Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第488号(2020.12.05発行)

ステイホーム期間にJAMSTECが試行した広報活動

[KEYWORDS]海洋リテラシー/海洋研究アウトリーチ/オンラインコンテンツ
(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)海洋科学技術戦略部長◆豊福高志
(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)海洋科学技術戦略部広報課長代理◆市原盛雄

JAMSTECが2019年度に設置した海洋科学技術戦略部(MaSTS)の広報課では、研究・開発に関する情報発信などのミッションをもち、新型コロナウイルス感染症の流行下ではJAMSTEC for Studentsや研究者自身によるオンラインコンテンツを使った広報活動などを展開した。
ポストコロナではこうした非接触を基本とした多様な情報発信手法への転換によって、海洋リテラシーの向上に貢献することが求められている。

MaSTSの取り組み

JAMSTECは海洋国家の日本において、海の研究を通じて、科学技術の向上、学術研究の発展、地球や生命の理解などに広く貢献するため、日々の活動に取り組んでいます※1。われわれ海洋科学技術戦略部 (MaSTS: Marine Science and Technology Strategy Department)は、JAMSTECにおいて研究・開発に関する内外の連携、情報発信、成果の利活用に関するマネジメントを中心に、研究交流を促進することをミッションとしています。
2019年末以降、新型のコロナウイルスが世界的に感染を拡大し、私たちの日常は一変しました。MaSTSにおいて、特に広報課ではアウトリーチが重要であり、多人数を対象としたイベントなどを日頃から実施してきたため、影響が大きいことが容易に予想されました。そこで、2020年2月中頃から新型コロナウイルスに関連した情報収集を行いながら、影響が長期間に及ぶという前提のもとで、研究成果の発信を持続するための方策を考えることにしました。

「JAMSTEC For Students」による初動

特設サイト「JAMSTEC For Students」
http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/jfs/
第1回JAMSTECチャンネル“海の研究”こども質問部屋の様子(新型コロナウイルスの新規感染者数が国内で急増する前の3月12日に生放送で実施https://www.youtube.com/watch?v=FuyFZ4rs_wg

政府による緊急事態宣言の発出に伴い、国内の小中学校や高等学校、大学等が休校し、外出自粛への協力が呼びかけられるなか、JAMSTECは海洋科学を中心とした国の研究所として、広報活動を通じて何らかの社会貢献ができないかと考えました。その際に、次の2点を意識した上で、家からアクセスでき、物理的接触を伴わない方策を検討しました。
・児童、生徒、学生たちの失われた学ぶ機会を埋め合わせるコンテンツを提供できないか
・長期に渡る社会の過度な緊張からくる疲弊に対して、幅広い年齢層に対しても何らかの知的レクリエーション・生涯学習の場の提供ができないか
まず私たちが取り組んだのは、自宅で過ごす小中高生の皆さんに海洋や地球科学をもっと知ってもらうためのオススメコンテンツの整理です。これを、「JAMSTECFor Students」と名付け、特設サイトとして機動的に立ち上げました。次に、テレワーク環境に対応する職員からの要望を受け、オンライン会議(Zoom)の背景として使えるJAMSTECオリジナル壁紙の提供を開始しました。また、オリジナルのソーシャルディスタンスロゴのデザイン制作等、「離れていても楽しめる・親しめる」活動を目指して、広報課の職員たち自身がテレワークに取り組みながら、新たな試みを積極的に行いました。
さらに、ステイホーム期間で新たに生まれた企画もあります。「JAMSTECチャンネル“海の研究”こども質問部屋」と題した、子どもたちからの海洋、地球、生命に関する質問に答えるウェブ番組です(第1回~第3回)。

研究者自身によるオンラインコンテンツを使った広報活動

バーチャル背景用画像:「しんかい6500」コックピット

研究者が主体となって企画したオンラインコンテンツの発信も、今回の取り組みの一つの特徴といえます。ここでは主な取り組みとして三つご紹介します。
一つ目はオンライン講座コンテンツです。研究部門において現在ホットなトピックを選び、研究者がミニセミナーとして講義するものです。JAMSTECの海域地震火山部門が2020年2月23日に開催した講演会「もっと知ろう、おもしろ海の火山学」を録画、編集した動画を4回にわたってYouTubeに開設しているJAMSTECチャンネルで配信しました。
二つ目は、主に学生に向けて、外出自粛期間中に読んでほしい書籍を紹介する書評動画企画「JAMSTECの探究者たち『海と地球を語る。』」です。JAMSTECの研究者に、いま読んでほしい一冊を尋ねて、本の紹介を通じて研究活動やその背景となる哲学にも言及するインタビュー記事として掲載しました(第1回~第7回)。
さらに、三つ目として、JAMSTECの高知コア研究所では、サイエンス相談窓口を開設し、小中高生に対して、科学の疑問に答えるとともに、SNSで効果的に情報発信する取り組みを始めました※2
JAMSTECでは感染拡大防止の観点から、研究者にも出勤の制限が敷かれました。研究航海に出られない、出張に行けない、実験が思うようにできない日々ではありますが、「自らの手による研究広報」を拡充する転換点ともなりました。例えば超先鋭研究開発部門によるYouTubeチャンネル「シンカイ探偵団」開設などの展開が見られます。

ニューノーマルを見据えた海洋研究のアウトリーチ

新型コロナウイルス感染症流行拡大によって、これまでの常識や生活の様式が変わり、仕事のあり方も変容してきています。治療法の確立などによって事態が収束した後のポストコロナの時代においては、従来の形に戻るものもある一方で、不可逆的な変化がもたらされたものも無数にあると考えています。研究成果の広報・アウトリーチにおいてもそれは例外ではありません。私たちは今後、この新たな環境の中で、どのような広報アウトリーチを行っていくのが最適かを考え続けていかなければなりません。ニューノーマルにおいては、人と人とが接触する対面式のアウトリーチを前提としていたやり方から、非接触を基本とした、オンラインコンテンツの充実化を図りつつ、効果的で多様な情報発信手法への抜本的な転換が求められていると考えています。これは簡単ではありませんが、目前のお客様に対してのみ提供されていたサービスが、オンラインという手法に切り替わることで、対象が全世界に広がったとポジティブにとらえることもできます。まさに、世界に向かって「海洋の知への扉」が開かれたと考え、大きく舵を切る時期なのかもしれません。
わが国は四方を海に囲まれた島国です。海と地球の研究を行うJAMSTECは2021年に創立50周年※3を迎えますが、私たちの暮らしと海の接点や海の果たす役割を国民に伝え、海洋リテラシーの向上に貢献することが一層求められています。コロナ禍の状況である今、私たち広報部門が担う役割はさらに重要性を増しているといえます。問題解決の文脈から、あるいは海洋科学の進歩という文脈から、JAMSTECの研究開発成果をいかに分かりやすく、興味深く伝えていけるか、まさにそれが問われていると自覚しています。
海や地球に関する知の集積を通じて新しい学理を探究すると同時に、これを利用して産業や人々の生活に成果を還元することで世界をよりよくしていく。それこそがJAMSTECがこの新たな時代に追い求めていくべき役割だと考えています。(了)

  1. ※1(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)http://www.jamstec.go.jp/j/
  2. ※2高知コア研究所「サイエンス相談窓口」http://www.jamstec.go.jp/kochi/j/news/20200430.html
  3. ※3 JAMSTEC 50周年記念サイト http://www.jamstec.go.jp/50th/

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  • 編集後記 帝京大学戦略的イノベーション研究センター客員教授♦窪川かおる

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