Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第508号(2021.10.05発行)

海の宝アカデミックコンテスト〜北海道大学のマリン・ラーニング〜

[KEYWORDS]マリンカルチャー/マリンサイエンス/SDGs
北海道大学大学院水産科学研究院 副研究院長・プログラム代表◆川合祐史

北海道大学では、2016年より海の宝アカデミックコンテストを中核とするマリン・ラーニングイベントを実施している。
コンテストではカルチャーとサイエンスの2部門において、全国の中高生から自らの「海の宝」についてプレゼンテーション作品を公募し、全国4ブロックから一次審査を経て選抜された優秀作品を函館に招待し、最終審査会を行う。
各種イベントの体験とコンテストにより、海の将来を担う人材を養成する。

北海道大学におけるマリン・ラーニング

海の宝アカデミックコンテスト2019(頂上コンテスト)(2019.11.16, 函館)

北海道大学では、前身の札幌農学校時代の1880(明治13)年から世界で初めて水産学教育が始まり、函館キャンパスの水産学部・大学院水産科学院を中心に、「フロンティア精神」と「実学の重視」の理念のもと、水圏生物資源の再生産から利用までを体系化し、北海道大学水産学部附属練習船おしょろ丸などによる沿岸から北太平洋のフィールド実習、調査も交えて、教育・研究を行ってきました。近年では、2009年から7年間、函館市と共同で地域再生事業の一環として、企業人や行政担当者を対象にした「水産・海洋コーディネーター」と「海のプロデューサー」、一般市民対象の「海のサポーター」と「海のナビゲーター」の養成プログラムを実施しました。「海の宝アカデミックコンテスト」は、このような人材養成の教育資産をベースに、中高生を主対象として、「海」の素晴らしさを実感・体験しながら自分にとっての「海の宝」を見出し、海の魅力や課題を考え行動する人材を育成することを目指しています。
本事業は、2016年より日本財団「海と日本PROJECTサポートプログラム」に採択され、「海の宝をめぐる学びと体験マリン・ラーニング」イベントとして実施しています。2019年からは「ブルーオーシャン活動に向けて(海と日本2019)」、「海の魅力や課題を考え行動する(海と日本2020)」、「海の魅力で社会の困難を乗り越えよう(海と日本2021)」のようにテーマを設けました。
本事業の内容は、大きくイベントとコンテストの2つに分けられます。まず、全国各地で展示型、体験型の教育イベントを開催し、多くの子どもたちや市民が「海」の素晴らしさと科学に触れる機会を提供します。さらに、このようなイベントで「海」に興味を持ち、あるいは「海」に関する活動や取り組みを行っている中高生(個人、グループ)が、自分たちの「海の宝」について表現・発表する場として「海の宝アカデミックコンテスト」を開催します。本事業には、北海道大学水産学部附属練習船ほか、全国の水族館、科学館、博物館、(国研)海洋研究開発機構をはじめとする多くの海の関連施設・機関の協力をいただいております。

海の宝アカデミックコンテスト - 海と日本PROJECT-

「海」は、水産業、漁業、養殖、環境のほか、芸術、歴史、文化、社会、観光など広範な分野と密接な関わりを持っており、多様な「海の宝」が潜在しています。コンテストでは、カルチャーとサイエンスの2部門において、全国の中高生から「海の宝」のプレゼンテーション作品を公募し、全国4ブロックの一次審査を経て選抜された優秀作品を北海道大学水産学部(函館市)に招待し、最終審査会(頂上コンテスト)を行います。審査会では、大学教員はじめ、協力機関の専門家による評価が行われ、入賞作品を決定し、大漁旗染色作家によるオリジナルの賞旗と副賞のほか、多くの協力団体から特別賞も授与されます。事業の認知度も上昇して応募作品のレベルは年々高くなり、頂上コンテストの参加者には、他グループとの交流や専門家からのフィードバックを受ける機会となります。
事業開始以来、展示型のイベントでは会場の選定やWEBコンテンツの工夫により毎年数万人以上の参加者があり、2019年度は19件のイベント中、体験型のイベントは全国11カ所で約650名の参加がありました。コンテスト応募件数も年々増加し、2019年のコンテストには、カルチャー部門187作品、サイエンス部門58作品の総数245作品(53校、494名参加)の応募があり、優秀作品16作品が函館での頂上コンテストに進みました。
昨年(2020年)は、コロナ禍で各種の体験型イベントの開催が制限されるなか、WEB上でのギャラリー、見学会、レクチャーを積極的に導入し、13件のイベントに約5,400名の参加がありました。そのうち体験型イベントは全国6カ所で実施することができ、約130名の参加がありました。コンテストには、全国からカルチャー部門98作品、サイエンス部門76作品の総数174作品(40校、385名参加)の応募がありました。頂上コンテストには18作品が選抜され、WEBライブシステムでプレゼンテーションと審査、表彰という一連の流れを円滑に進めることができ、盛会に終えることができました。コロナ禍での開催のため応募作品は減少しましたが、作品は総じて高いレベルが維持されており、困難に打ち勝つエネルギーが感じられました。

海の宝アカデミックコンテスト2020(頂上コンテスト)(2020.11.15, 函館-WEBライブ)

さらなる水産科学の発展に向けて

海の宝アカデミックコンテスト2021では、今日のwithコロナ状況下での取り組みに対する期待を「海の魅力で社会の困難を乗り越えよう」というテーマに込めています。WEBイベントでは、北海道大学水産学部附属練習船おしょろ丸の秘密を360°カメラ映像として提供するなど、臨場感のあるコンテンツの導入によって海の調査・研究、船上活動をイメージしやすい工夫を取り入れました。頂上コンテストは、函館でのリアル開催を念頭に、どのような状況の変化にも対応できる実施体制を構築し、準備を進めています※1
水産科学ではSDGsの要のひとつとして、「海洋・水圏における生物資源の持続的生産やその有効利用」や「海洋生態系や環境の保全」などを実現するための課題を解決できる次世代の研究者が求められています。北海道大学では、本事業「海の宝アカデミックコンテスト」から発展的に連携するプログラムとして、海の分野でトップサイエンティストの早期発掘と育成を目指す「バランスド・オーシャン」教育プログラムを運営しています。海に関する学問の演習や実習をWEB 上で学ぶことができる教育システムLASBOS(Learning and Study by Balance de Ocean System)を開発し、高校生や大学生、研究者にLASBOS Moodleを介して提供しています。また、教育コンテンツとして実験や実習を疑似体験できる動画をLASBOS YouTubeで公開しています※2。これらのプログラムへの参加をきっかけに、多くの若者が水産科学への興味を持ってくれることを期待しています。(了)

  1. ※1海の宝アカデミックコンテスト2021 https://www.umicon.jp/contest/guideline.html 9月21日に応募終了、頂上コンテストと表彰式は11月6日に開催予定
  2. ※2北海道大学バランスド・オーシャン
     LASBOS Moodle https://repun-app.fish.hokudai.ac.jp/
     LASBOS YouTube https://www.youtube.com/channel/UCWo8IebtPw4Kibut-9Rga7w

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