Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第486号(2020.11.05発行)

編集後記

帝京大学戦略的イノベーション研究センター客員教授♦窪川かおる

♦2020年のノーベル化学賞は、CRISPR-Cas9法というゲノム編集技術の開発で米国とドイツの女性研究者2名に授与された。この方法は、従来の遺伝子組換え法とは異なり、正確に対象生物の特定の遺伝子だけを切断する。医療や生命科学の研究だけでなく、品種改良を速く確実に実施する育種技術として農業・水産業への利用も期待されており、わが国の水産分野でも研究が進められている。重要な海産養殖魚の1つ、マダイでは、骨格筋発達の抑制因子遺伝子を切断することで筋肉量が増加した養殖マダイが作出され、市場に出る日も遠くないという。養殖産業と先端科学研究との連携に期待したい。
♦(公社)日本地球惑星科学連合(JpGU)は、51学会が参加する大規模団体である。その設立30周年大会および米国地球物理学連合の大会との共同大会が、世界初となる数千人規模のオンライン国際学術大会として開催された。執行部の決断、100日余の入念な準備およびトラブル解決策と成功談を、開催時の会長であった東京大学大気海洋研究所の川幡穂高教授にご寄稿いただいた。JpGUは深刻化する地球環境問題を最前線で研究している。その活動に感謝したい。
♦新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、グローバル化した世界のもろさを露呈した。この危機に対しては、公衆衛生だけでなく、各国の経済・防衛に及ぶ政治的対応を必要とし、さらに国際連帯が不可欠となる。とくにワクチン開発と公平な供給を目指した国際協調の仕組みの保証は重要である。しかし、中国の台頭は保健協力で重視されてきた人権尊重の規範を揺るがしかねない。東京都立大学の詫摩佳代教授より感染症と戦う国際連帯への期待と憂慮への論考をいただいた。
♦詫摩氏の論考にある中国台頭については、本誌共同編集代表である坂元茂樹著の新書『侮ってはならない中国 いま日本の海で何が起きているのか』(信山社)が大変参考になる。是非お薦めしたい。
♦室戸半島東海岸に位置する高知県海洋深層水研究所は、1989年4月に日本初の海洋深層水の取水施設として稼働し始め、その後の深層水商品の流行により深層水研究の領域が拡大し続けた。川北浩久所長より30年来の業績と深層水研究の奥深さを教えていただいた。深層水の取水管内部が15年経っても綺麗なので驚いた。現在は水産分野を軸とし、深層水を利用したサツキマス・ニジマス養殖などの事業化を進めている。さらなる進展に期待する。(窪川かおる)

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