Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第517号(2022.02.20発行)

全国に島ファンを増やす「離島百貨店」

[KEYWORDS] 離島/離島産品/販路開拓
(一社)離島百貨店◆杉崎存紗
(株)離島キッチン代表取締役◆小池 岬

日本にある416もの有人離島は、その多くが人口減少や稼ぐ力の不足など、共通の問題を抱えている。
そこで、全国の離島同士や離島と離島ファンをつなぎ、問題を解決するための組織として設立されたのが、離島百貨店である。
本稿では、離島が連携することで、会員企業や関係省庁をも巻き込み、相互にメリットのある形で事業提案や事業推進のサポートを行っている事例と、今後の海洋資産を活かした問題解決への挑戦について紹介する。

離島百貨店設立の経緯とこれまでの取り組み

日本にある416もの有人離島は、その多くが人口減少や後継者不足、稼ぐ力の不足など、大きく深い問題を共通して抱えている。特に、稼ぐ力については、1970年代の離島ブーム・1990年代〜2000年代の町村合併時に構築された、「薄利多売」のビジネスモデルに沿った事業から脱することができておらず、今後の離島の地域経営に必要な「厚利少売」のビジネスモデルへの転換に積極的に取り組む必要がある。それにもかかわらず、市町村単位の自治体が個々にヒトモノカネを使い、大きな課題に抗う力のない小さな取り組みしかできずに終わるというのが、離島および地方の地域活性化の取り組みの常である。
そこで(一社)離島百貨店は、全国の離島同士や、離島と離島ファンをつなぐためのプラットフォームを提供し、離島が連携することで、会員企業や関係省庁をも巻き込み、相互にメリットのある形で事業提案や事業推進のサポートを行っている。取り組みのうちの一つである、離島産品の販路開拓については、離島ファンを囲い込む飲食店型アンテナショップの「離島キッチン」、10日間で40万人以上を動員する東京ドームの「ふるさと祭り東京」、羽田空港第2ターミナル「ANA FESTA」など多くの企業と協力体制を結び取り組んでいるところである。

■離島百貨店が創る循環

協力企業「離島キッチン」について

■離島百貨店(離島キッチン日本橋店)

2005年に隠岐諸島にある海士町で冷凍新技術CAS(Cells Alive System、細胞を壊さない=うまみを逃がさない冷凍技術)が導入され、島で獲れる魚介類の付加価値を高めようと2009年に始まったのが離島キッチンプロジェクトである。「離島」という誰もが知るキーワードを入口に、多くの人が海士町を知るきっかけを作ってきた。当初はキッチンカーで、島のものを手売りする行商活動を主軸に全国各地をまわる営業スタイルであった。活動を地道に続けることで次第に話題を呼び、2015年には海士町観光協会による直営店「離島キッチン神楽坂店」をオープン。2017年には利尻島と連携して札幌店、そして2018年には情報発信・マーケティング拠点として総合アンテナショップ離島キッチン(東京日本橋)をオープンしている。
コロナ禍では、緊急事態宣言等によって外出自粛が続き、自宅で過ごす時間が増えたことで食材への関心も高まる傾向にある。離島キッチン日本橋店では、漬け丼の素(魚介類を醤油タレに漬け込み冷凍加工したもの)や海藻などの乾物がより売れるようになり、地方の食材への関心の高さを実感している。このような「お取り寄せ」需要の高まりに応えるべく、協力企業である離島キッチンではオンラインショップを開設した。離島はどうしても物流費が高くなるため、(一社)離島百貨店の取り組みと連携し、物流費を最適化する仕組みの構築にも取り組んでいる。
地方食材へのニーズが高まったことで、商業施設やデパートでの離島商品を集めた物産展の展開や、離島商品を取り扱いたい小売店や百貨店、飲食店への商品展開などが活発化している。民間企業との協業では、離島と離島が連携することで生み出される強みを活かして取り組んでいる。強みの一つ目は、離島が日本列島を囲むように点在していることである。日本には人が住んでいる島が400島以上あり、日本の北から南までを網羅した商品展開ができる。このことは消費者にとってもこれまで知らなかった離島を知るきっかけになっている。二つ目は、様々な種類の商品が揃うこと。その島にはその島の歴史・文化・地形があり、それによって育まれてきた食材が多くある。商品の種類が豊富なことは、さまざまなニーズに応える可能性や企画の幅を広げてくれる。肉・野菜・海産物など様々な商品展開ができるのは、離島が連携することによる強みである。商品の販路拡充に邁進し、離島と離島のより多くの連携を実現していきたい。

これからの離島百貨店の取り組み

今後も、離島キッチンのような、志に共感し、離島が連携し発信できる場を提供してくれる企業と自治体の架け橋となりながら、全国に島ファンを増やすことを目指す。特に海洋に関わる今後の取り組みとしては、下記2点を進めていく予定である。
(1)離島に最適化したバリューチェーン確立
離島キッチン社でも扱っている冷凍新技術CASを活用し、離島の海産物をはじめとした商品の安全規格を国際標準規格(ISO)に合わせた上で、首都圏近くに離島倉庫を設置、物流企業と連携し大手ホテル・コンビニをはじめとした販路を確立し、これまでの「薄利少売」の離島水産業を「厚利多売」に転換することに挑戦する。冷凍食品は、通常なら旬の時期に需要対供給の影響で買取価格が落ち込んでしまう海産物を、保存がきくようにすることで年間を通じた需要に対応できるため、旬の時期であっても高い買取額が実現できる。高値によって、漁業事業者に入るお金が増え、産業の衰退を食い止めることにもつながる。また、食品ロスの削減にもつながるため、今後SDGsが推進される世の中ではさらに付加価値が高まると考えている。
(2)ブルーカーボンに着目した環境保全活動
現在、海中に吸収されるCO2がブルーカーボンと呼ばれ注目されている。これまで一般的だった陸上の植林に対して、海中に海藻の植林を進めることで、大気中のCO2量を減らす取り組みである。離島では陸地が少ない分、海を活用することでカーボンニュートラルに貢献できることが期待されており、さらに、海の植林を行うことは、海中の生態系を豊かにするため、海産物への好影響も見込まれている。自治体・協力企業と調整を進め、企業版ふるさと納税制度も活用することで、離島自治体の資金調達手段として確立することを目指している。
本誌の読者の方々には既知のことと思うが、このように、海洋は離島ひいては日本、ひいては世界の大切な資産であり、企業や省庁、自治体が力を合わせ、海洋を持続可能な形で開発することで、環境問題をはじめ、現在抱えている多くのイシューの解決策と成り得る。ただし、離島に単純に技術を持ち込んだだけでは、物事は進まない。物事を進めるには、お金・当事者など継続可能となる仕組みの建て付けを地域密着型で行っていくことが必須であり、(一社)離島百貨店の存在意義はここにある。今後も海洋を活用したい方や離島を応援したい方の窓口としての取り組みを、温かい目で応援いただけたら嬉しく思う。(了)

  1. 離島キッチン・オンラインショップ(Yahoo!店)https://store.shopping.yahoo.co.jp/ritohyakka/自社サイトのショップも2022年中に再開予定

第517号(2022.02.20発行)のその他の記事

ページトップ