Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第486号(2020.11.05発行)

COVID-19に伴う日本地球惑星科学連合2020年大会オンライン開催

[KEYWORDS]新型コロナウイルス感染症(COVID-19)/オンライン/Virtual
東京大学大気海洋研究所教授、(公社)日本地球惑星科学連合前会長◆川幡穂高

日本地球惑星科学連合(JpGU)は、地球惑星科学関連51学会、個人会員13,000人が参加している。
設立30周年大会および米国地球物理学連合の大会との共同大会が、世界初となる数千人規模のオンライン国際学術大会として開催された。
今後、会場開催であっても、一部オンライン発表が混じるなど、学術大会の開催方式も変化していくと予想される。

(公社)日本地球惑星科学連合について

2017年第1回JpGUーAGU共同大会会場風景

地球は水惑星と呼ばれるが、近年、水の存在を示す惑星や衛星が太陽系で見つかってきた。地球上の海洋は地表面積の70%を占めるものの、海水量は地球全質量の約0.023%にすぎない。「この希少な水が、なぜ海として存在しているのか」、「海水の組成は太古代から同じであったのか」、「海は生物の進化にどのように貢献したのか」などの課題に答えようとするのが「地球惑星科学」である。(公社)日本地球惑星科学連合(以下、JpGU)は、1990年に5学会で合同大会を開催したのが起点で、現在、地球惑星科学関連51学会が参加し、連合全体の会員は13,000人である。JpGUは2020年に30周年を迎えた。地球や惑星のシステムは複雑で、そこで生起する現象は多様である。「宇宙惑星科学」「地球生命科学」「固体地球科学」「大気水圏科学」「地球人間圏科学」と科学セクションに分類されているものの、多面的な研究が奨励されている。
JpGU大会は、近年、幕張メッセや横浜パシフィコを会場として開催されてきた。大会は年とともに拡大し、2019年の参加者総数は8,390人で、35%は学生(大学院生+学部生)と若者が多いことが特徴である。2017年には第1回目のJpGUとAGU(米国地球物理学連合)との共同大会を開催し、海外から1,111人の研究者の参加があった。JpGUの使命は、日本の関係コミュニティのコンセンサスの構築、政府や社会との窓口機能、学術の振興、同業の国際組織との連携、研究成果の社会への伝達である。年大会開催と国際誌(オープンアクセスの電子ジャーナル『Progressin Earth and Planetary Science』)の出版が大きな柱となっている。これまでAGU、EGU(ヨーロッパ地球科学連合)、AOGS(アジア・オセアニア地球科学連合)と協力協定を結び、国際連携を発展させてきた。

JpGU-AGUオンライン共同開催(7月12~16日)

■第2回JpGU-AGU共同大会:オンライン大会のロゴ
http://www.jpgu.org/meeting_j2020v/

当初、2020年5月下旬に幕張メッセで第2回JpGU-AGU大会が共同開催され、セッション数も過去最高で盛会になると予定されていた。しかし、3月中旬以降、日本でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が急速に拡大した。会員へのアンケート調査によると、オンライン開催でも70%程度の方が参加の表明をされたが、厳しいコメント文も結構あった。4月10日の理事会では、「参加者にとり安全な大会開催」、「継続的な地球惑星科学の発展」、「若手研究者へ発表の機会の提供」の3つを2020年大会の最優先事項と位置付け、議論した。この頃は、第1波のピークに当たり、「日本は強烈なパンデミックになる」という悲観論と政府の専門家会議の勧告による「80%接触が減れば、回避できる」との相反する意見が対立し、理事会は大幅に時間を延長して討議した。基本的に未来は誰にも正確に予測できない。とはいえ、私が集めた今後を占う支配因子の異なる4つのグラフの中の3つは回避を示唆したので、2020JpGUAGU共同大会は会場開催を断念し、「オンライン開催」に移行することを理事会で決定した。
100日余という準備期間を経て、2020年7月12〜16日に大会を実施した。ユニオン・パブリックなどの特別なセッションではZoomアプリを使用して口頭発表を行った。それ以外の個人の学術成果は、画像やテキストに加え、動画や音声も使用できるiPosterというアプリを使用して発表された。研究者相互の意見の交流が学術大会での醍醐味であるため、今回は、各セッションのテーマやトピックスなどの議論には、Zoomを使用してDiscussion Forum Sessionという場を設定した。ここでは、コンビーナーの誘導の下、テーマに興味のある科学者が参加し、討議を行った。そもそもiPosterは、aMUSE社というスウェーデンの会社が、AGUと数年間かけて共同開発してきたものである。しかし、今回のように4,000を超える発表を経験していなかったため、最終的に3%弱の発表トラブルが発生し、発表者にご迷惑をおかけしてしまい、申し訳なかったと反省している。今回の大会は、課金システム(安全性)と連動させ、COVID-19以降、世界で初めての大規模(数千人単位)な「オンライン」国際学術大会であったとAGUより聞いている。
近年、飛行機などの移動手段による二酸化炭素排出の削減を目指し、現場開催でなくオンライン発表も推進すべしとの意見も、市民権を得てきた。この方式だと、海外も含めた遠方の人、事情により宿泊を伴う参加が難しい人の出席が可能となる。今後、会場開催であっても、一部オンライン発表が混じるなど、学術大会の開催方式も変化していくと予想される、この岐路となったのが、2020年のJpGU大会だと言うことができる。

分野融合/統合概念の創出に向かう学術

未来の地球を予測するには、現在の姿を理解し、過去の歴史を解明することが必要である。しかも専門分野をまたぐ研究により、深い理解へ至ることが要請される。これは海洋研究にもあてはまる。世界の大都市のロックダウン中にも、大気中の二酸化炭素濃度はマウナ・ロア観測所(米、ハワイ州)で最高値を示した。化石燃料から放出された二酸化炭素の半量は、海洋に吸収され、これは地球温暖化を緩和してきた。しかし、二酸化炭素は水に溶解すると弱酸性を示すので、海水のpHが下がる海洋酸性化問題が21世紀後半に深刻になる。2050年には炭酸塩生物殻が溶けてしまう海域が南極海に出現し、今世紀末には南極海、北極海を周回するように拡大する。2000年頃でも、地球全体の平均海面は上昇(1.6mm/年)していた。この原因の50%は、海洋への熱量蓄積による膨張率であるらしい。海洋の平均深度は3,700mなので、わずかな水温上昇でも海面上昇が起こるのである。現在、この上昇率は2倍に加速し、南極大陸の氷床などの一部が融解を開始したとの指摘もある。このように、二酸化炭素に関連して、海洋にもさまざまな影響がでてきており、将来の影響予測では多面的な協力が求められる。
地球惑星科学は、地球を一つのシステムとして考え、分野横断的かつ統合的概念の創出を目標に、政策にも直結する科学的最先端の知見を社会に提出することを目指して日々努力している。今回オンライン大会を経験し、「年大会の醍醐味は実は3密にある」と感じた。それは、講演・質疑応答、通路での議論、夕方の懇親などの交流である。2021年の大会は、今年新築されたパシフィコ横浜ノース会場で行われる予定だ。COVID-19が収束し、2021年、現地で皆様にお会いできることを楽しみにしている。(了)

  1. (公社)日本地球惑星科学連合(Japan Geoscience Union) http://www.jpgu.org/en/

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