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オーシャンニューズレター

第517号(2022.02.20発行)

新素材ブロックを用いたブルーカーボン創出

[KEYWORDS] 銅スラグモルタル/藻場造成/ブルーカーボン
電源開発(株)茅ケ崎研究所所長◆鍵本広之

いくら良いものでも高額では使えない。工事で大量に使用するコンクリートの代替材料はまさにそうで、これを革新的技術で開発する前にできるローテクな工夫がある。
ここでは電源開発(株)が開発・利用している「藻場造成効果を持つ低炭素素材」について紹介する。
この取り組みを通して身近でできる低炭素社会への貢献について考えてもらえればありがたい。

低炭素素材の開発と利用

■写真1 一般のコンクリートブロック(左)と銅スラグモルタルブロック(右)

脱炭素社会の実現に向け様々な革新的取り組みが行われている。それはそれとして、足元でできることを考えることも重要である。既存の基準や考え方を少し緩和することで大きなCO2削減ができることをどれほど意識しているだろうか。気付いてはいるがいろんな制約があるので難しいと、できないことにしてしまっていることが意外に多いものである。
消波ブロックとは、波の影響を緩和し護岸を保護する構造物だ。沿岸地域での人の活動を考えたとき、国土保全や防災上の観点で消波ブロックを設置せざるを得ない場合がある。消波ブロックは通常コンクリート製だが当然重い方が安定は良くなるので、電源開発(株)では重量骨材(銅スラグ)を多量に利用したモルタル(以下、銅スラグモルタル)を用いてブロックを製作している(写真1)。セメントを極力少量に抑える一方、粉体である石炭灰を補い簡易な製造設備で製造し継続的に使用している。過去5年間で約10tの消波ブロックを合計2,000個程度製造・使用しているが、コンクリートと比較し品質は同等であるにも係わらず、重量が2割程度重く、製造コストは2割程安い。性能アップとコストダウンを実現している。
一般にコンクリートはJISなどの規格・規準に沿って材料や製造方法を選択するのが標準のやり方だが、「いま求めている品質は何か?」を考え、必要でないものは省略し極力シンプルにすることで、使用できる材料の幅が広がりコストも安くできる。適当にやっているのでは?と疑う方もおられるかもしれないが決してそんなことはなく、出来上がった製品品質に関してはコンクリート工学で求められる評価項目をJIS等の規格・規準試験によって評価し、問題ないことを確認して使用している。きっちり評価し、よい加減を見つけて実施に移しているということだ。ポイントは「求めるものが何で、そのために最低限おさえておかねばならないことが何なのか」を見定め実行することである。
また、上記の銅スラグモルタルを低炭素性の観点で見たとき、材料由来のCO2発生量は通常のコンクリートが約270㎏・CO2/m3であるのに対し、この材料は155㎏・CO2/m3となり、43%ものCO2削減効果を持った低炭素素材となっている。

海藻の付着しやすさを実証試験で評価中

過去5年間継続して銅スラグモルタルを消波ブロックとして使用しているが、並行してこの材料の標準化を目指し強度・耐久性などのデータ蓄積を行うことに加え、海藻の付着・促進の特徴を調査する実験や藻場造成効果の評価のための海域実証試験を玄界灘に面する当社施設(北九州市)で実施中である。付着した海藻によってCO2をより多く吸収・固定する「環境調和型ブロック」とすることができないかどうかの取り組みであるが、銅スラグモルタルへの海藻付着性能の一例を写真2に示すとおり、ブロック設置後1年もすれば相当量の海藻が付着しはじめることがわかる。現時点は評価途中段階である。比較のために準備した高炉スラグ水和固化体のほか合計4種類の素材との比較において海藻の付着性能は遜色ない結果となっており、海域実証試験が終了する2021年度末には総合的に評価を終える予定だ。
また、これまでに銅スラグモルタル消波ブロックを敷設した護岸補修範囲(約1,600m2)に加え、当社設備周辺護岸にも相当量の海藻が付着していることから、これらを含めて付着した藻場に対するブルーカーボンクレジット(海洋生物によるCO2吸収量)の申請を行い、2021年末に民間施設案件で国内第一号の認証が決定されたところである。

■写真2 海藻の付着量の変化
設置直後
8カ月経過時点
1年2カ月経過時点

CO2削減効果への期待

これまで消波ブロックへの利用で実績を積み重ねてきたが、今後はその他の海洋構造物へ適用対象を拡大するための改善や、さらなる低炭素化のための改良を行う予定だ。
具体的には、①せん断耐力に劣る性状改善のため粗骨材を混入しコンクリート化することや、使用するセメント等の材料やその組み合わせを再検討しより良い配合へと改善することにより、構造部材への適用先を拡大することのほか、材料由来CO2発生量をさらに低減し、より低炭素化する、②海藻がより付着しやすい表面構造を模索することによって、海藻の付着促進を図り、例えば磯焼けで困っている海域の藻場再生を図ること、などである。これら付着した海藻によるCO2吸収(ブルーカーボン)を期待する等の効果も加えて、銅スラグモルタルによるCO2削減に貢献することを目指している。
脱炭素化に向けた革新的な取り組みと比べれば華々しさはないが、環境改善に対してできることはすぐ周辺にもある。ローテクであっても少しの工夫、制約の緩和によって大きな効果が得られることに気づく人が増えれば、もっと大きな改善につながり、変化を起こすことができると信じている。(了)

  1. 銅スラグ=銅精錬の際に発生するスラグ(滓)を整粒したもの、比重が大きく、非常に硬く透水性が高い。

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