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第508号(2021.10.5 発行)

日本の洋上風力の発展に向けて〜洋上風力産業ビジョンと官民が持つべき視点〜

[KEYWORDS]導入目標/国内調達比率/コスト低減
(株)三菱総合研究所サステナビリティ本部主任研究員◆寺澤千尋

国際社会において気候変動対策は急務である。脱炭素化に向けた目標達成には再生可能エネルギーの大量導入が必須であり、海に囲まれた日本においては、洋上風力への期待が高まっている。
本稿では、2020年12月に発表された「洋上風力産業ビジョン(第1次)」における3つの目標を解説するとともに、本目標の達成と洋上風力の導入加速化に向けて官民が持つべき視点を提言する。

官民の約束:「洋上風力産業ビジョン(第1次)」の発表と3つの目標

2020年12月、洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会※1(以下、官民協議会)において、洋上風力の導入拡大と関連産業の競争力強化に向けて官民が一体となって取り組むべき施策を取りまとめた「洋上風力産業ビジョン(第1次)」※2が発表された。
本ビジョンの最も重要なポイントは、3つの目標が設定されたことである(図1)。官民双方の「約束」として、国においては「導入目標」を達成すること、産業界においては「国内調達比率目標」および「発電コスト目標」を達成することが明記された。特に洋上風力の具体的な導入目標(2030年までに10GW、2040年までに30〜45GW)が示されたことは非常に大きな前進であり、本発表を受けて、日本市場への国内外企業の投資が活発化している。
ここでは、各目標を正しく理解するためのポイントと論点を解説したい。
導入目標について、「導入」という言葉が使われているが、本目標の正確な定義は国の認定を受けた「案件形成」目標であり、2030年までに10GW、2040年までに30G〜45GWの洋上風力が運転開始に至っていることを想定した目標ではない。この点は、多くの関係者が誤認している可能性が高い。2030年までの温室効果ガス46%削減目標に寄与するためには、本目標の達成のみでは不十分であり、形成された案件の早期運転開始を実現するための追加的施策が必要であることを念頭に置く必要がある。
次に国内調達比率について、風車部品の60%の国産化を目指すと解説している報道が存在するが、これは誤認である。本目標は製造分野に限るものではなく、調査・製造・建設・運用・メンテナンス・撤去までの、ライフサイクル全体における国内調達比率を60%に引き上げるという内容である。洋上風力に限らず、ものづくりはグローバルサプライチェーンの中でコストが最適化されている。製造分野単体で高い国内調達比率を目指すという認識は、既存の最適なサプライチェーン形成をゆがめる可能性がある点に十分な注意が必要である。
最後の発電コストについては、実はその明確な定義が示されていない。これまでの政府における議論の経緯を踏まえれば、本発電コストは「発電原価」を指しており、事業者における適正な利潤を考慮した入札価格(=発電原価+適正利潤)とは同義ではない点に注意が必要である。
今後、各目標の達成状況や成果を評価する際には、上記の点を念頭に置いた、正しい理解や定義に基づく議論を進めることが極めて重要である。

図1 洋上風力産業ビジョン(第1次)で掲げられた3つの目標
出典:「洋上風力産業ビジョン(第1次)」を基に(株)三菱総合研究所作成

目標達成と洋上風力導入加速化に向けて官民が持つべき視点

3つの目標の確実な達成と洋上風力導入加速化に向けて、官民が持つべき視点として下記の点を提言したい。
導入目標およびコスト目標に関する視点は表1に示すとおりであり、可能な限り多くの案件を2030年までに運転開始させること、さらに着床式に加えて浮体式の導入加速化を念頭に置いた取り組みを進めることが重要である。また、国内産業育成のためには、短期的なコスト増加を許容する政策支援が必要であり、コスト低減と国内産業育成のバランスを考慮した入札制度の運用が求められる。国内調達比率については、以下に示すように、達成状況をモニタリングしながら、国内産業・人材を育成していくための施策を適時に講じていくことが重要である。

表1 導入目標およびコスト目標に関する視点
*広域連系系統のマスタープラン及び系統利用ルールの在り方等に関する検討委員会「マスタープラン検討に係る中間整理」(2021年5月20日)
https://www.occto.or.jp/iinkai/masutapuran/2021/files/masuta_chukan.pdf

<国内調達比率目標に関する視点>

  • 調査・製造・建設・運用・メンテナンス・撤去までのライフサイクル全体で国内調達比率を高めること。国内調達比率の算定・報告の仕組み※3を確立し、達成状況のモニタリングと施策効果の検証を行うこと。
  • マッチングの場の形成や企業情報のプラットフォーム構築など、ディベロッパーやメーカー等と国内企業をつなぐ取り組み・仕組みを構築すること。
  • ライフサイクル全体で必要となる人材規模や求められるスキルを明確にし、他産業からの人材移転や、教育プログラムの拡充等による人材基盤の底上げを推進すること。

洋上風力の安定的成長に向けて

「洋上風力産業ビジョン(第1次)」と3つの目標の発表により、日本の洋上風力は本格的な導入に向けてスタートを切った。洋上風力の安定的成長に向けては、上記に提示した事項に着実に取り組むとともに、カーボンニュートラルを見据えた2050年導入目標の具体化など、中長期的な取り組みも同時に進めることが重要である。
また、洋上風力の主力電源化に向けては、電力安定供給の視点も忘れてはならない。英国のデータ共有プラットフォーム(SPARTA)などの欧州の先行事例を参考としながら、洋上風力発電の運用パフォーマンス改善、信頼性向上などを目的とした運用データを共有するプラットフォームの創設など、電力安定供給を支える仕組みの構築も求められる。
これらの取り組みを適時に講じていくためには、官民協議会における継続的な対話を通じた、スピード感を持った制度改善、施策の具体化・実行が極めて重要である。(株)三菱総合研究所では、関連プロジェクトを通じて官民協議会における検討の支援を行っており、今後も官公庁および事業者と議論を重ねながら、官民双方をつなぐ存在として洋上風力発電市場の育成・発展に貢献していきたい。(了)

  1. ※1経済産業省 洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/index.html
  2. ※2洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会,「洋上風力産業ビジョン(第1次)」 https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/yojo_furyoku/pdf/002_02_02_01.pdf
  3. ※3英国では、2040年までに国内調達比率(UK Content)を60%まで高める目標を設定し、国内調達比率の報告制度を運用している。
  4. 本稿は三菱総合研究所コラム、「日本の洋上風力の発展に向けて:洋上風力産業ビジョンと官民が持つべき視点」をもとに作成しています。 http://www.mri.co.jp/knowledge/column/20210702.html
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