Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第504号(2021.08.05発行)

編集後記

帝京大学先端総合研究機構 客員教授♦窪川かおる

♦レジ袋の有料化から1年が過ぎた。2020年には海洋プラスチックごみに関する論文も多数発表されている。2021年7月1日にはSCIENCE誌特集号「プラスチックのジレンマ」が発行された。研究成果の再検討と総括は、プラスチック汚染の解決は多難であり、全体にわたる効果的なプラスチック循環型経済が重要であることを示している。
♦海洋プラスチックごみなどの化学物質・廃棄物汚染は、気候危機、生物多様性危機とともに3大地球環境危機である。工業化により便利で豊かな生活を享受してきた社会の未来が変わろうとしている。国連環境計画経済局国際環境技術センター本多俊一プログラムオフィサーは、自然と共存したエコシステムが失われた今、人工的エコシステムによる循環型社会の構築が重要であると説かれる。海洋プラスチックごみ問題解決には、レジ袋の使用削減に留まらず、発生源、発生量、処分経路といった全体像での管理が必要となる。2050年にカーボンニュートラル・循環型社会を実現するには、世界人口の増加も考慮すべきであり、国連や国家が解決を目指す一方で、市民の行動が問題解決への大きなチカラになるという。海と循環経済の論考を是非ご一読ください。
♦身近な海藻だが、実は種類が多い。海藻の系譜を詳細に研究されてきた田中次郎東京海洋大学名誉教授に解説をいただいた。海藻は緑藻、紅藻、褐藻からなるが、細胞が持つ鞭毛の形で緑藻と紅藻はアーケプラスチダに、褐藻はストラメノパイルというグループに分けられる。藻類が共生した生物種も含める藻類全体の多様性は極めて高い。そして藻類は、太古の昔から世界中の海に生息し、共生を含めて複雑に多岐に進化してきたという。海藻の世界は奥深い。
♦塩がなければ人は生きていけない。塩の最も重要な役割は、生体の機能を正常に働かせることである。それほど大事な塩だが知らないことは多い。2015年に墨田区に移転した「たばこと塩の博物館」千々岩良二館長より、塩についての話題を教えていただいた。岩塩は海水が結晶・堆積したもので、博物館にはポーランドのヴィエリチカ岩塩杭内に造られた聖キンガの祭壇が現地の岩塩で再現されている。塩湖は岩塩が形成される途上で、壮大な自然の塩作りである。日本では日常に使う食用塩を国内生産で賄えるが、その何倍も使われる製造業用の塩は輸入品、塩は社会生活の必需品なのである。博物館では展示と催しで海や塩について体系的に学べる場も提供している。東京スカイツリー見学の折に足を運ばれてはいかがだろう。(窪川かおる)

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