Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第510号(2021.11.05発行)

洋上風力導入拡大に向けた金融の役割─金融ガイドブックの発行─

[KEYWORDS]洋上風力発電/プロジェクトファイナンス/金融リスク
(一社)日本風力発電協会管理統括部長◆足立慎一

国内における洋上風力発電の開発が、近年急速な伸展を見せている。
(一社)日本風力発電協会では会員によるタスクフォースを立ち上げ、大型洋上風力発電プロジェクト開発を支える金融面の実務解説ガイドブックを、官民を通じ国内で初めて発行した。

洋上風力発電の導入促進

一般にわが国の洋上風力発電の開発は、先進である欧州に比べて20年以上遅れたと言われている。これは、土地の所有権が明確な陸上風力発電の開発に対し、公法的支配管理下にある海洋や港湾では法的整備が必要であり、この点での国の積極関与において欧州諸国と大きな隔たりがあったことが一因として挙げられる。そもそも再生可能エネルギーの普及に大きく力点を置いていた欧州に対し、わが国においては2018年までのエネルギー基本計画(2030年度想定の電源構成)において、依然として原子力発電と石炭火力発電に大きく依存する、エネルギーミックスに配慮した内容となっていた。加えて、特に風力発電においては環境アセスメントや電力系統の制約が開発の足枷になり、さらに洋上風力発電での海域利用ルールの未整備、発電コストの低減化が課題として大きく立ちはだかっていた。
一方で、わが国は四周を海洋に囲まれ洋上風力発電の大きなポテンシャルを有することから、洋上風力発電の導入・促進は産業界あるいは学会から声高に叫ばれてきていた。実際に、多くの事業者が洋上風力発電に関心を寄せて独自に開発調査を進め、また建設工事に必要な自航式大型SEP船(Self-Elevating Platform船:自己昇降式作業台船)の建造に取り組む国内企業も相次いだ。
こうした状況に、国においても洋上風力発電の法整備に着手、港湾での占用が可能となる港湾法の改正(2016年)に続き、一般海域での占用ルールを定めた「再エネ海域利用法」が2018年に制定された。これらの動きに大きく影響を与えたものが、世界的な地球温暖化対策の流れである。特に2015年のパリ協定以降は、温暖化・気候変動への問題に地球規模で取り組む流れが出来上がり、石炭火力発電を廃止する国、再生可能エネルギー電源購入を打ち出す企業、あるいは石炭火力発電への投融資を取りやめる投資企業が世界的に続出することになる。
政府は2020年10月に『2050年カーボンニュートラル』宣言を発し、同年12月には産業政策『グリーン成長戦略』を策定、成長が期待される14産業の一つとして洋上風力発電を指定した。また、これより少し遡る2020年7月からは、産業界と洋上風力発電の産業競争力強化に向けた官民協議会をスタートさせ、同年12月15日には、その導入目標として毎年1GW(100万kW)を10年間開発し、2030年までに10GW、2040年までに30~40GWの案件を形成することを明示した。国による具体的な数値目標が掲げられることにより、洋上風力発電の促進機運は一気に高まることとなった。

JWPA洋上風力金融検討タスクフォースの組成

国では、前述の法整備ばかりでなく、洋上風力発電の建設工事に必要となる港湾の整備を開始し、発電設備の設計・建設工事・維持管理の指針も策定してきた。また、(国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)においても、洋上風力発電に関する実証研究事業に対して毎年少なからぬ助成予算が執行されている。(一社)日本風力発電協会(JWPA)では、国の動きに先立って協会内会員活動(タスクフォース、部会)として、洋上風力発電における各種規制や制度、技術における課題について調査や検討を重ねてきていたが、それらは現在の官民協議会の作業部会においても主要な部分で反映がなされているところである。
一方で、洋上風力発電プロジェクトを側面で支える重要な産業としての金融(ファイナンス・保険)については、少し状況が異なる。国内の金融機関や保険会社は、数年前より個々に洋上風力発電の調査研究を行い、更には先行する欧州事業に参画することで、少なからず経験を積んできていた。しかし、厳しい自然環境やサプライチェーン、占用港湾の整備状況あるいは事業者の経験といった国内特有のリスクをどう評価すべきか、あるいは契約書または技術面でどのようにリスク処理(リスクマネジメント)すべきかが、大きな検討課題とされていたのである。国が導入目標とした年間1GWの洋上風力発電開発には、Capex(投資コスト)だけでも5,000億円から1兆円の資金が必要となる。大きく目標が設定された洋上風力において、金融(ファイナンス・保険)の重要性が改めて認識されることとなった。
JWPAでは、2019年12月に会員である金融・保険・法律事務所および大手風力発電事業者をメンバーとする「洋上風力金融検討タスクフォース」を立ち上げた。国内洋上風力発電プロジェクトにおける金融の諸課題を解決すべく、多くの洋上風力発電事業の経験を有する海外の金融・法律・コンサルおよび国内学識者へのヒアリングを通じて、調査研究を進めてきた。かかる研究を整理し、資金調達手法の主流となるプロジェクトファイナンス※1や損害補償などの金融リスクに関する基本的事項を『洋上風力発電金融ガイドブック Vol.1』※2に取りまとめ、2021年5月に発行した。

洋上風力発電金融ガイドブックの概要

『洋上風力発電金融ガイドブック Vol.1』

本書は4つの章から構成されている。それぞれの概要は次のとおりである。
1章 海外洋上風力発電の資金調達状況:欧州における洋上風力発電の融資条件、リスクマネジメントプロセス、プロジェクトの流れ、等について各種図表、資料で説明
2章 プロジェクトファイナンスの基本:国内洋上風力発電プロジェクトファイナンスの特徴、事業リスクとリスクシェアリング、プロジェクトファイナンス組成のスケジュール・主要条件、等について解説
3章 損害保険の基本:プロジェクトにおける保険手配の意義、洋上風力発電の保険概要、保険リスク評価のポイント、保険手配スキーム、洋上風力発電保険の補償範囲、不担保事由・免責、等について解説
4章 制度にかかわるリスク:洋上風力発電PPA(電力販売契約)の安定度評価方法、出力抑制の妥当性評価方法、スポンサーサポートの必要性、占用許可・合意書における担保設定方法、等について解説
本ガイドブックは、洋上風力発電プロジェクトのファイナンス・保険および制度リスクに係る金融評価手法についての国内で初めての実務解説書であり、洋上風力発電事業へ参画を検討する金融機関や保険会社への指針となるだけでなく、発電事業者や投資家においても参考とすべき内容になっている。
さらに、国内洋上風力発電事業における60余りの具体的リスク課題に対しては、洋上風力発電のメーカー、コンサルティング等の業種へのヒアリング調査を継続しており、これらを纏めた次編(Vol.2)の発行を2022年春に予定している。このような取り組みを通じて、今後の洋上風力発電の導入促進に金融サイドからも貢献していきたい。(了)

  1. ※1事業の資金調達を、当該事業自体から生じるキャッシュフロー(収益)またはその資産のみに依拠して行う金融手法。スポンサーの義務が限定的となる反面、一般的に金利は高めとなる。
  2. ※2『洋上風力発電金融ガイドブック Vol.1』はJWPAのウェブサイトより注文可能(有料)

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