを報告して、請願に必要な手続きに伴う苦労を語り、「もっと県民の声が届きやすい仕組みを」と大人たちに問題提起する一幕もありました。
第2部は3月21日に鹿島市干潟交流館で対面開催しました。潮が満ちゆく有明海を眺めつつ緊張した面持ちで会場を訪れた若者たちは、互いの発表を聞きディスカッションで意見を交し合うことで、次第に打ち解けていきました。14時からの干潟体験では、11時が満潮で昼休みは海水に満ちていた有明海が広大な干潟へと変わったことに共に驚きました。冬の終わりの干潟の、やや強めの匂いすらも楽しみながら泥に触れ、カニやムツゴロウを見つけて喜ぶ若者たちの笑顔が印象的でした。
午前のディスカッション「干潟の自然遊びを提案」では発言が消極的な若者たちでしたが、干潟体験を終えた午後のディスカッション「海の生きものと人の共生を考える」では積極的に意見交換し、まとめ発表では「エネルギーをつくりながら漁場を形成する洋上風力発電や、クラゲをとり過ぎず成分だけ利用する研究のように、人間の利益のために環境を壊すのではなく両立できる方法を考えたい」などと討議結果を熱く語ってくれました。「生態系で上位を占める鳥が干潟にたくさんいるということは、それだけ生態系の土台がしっかりしているのだと思う。そこで生活をしている生きものにとっては茶色に価値があり、(中略)汚いって思われがちな干潟は、実はめちゃくちゃきれいなんだよ、ということを多くの人に知ってもらうことが、人と生きものが共生していく上で一番大切なんじゃないかと感じました」。これも高校生が語った言葉です※1
後日開催したアフターミーティングで、高校生は「環境を良くしていくためには人の心から変えていかないといけない。干潟での遊び、植林、何でもよいがフィールドワークで時間と場所を共有することでそれぞれの意見が共有され、それぞれの分野がつながると感じた」と語り、高校の先生からは「進路が不透明だった生徒がサミット参加後に明確な進路目標を定め動き出した」と報告いただきました。主催メンバー数名はサミットの3カ月後に芦北高校のアマモ再生場を訪れて花枝の植え付け作業を見学し、高校生たちの楽しそうな様子に感動しました。これからも、各団体の活動体験を企画し、アイデアを出し合いながら相互のつながりを深めていく予定です。(了)

  1. ※1YouTubeチャンネル「森里海を結ぶフォーラム」でアーカイブが公開されている。https://www.youtube.com/channel/UCeIsbVyFjDZ0Zg0M4uFigBw/

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