Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第513号(2021.12.20発行)

海の万博開催に向けて

[KEYWORDS] プラチナ社会/持続可能な海洋/水産エコラベル
2021ミス日本「海の日」◆吉田さくら

(公財)笹川平和財団は、2025年に開催される大阪・関西万博の「TEAM EXPO 2025」プログラムに「海の万博」チャレンジを登録し、「海の魅力発信」や「海の課題解決」のショーケースとしていくことを目指している。
海の恵みに感謝し、海洋業界の理解と関心を高める役割を担うミス日本「海の日」である筆者が「海の万博」セミナーシリーズ第1回「海の万博にむけて」の総合司会として得た学びについて、SDGsの観点よりお伝えする。

「海の万博」セミナーシリーズ

2025年、大阪湾を臨む夢洲(ゆめしま)の会場にて、大阪・関西万博の開催が予定されています。(公財)笹川平和財団海洋政策研究所では、この万博を「海の魅力発信」や「海の課題解決」のショーケースとしていくことを目指し、(公社)2025年日本国際博覧会協会が開催に先駆けて推進する「TEAM EXPO 2025」プログラムに「海の万博」チャレンジを登録されました。また、その実現に向けて2021年7月、笹川平和財団海洋政策研究所と(株)三菱総合研究所の共催により、「海の万博」セミナーシリーズの第1回として「海の万博に向けて」※1をテーマにセミナーが開催されました。筆者は総合司会として参加しました。

「海の万博」への想い

第1回「海の万博」セミナーシリーズ
https://www.youtube.com/watch?v=x8RhOY41y5I

第1回セミナーでは三菱総合研究所の小宮山宏理事長と笹川平和財団の角南篤理事長の講演が行われました。お二人とも海洋への愛情が深く、10年、50年後の海の環境について真剣に考え、具体的な行動に移されている姿に感銘を受けました。小宮山氏は宮古島の保良湾でサンゴ礁の研究をされた経験もあり、「美しいものを守らなくてはならない」という海への熱い想いから、海洋のさまざまな課題解決に向け、取り組んでおられます。今回は、「プラチナ社会※2の実現に向けて」をテーマにお話いただきました。このプラチナ社会のビジョンは、「地球が持続し、豊かで、人の自己実現を可能にする社会」です。万博のコンセプトでもある「いのち輝く未来社会のデザイン」と深く関係し、人類史の転換期ともされるこれからの社会で、私たち人間が持続可能な地球を実現するために必要な考え方が多く含まれています。
世界では、生態系への影響が懸念される海洋プラスチックごみ問題やサンゴ白化、磯焼け、台風の大型化や海氷融解をもたらす気候変動の影響、また、水産資源の持続性が問われるIUU(違法・無報告・無規制)漁業や乱獲、海上交通の安全など、海洋のさまざまな課題が浮き彫りになっています。20世紀の経済成長と物的充足の追求による自然や環境破壊がもたらしたこれらの課題を目の当たりにし、私たち人間はこれからの未来では豊かさと持続可能性の調和を追求することで「自然との共存」を実現していくべきだと考えました。小宮山理事長が「課題先進国」と表した日本は今、プラチナ社会に向けてどう行動していけば良いのかが問われていると思います。そのような中、2025年に行われる万博は、日本の取り組みを発信する機会でもあります。「持続可能性」が重要なテーマになるこれからの社会で、2019年6月のG20大阪サミットで「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が共有されるなど、大阪は海洋環境対策の発信地であることや、万博が海に囲まれた人工島の会場での開催ということから、万博を、海の魅力を伝え、イノベーションによる様々な課題解決策を示すショーケースとなるように発信していく必要性を強く感じました。
万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現し、SDGsの達成に貢献するために、国内外において多様な参加者が主体となり、理想としたい未来社会を創り上げていく取り組みを推進する「TEAM EXPO 2025」プログラムでは、見るだけでなく、誰もが主人公になる万博が理想とされています。「参加型万博」を体現するとともに、「万博の主人公」を生み出していくというチャレンジは、誰もが参画できる万博に向けての挑戦だと考えます。さらに、2025年の万博開催年には、実際にプログラムから生み出された活動や輝く人が紹介され、世界へ発信される機会もあるということから、筆者自身、「海の万博」を通して得た学びを未来社会に向けて発信し、繋げていくことの重要性を感じました。したがって、筆者が身近にできることの一つとして、SDGsの観点から持続可能な海洋について考えていきたいと思います。

持続可能な海洋に向けて私たちができること

今回の「海の万博」セミナーでも何度も耳にしたSDGsは、2015年9月の国連サミットで採択された目標のことです。近年はテレビ等のメディアで取り上げられることが多くなり、少しずつですが世間に浸透しているように思います。そして、17の目標の中に目標14「海の豊かさを守ろう」があります。中でも、第1回のセミナーで取り上げられた「持続可能な水産」について私たちの生活に身近なものは、水産エコラベルがあります。水産エコラベル認証とは、水産資源や生態系などの環境にやさしい方法で行われている漁業や養殖業を認証する仕組みです。認証された漁業や養殖業から生産された水産物や、これらの認証水産物を利用して作られた製品に対して、水産エコラベルというロゴマークを表示することができます。このマークを知ってからは、スーパーの鮮魚コーナーで必ずマークを探すようになりました。身近なファーストフード店の商品にもエコラベルが記されています。
10月に行われた第2回セミナーでは、「いのち輝く海を目指して」というタイトルで、まさにこの認証制度に焦点をあてた議論が行われました。瀬戸内の豊かな海とサスティナブル・シーフードをテーマとして、4人の講演者の方から学びました。岡山県日生町漁業協同組合からは「海のゆりかご」とも呼ばれるアマモ場の再生とカキのブランド化について、ウミトロン(株)からは水産養殖とテクノロジーへの取り組みについて講演していただき、大人から次世代を担う子ども達へと取り組みを通じた世代を超えた繋がりが印象的でした。また、(一社)セイラーズフォーザシーと神戸北野ホテルは水産資源のサスティナビリティにフォーカスした「食」を通じた様々な取り組みについてご講演いただき、制限ではなく、水産物をおいしく、たのしく、地球にやさしくの観点からいただくことの重要性を学ぶことができました。「海からの健康」と「健全な海」について多様な視点や取り組みから詳しく知ることができました。
また、「海の万博セミナー」を通して、海洋生物によって取り込まれた炭素「ブルーカーボン」の秘める可能性や包括的海洋ごみ対策プロジェクト「瀬戸内オーシャンズX」といった新たなプロジェクトの存在について知ることができました。未来の豊かな海を守るために、懸命に具体的な取り組みに挑戦している方々の存在を知り、改めて海の魅力を発信するとともに、課題解決策を示すために活動していく意義を感じました。そして、万博に向け、多様な参加者が主体となり、理想とする未来社会を共に創り上げていくことを「海の万博セミナー」を通じて目指していきたいと思います。(了)

  1. ※1第2回「海の万博」セミナーシリーズは、2021年10月26日に開催された。 https://www.youtube.com/watch?v=FIGmnHcNX0I
  2. ※2「プラチナ社会」とは、高齢化、環境、産業・雇用の3つの側面から問題解決を目指す新しい社会像。

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