Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第530号(2022.09.05発行)

「私たちの海洋会議」のコミットメント〜その意義と課題〜

[KEYWORDS]コミットメント/パラオ/海洋の持続可能性
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所上席研究員◆渡邉 敦

「私たちの海洋会議(Our Ocean Conference)」という海洋の持続可能性に関するハイレベル国際会議のコミットメントとはどの様なもので、どのようにしてその透明性を担保しインパクトを高めることができるのか、留意点を解説する。

海洋の国際会議とコミットメント

日本政府のコミットメントを発表する、内閣府の総合海洋政策推進事務局の吉田幸三次長。

法的拘束力を持つ国際的な協定に対する国家の取り組みとは別に、近年国際的な持続可能性に係る政策議論の中で、自主的なコミットメント(取り組み)の誓約が主流化している。海洋のように多くの関係者が同じ空間を利用し、その影響が空間を超えて波及する場では、国家はもちろん、NGO、市民団体、民間、ユースグループなど多くの利害関係者が、お互いに足を引っ張り合うのではなく、手を取り合い持続可能な利用に向け協働する必要がある。コミットメントの誓約により、分野間の障壁を壊し、協働の敷居を下げ、皆が自分事として行動することに繋がると期待される。
海洋に関するコミットメントを提出する主要な国際会議として、2014年に米国務長官(当時)のジョン・ケリー氏の主導で開始した「私たちの海洋会議」(以下OOC)がある。2022年の4月13、14日には第7回OOC※1がパラオで開催され、これまでの7回の会議を通じ、気候変動、ブルーエコノミー、持続可能な漁業、海洋保護区、海洋汚染、海洋安全保障の主要6テーマとOOC開催の表明、の計7分野に合計1,800件以上、総額1,080億米ドル相当のコミットメントが集まっている。

パラオ会議のコミットメントの特色

ここで、日本財団とともに海洋政策研究所が開催に向け、2020年から協力してきたパラオでの第7回OOCについて、そのコミットメントの特色を考察したい。パラオ会議では411件のコミットメントが宣言され、その総額は163.5億米ドルに上った。今回のコミットメントの総額は2019年のノルウェー会議に継ぐ2番目の規模で、コミットメント数も2017年のマルタ会議に継ぐ多さとなった。またテーマ別では、気候変動とブルーエコノミーのコミットメント数が各々20%程度と高く、これらの分野への関心が高いことが示された。また安全保障のコミットメントも10%程度と過去の会議と比べやや高めであった。
こうした数字上の傾向は、OOCが初めて小島嶼国で開催されたことと無関係ではないだろう。気候変動が最大の危機と捉えられている小島嶼国では、自然を活用した気候変動対策や自然再生関係が重要視される。また先進国によるグリーン海運回廊構想※2や「クライドバンク宣言」(2021年)※3など海運分野の脱炭素化や、コロナ禍で甚大な影響を受けた観光分野の持続可能性を高める施策、また沿岸域の資源利用と保全のバランスを取り沿岸住民のレジリエンスを強化する取り組みがブルーエコノミーのコミットメントとして多く宣言された。安全保障でも、島嶼国で問題となる違法・無報告・無規制(IUU)漁業や漁業犯罪対策、海上保安能力の強化など、地域で必要とされる分野のコミットメントが多く見られた。
今回の会議でコミットメントを誓約した主体しては、米国が111件と圧倒的に多く、次いでEUの44件、日本の35件、台湾の21件、ノルウェーの20件と続いた。過去の会議と比べ、政府系機関のコミットメントの比率が59%から65%と増え、民間セクターのそれが10%から3%と減少した。この理由は今後詳細な分析が必要であるが、民間企業はコロナ禍で開催が不透明だった対面での会議に参加することを躊躇した、ということも理由と考えられる。
OOCのコミットメントは、レジストリという登録サイトを通じ各組織、団体が登録し、それをホストが査読した上で、修正を要求するか却下するか、あるいは承認するかを審査する。承認されたものは、最終的にレジストリ上で出版されると、ウェッブ上に公開される。今回のホストはパラオ政府の関係者とパラオ国内の研究機関の専門家が務め、海洋政策研究所も関与して進めて来たが、2021年に米国とパラオの両政権が交代して以降、米国務省関係者がホストに加わり審査等の作業が進められた。審査のポイントとして予算の多寡も考慮されるが、そのコミットメントが革新的で大きなインパクト、波及効果をもたらしうるか、過去に提出されたコミットメントの単なる延長や焼き直しで無いか、などが重視される。なお、海洋政策研究所もブルーカーボンを含むブルーエコノミーで3件、持続可能な漁業で1件のコミットメントを登録し、承認された。

■図 第7回OOCの主要6テーマのコミットメント数と予算規模(筆者作成)

コミットメントシステムの課題と改善に向け

ここまで見て来たように、自発的コミットメントは海洋の持続可能な利用を議論する国際会議において、その重要性を近年増している。一方で、課題も多く抱えている。最も重要な課題は、過去に誓約されたコミットメントの優良事例やインパクト、また失敗の原因とその解決に必要な施策に関して、情報が共有される仕組みが会議のプロセスに無い点だ。こうした問題点は既に海外の研究者から指摘されており、OOCでのコミットメントが空約束なのか、それとも有意義な進展をもたらしているのかについて、海洋保護区と持続可能な漁業の2テーマについては、評価がなされている。海洋保護区のコミットメントについては、誓約の明確さと追跡可能性を改善し、成果のモニタリングを容易にする必要性が指摘された。持続可能な漁業に関しても、概ねコミットメントが現実のものになっていると評価される一方で、誓約の透明性と有効性を高めるために、その影響を文書化し評価することにもっと重点を置くべきであると指摘されている。
他の4テーマについても、同様に達成状況を評価し、OOCの過去と未来のホストに還元する必要がある。また登録されたコミットメントの審査者は、過去のOOCで登録されたコミットメントとの重複や、各テーマの世界動向や新規性、インパクトを客観的に評価できる専門性が求められる。こうした専門家グループを常に組織化し、OOCのコミットメントを評価できる体制作りも重要になるだろう。漁獲量が多く、海洋の持続可能性を考える上で重要なアクターである中国やロシアの誓約したコミットメントが、ほとんど無いか皆無であることも重大な課題として指摘されている。
2023年に予定されている第8回OOCはパナマがホストを務め、2024年の第9回OOCはギリシャがホストになると最近公表された。海洋政策研究所も今回のパラオでの経験を活かし、コミットメントの評価やそれに基づく改善点の提案、専門家としての政策評価の実施などを通じ、こうした会議の有効性・透明性・波及効果を高めるよう努めていく所存である。(了)

  1. ※1OurOceanConferenceの開催概要 https://www.spf.org/opri/news/20220408.html
  2. ※2グリーン海運回廊=ゼロエミッション船を航行させ、支援する、主要ハブ港間を結ぶ特定の航路
  3. ※3クライドバンク宣言=2021年11月10日、日本を含む19か国により署名された。国際海運からの温室効果ガス排出削減のためグリーン海運回廊の開設を目指す。

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