Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第494号(2021.03.05発行)

編集後記

帝京大学戦略的イノベーション研究センター客員教授♦窪川かおる

♦2011年3月11日の東日本大震災から10年の節目の年を迎えた。その直前の2月13日夜、福島県沖を震源とする最大震度6 強の地震があり、太平洋側から日本海側にわたり東日本が揺れた。震源地の深さが55kmのため、被害をもたらす津波の心配はなかったが、改めて東日本大震災の巨大津波の破壊力を思った。今回は東日本大震災の余震であり日本海溝の境界型地震の発生確率は変わらないと専門家は言う。地震も津波も避けられないわが国は、経験を風化させず、防災研究の一層の推進を必要とする。
♦東北大学災害科学国際研究所の今村文彦所長より東日本大震災の津波被害の実態とその経験・教訓を伝承する活動についてご寄稿いただいた。大震災の1年後に設立された研究所は、文理医の学際融合による自然災害科学の世界最先端の研究組織である。その素晴らしい成果には、異分野の専門家が過去の史料を基に共同研究し、当時の被害実態の再現と科学的で定量的な評価がある。また、「3.11 伝承ロード推進機構」を組織し、震災伝承施設のネットワーク化を進めて国内外への発信を強めている。是非ご一読いただきたい。
♦宮城県仙台市井戸浦の沿岸生態系では、東日本大震災の2 年後に、すでに多数の干潟生物が現れた。東北大学大学院生命科学研究科の占部城太郎教授は、土留めの河川堤防が崩れて水と陸(土)がひとつづきになり本来の井土浦に戻ったためと考えている。そして東谷地では震災復興のインフラ整備と生態系保全を両立させて前より豊かな生態系を実現させた。さらにこれらの経験から海岸法を生態系の視線で見直す必要性を占部氏は説く。
♦宮城県気仙沼市にある(株)みらい造船は2019年9月に新造船所が竣工した。東日本大震災で被災した造船会社が合併するまでの経緯は長かったが、自社の個別復旧より地元の造船舶用産業を含む水産業全体の機能回復と継続が目標となった。そして、(株)みらい造船の木戸浦健歓代表取締役社長は、100年先まで続く企業を目指す、と言う。大震災による苦境および設立までの困難を乗り越え、多くの人々の力を得て、(株)みらい造船は力強く前を向いている。(窪川かおる)

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