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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第504号(2021.8.5 発行)

海と循環型社会と未来

[KEYWORDS]循環型社会/プラスチックごみ/全体論的廃棄物管理
国連環境計画経済局国際環境技術センタープログラムオフィサー◆本多俊一

気候危機、生物多様性危機、化学物質・廃棄物汚染危機の“3大地球環境危機”に直面している2021年の現代社会において、われわれは9年後に持続可能な開発目標(SDGs)を達成できるのか?
日本をはじめとする主要国は、2050年までにカーボンニュートラルな社会を構築できるのだろうか?
これらの問いに対して、海と循環経済をキーワードに考えてみたい。

未来の目指すべき姿は過去にあった

1750年頃から始まった第一次産業革命以前においては、ごみ問題というのは社会的課題とは認識されていませんでした。なぜなら、当時の人々も毎日ごみを出しますが、そこには、2021年のわれわれが目指している自然価値観に基づくエコシステムの循環型社会が存在していたからです。例えば江戸時代の日本では、瓦や石を除けば、木造の家屋、木製・竹製品などほぼすべてが植物性、つまりいずれは自然の力で資源として循環される究極のエコシステムが人間社会に構築されていました。また、その時代、日本をはじめ多くの国では河川流域や海での漁業で発生した漁具のごみは河川や海にポイ捨てされていました。しかし、例えば漁網は麻製等の植物性のため、その投棄による海洋汚染という概念さえありませんでした。
その後、数段階の産業革命を経て、植物性由来製品に代わり耐久性もあり安価かつ大量生産が可能な人工化学物質製品へとその姿を変えていきました。その結果、過去にわれわれが手にしていた自然と100%共存していたエコシステムは完全に失われ、海洋汚染や気候危機など多くの地球環境危機がもたらされました。数万年かけて作り上げた自然と人間の共存をわずか200年余りで捨て、目の前の利益のみに走った人間の欲望の結果と言えるでしょう。そして今、われわれが循環型社会を目指しているという現実は皮肉ではないでしょうか?人工的エコシステムによる循環型社会をどのように再構築していくのかが、今後の地球の運命を握っています。

海とごみ

海に面している国においては長年、ごみの海洋投棄は廃棄物処分方法の一つとされてきました。日本もその歴史は古く、過去には下水汚泥や産業廃棄物等を投棄していました。しかし近代産業社会ではその海洋投棄による環境汚染が深刻になったため、ロンドン条約議定書(1996年採択)により海洋投棄対策が強化されました。海洋投棄のそもそもの考え方は、人間社会における不要なものを見えないところで処分する、という非環境学的・非科学的根拠による人間の利己主義が発端です。江戸時代のように、ごみの成分が植物性であれば海洋投棄はそれほど問題ではありませんでしたが、現在のような化学物質主体のごみの場合は、その考え方は全く通用しません。SDGs時代を迎え、法的根拠ではなく「ごみの海洋投棄はするべきでない」という環境的価値観や倫理観も浸透してきていますが、残念ながら不法投棄はなくなりません。また、ごみの河川への投棄も今でこそ不法投棄として世界中で禁止されていますが、それでもなお河川流域への不法投棄や隣接埋立処分場からの流出が発生しており、その一部は最終的に海へ流れ出しています。世界規模での海洋ごみによる環境汚染被害額は年間約2.5兆ドル(Beaumont et al.,2019)とも算出されています。科学的根拠と環境的価値観を組み合わせてSDGsへの対応が求められています。

プラスチックごみを見てごみを見ず

ここ数年、プラスチックごみを代表とする海洋ごみ汚染は、気候変動に並ぶ喫緊の地球規模課題と認識されてきています。海洋プラスチックごみに関係する詳細情報は、様々なウェブサイトや報告書等に掲載されています。しかしここで重要なのは「海洋プラスチックごみを見てごみを見ず」、つまり目の前の問題にとらわれてしまい、その問題の本質・全体像を見ていない傾向があると言うことです。これはプラスチックごみに限らず、われわれ人間の共通・特有な習慣です。一般的に、大量のプラスチックごみが排出されていると認識されていますが、他の廃棄物と比較した場合、その認識は間違っています。実際、廃棄物発生全体(世界)に占めるプラスチックごみはわずか0.4%です。プラスチックごみだけに注力するのではなく、廃棄物管理の一部として対策を取るべきことを再認識しなければなりません。「プラスチックごみを見てごみを見ず」現象が起きています。
2020年に排出されたプラスチックごみのデータ(推計値)を見ると、使い捨てプラスチックが16%、ペットボトルが4%、残り80%はその他となります。ここ最近では使い捨てレジ袋の有料化や配布禁止、ペットボトルの代わりにマイボトルを持つべき、というのが世界の潮流になってきていますが、ここにも「木を見て森を見ず」、すなわち「使い捨てレジ袋を見て、プラスチックごみの山を見ず」といった傾向が見られます。また、海に流れ出ているのは約3%・年間800万トン程度、リサイクルは約9%・年間約2,200万トン程度。約90%は埋立処分です。われわれの日々の暮らしにおける一人一人の努力に加えて、プラスチックごみや廃棄物全体をどのように管理していくか、全体論的な廃棄物管理を実施しない限り、プラスチックごみ問題や海洋プラスチック問題は絶対に解決しません。

■廃棄物発生量とプラスチックごみの関係

循環型社会と未来

「循環型社会と未来」、それは日本が過去に手にしていた自然価値観に基づく共存的エコシステムを現代社会の中で再構築することを意味します。世界の目標となっているのが、2050年のカーボンニュートラルと循環型社会です。その2050年において、人口約97億人を抱えるその未来社会でのわれわれの暮らしはどうなっているのでしょうか?世界平均での一人当たりの資源使用量や廃棄物発生量は減少しますが、人口増のため全体としての資源量や廃棄物発生量は増加していることが予想されています。ではどうするべきか?
未来を創るのはわれわれです。未来の方向性は、大量生産大量消費社会の物質依存系資本主義を転換させることです。法制度や社会システムで制度・習慣を変えていく必要はありますが、正しい環境や持続可能性に関する知識を広げていく、つまり環境啓発活動を地道に実施していくことも重要な役割を果たします。筆者の所属する国連環境計画でも、循環型社会に向けて開発途上国における国・地方自治体レベルにおける廃棄物管理戦略策定・実施支援、国際レベルでのプラスチック管理体制の構築支援等、様々な取り組みを行っています。しかし、国連や国家が独自で100個の制度を作り社会システムを変化させていくことよりも、100人の市民の皆さんが毎日地球にやさしい活動を行うことが、結果として全体的な廃棄物管理の実施を後押しし、海洋プラスチック問題の解決にも繋がります。そして、2030年SDGsや2050年カーボンニュートラル・循環型社会形成の目標に到達するための大きなチカラとなります。今までの社会システムでの恩恵や利便性が多少マイナスになったとしても、SDGsに貢献するその行動こそが、われわれが目指している未来社会の一歩となるでしょう。(了)

  1. 参考文献(www.unep.org/ietc):Global Waste Management Outlook, Regional Waste Management Outlook Series, Single-Use Plastics: A Roadmap for Sustainability, Strategies to Reduce Marine Plastic Pollution from Land-based Sources in Low and Middle - Income Countries
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