Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第520号(2022.04.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

◆4月は新人の季節である。対面での入社式や入学式になれば喜びも大きいだろう。COVID-19はインターネットでの情報の発信と視聴を社会のスタンダードにし、人々のSNS配信は国境を越えて社会を変容させた。海も国や地域の境を超えなければ持続可能な海に変化しない。新刊『コモンズとしての海』(下記参照)では海の温暖化問題をコモンズの視点から論じられているので是非ご一読いただきたい。
◆温室効果ガスの排出量削減のため、船底と水との摩擦抵抗を空気の被膜により低減する空気潤滑技術が注目されている。(国研)物質・材料研究機構理事長特別補佐の内藤昌信氏のグループは、超撥水性の船底塗料の開発に成功した。その技術は、ハスの葉の撥水や潜水バエが全身の体毛に空気を溜めることに学んだという。ハリセンボンの棘の形から耐久性も高められた。生物の生存戦略に驚くが、それを応用した海洋技術の革新に期待したい。
◆東京農工大学農学研究院共生持続社会学部門の高橋美貴教授より近世の駿河湾沿岸での漁法と資源管理について教えていただいた。カツオ・マグロなどの回遊魚の立漁を生業とした村々には、回遊魚の移動に「魚道の論理」なる漁業秩序があり、気候変動による周期的な不漁期には、山稼ぎと農耕が重要であった。しかし森林資源の過剰利用で獣害が増え、対策コストが増加した。ついに20世紀初頭には漁船の動力化に伴い立漁は、カツオの一本釣漁や生簀業などに代わっていった。資源を利用し尽くした後の戦略であった。
◆岸壁幼魚採集家であり海あそび塾塾長である鈴木香里武氏は、約30年間、漁港で流れ藻と一緒に流入する幼魚等の観察を続け、日々SNSに海や幼魚の映像を投稿されている。今は流れ藻と一緒に漁港に流入する海洋ゴミの問題とも向き合う。ゴミに対する人間の考え方は、ゴミを隠れ場にする幼魚には当てはめられない。かわいい幼魚への関心から見る人の気持ちが、ゴミ問題に自然に向いて欲しいと願って海洋リテラシーを進める鈴木氏を応援したい。(窪川かおる)

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