Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第488号(2020.12.05発行)

海岸清掃に農耕用トラクターを活用

[KEYWORDS]海岸清掃/地方創生/田曽白浜
日本ヘリシス(株)代表取締役◆稲田竜太

三重県田曽白浜海岸は、伊勢神宮内宮の南側に位置し、熊野灘に面して緩やかな弧を描くように美しい遠浅の砂浜が広がっている。この地域は、年に幾度となく台風が襲来し、来る度に大量のごみや海藻等の漂流物が海岸に打ち上げられ、美しい自然景観が損なわれていた。
美しい自然景観を守り、自然との共生を目指そうと農耕用トラクターによる美化活動を始めることにした。

美しい砂浜に再生したい想いから

●日本ヘリシス(株)HP
https://www.nhs-inc.co.jp

風光明媚な伊勢志摩国立公園内にある田曽白浜海岸は、かつては美しい砂浜の海水浴場として多くの観光客が訪れる海岸であったが、国道260号線への山間部を経由するバイパスの完成と共に誰も訪れないビーチとなった。田曽白浜を管理する人がいなくなってからは、年々ごみや海藻などの漂流物がたまり、周辺も荒廃していった。
ヘリコプターによる航空運送業などを展開する日本へリシス(株)は、2018年、この田曽白浜に伊勢志摩観光開発(株)を設立し、カフェや宿泊施設、スカイダイビング、マリンスポーツなどのアクティビティを充実させ、自然との共生の中で伊勢志摩一帯の観光業の活性化と地方創生を目指し、事業に着手した。
はじめに手掛けたのは、田曽白浜海岸の美化活動だった。砂浜に打ち上げられたごみは、大きな流木からプラスチックごみ、缶、海藻など想像を遥かに超える大量のごみの山だった。清掃作業は、スタッフが幾日もかけ、大きな流木等は重機で運び、その他のごみは手作業でかき集めてきれいにするなど清掃作業には苦労を要した。その苦労も台風が来る度に海岸が漂流物だらけになって、また一から掃除をしないといけない状況が何度も繰り返された。

ひらめいたのが農耕用トラクター

作業中のトラクター

なんとか効率良くできる方法はないかとスタッフと話し合いを重ね、その時ひらめいたのが農耕用トラクターの活用だった。
しかし、トラクターを活用して砂浜がきれいになるのは良いが、その一方でこの近辺にはウミガメの産卵場所があるという話を耳にしたことがあり、ウミガメ保護の観点からトラクターによる清掃作業が本当に大丈夫なのかという心配があった。そこで、ウミガメの産卵時期や上陸跡、産卵場所の穴の深さなどについて調べた。産卵の時期は5月から8月頃まで続き、産卵場所の穴の深さは50~60cm程であることが分かった。毎日砂浜をチェックしているのでウミガメが上陸した痕跡がないのは直ぐに分かり、その心配は要らなかったが、念のため砂浜を耕す深さを15cm程度に調整をおこなうなど自然環境に配慮しながら作業することにした。
農耕用トラクターは、クボタの25馬力4輪駆動式のトラクター「KL25」に、土をかき混ぜ耕すためのロータリー「RL15K」をけん引した機械で、砂浜でもスタックする(タイヤが砂浜にはまって動けない状態になる)ことなく縦横無尽に動き回ることができる。大きな流木やプラスチックごみなどは今までどおり人海戦術での作業となるが、海藻などはそのまま砂の中に埋めてしまうと自然に分解されてきれいになるなど自然にやさしい作業ができるようになった。以前は海藻の処理にも時間がかかっていたが、トラクターの活用後は短時間で見違えるほど砂浜をきれいにすることができるようになった。

これからも挑戦し続けていく

田曽白浜海岸が美しい砂浜として再生してくると、離れていた観光客が徐々に訪れるようになり、今ではかつて栄えていた頃のように多くの観光客等で賑わうようになってきた。観光客から「田曽白浜はきれいな海と美しい砂浜がとても素晴らしいですね」と声をかけてくれる人も多くなり、何度もこの田曽白浜に訪れてくれるようになってきた。また、地元の漁業関係者の方にも「白浜がきれいになったなぁ」と嬉しい言葉をいただくようにもなった。
今ではわれわれの美化活動がきっかけとなり、地元の方々や各種グループなど少しずつではあるが美化ボランティア活動の輪が広まり始めてきた。また、今年からボランティア活動支援として、ごみ袋配布と、そのごみ袋いっぱいにプラスチックごみなどを拾ってくれた人には、併設のカフェでソフトドリンクを1杯無料にさせていただくなどの協力を行っている。
田曽白浜で観光事業を始めて2年余りが経った。決して美しいとはいえなかった砂浜は美しい砂浜として再生し、荒廃していたこの地も少しずつ観光客が訪れるようになり活気を取り戻してきた。多くの人は解放感を求め海にやってくる。楽しめるはずの海がいつまでも美しい海であってほしいと誰もが願っている。このことは自然との共生を目指すものの宿命として、引き続き取り組んでいかなければならないと思っている。自然を守り、自然との共生の中で地方創生を目指し始めた事業は、道半ばだが徐々に形として表れ始めてきた。
地方創生という夢の実現への道のりはまだまだ険しく厳しいが、挑戦し続けていこうと考えている。 (了)

第488号(2020.12.05発行)のその他の記事

ページトップ