Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第526号(2022.07.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

◆「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの砂粒からアミノ酸が検出されたことが、2022年6月、岡山大学を中心とするJAXAなどのチームにより国際誌に発表された。一方、地球の深海底では、海底下750mの栄養源に乏しい海洋地殻に生きる微生物、あるいは海底下1,200mで生死は不明だが微生物コロニーの存在が、海底科学掘削の岩石試料より発見されている。さらなる深部には何が見つかるのだろうか。生命の起源や進化に迫る人類の長年の謎が、宇宙からも地球深部(海底下)からも、そして実験室での検証からも、科学的に解き明かされようとしている。
◆海洋観測技術の発展は、より解像度や時間分解能のよい観測データの技術取得を可能にしている。それらを利用する側の陸上に、速く確実にリアルタイムに伝達する技術があれば、海洋科学、海洋産業のさらなる発展が見込める。それが水中光無線通信である。(株)島津製作所航空機器事業部磁気装置部の西村直喜部長は、水中では青色~緑色光の波長で透過率が高いという電磁波の伝搬特性に着目し、通信距離120m、通信速度20MbpsをJAMSTECとの共同開発で達成された。さらなる広範囲、大容量のデータを扱う日も間近である。並行して水中ロボットと水中ステーションの開発も進む。世界より一歩先んじる開発に期待したい。
◆鵜匠はウミウの目を通して魚を捕える。日本の鵜飼には1,300年以上の歴史があるが、鵜飼のウミウは産卵しないとされていた。しかし、2014年以降、人工繁殖が成功している。国立民族博物館人類文明誌研究部の卯田宗平准教授より、飼育下のウミウの産卵、雛と幼鳥の成長の記録をご報告いただいた。鵜飼は夏の風物詩であり、コロナ禍が落ち着いてきた今夏は、楽しむ人が増えている。鵜飼のウミウの人工繁殖の成功が、鵜飼文化の継承に追い風となることを期待したい。
◆海と博物館研究所の高田浩二所長より、2022年4月8日に成立し、2023年4月1日に施行される改正博物館法についてご寄稿いただいた。博物館は専門性が多岐にわたり、水族館にも博物館法が適用される。改正の一つは、博物館資料に係る電磁的記録の作成と公開の明記であり、デジタル化の方向のさらなる推進である。これにより、デジタル化が進む学校教育でも、博物館のデジタル・アーカイブの利用が見込まれる。博物館法改正には児童生徒が博物館発展の後押しをする可能性も秘められていると高田氏は書かれている。海洋教育のデジタル化への期待も大きい。ご一読ください。(窪川かおる)

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