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第482号(2020.9.5 発行)

シベリア鉄道パイロット輸送の取り組み〜輸送手段の多元化に向けて〜

[KEYWORDS]グローバル・サプライチェーン/事業継続計画(BCP)/コンテナ輸送
国土交通省大臣官房参事官(国際物流)◆宮島正悟

シベリア鉄道による輸送は、海上輸送よりもリードタイムが短く、航空輸送よりも低コストであることから、1980年代には多く使われたが、ソ連崩壊後に利用が激減し新しい情報も入りにくい状況が続いた。
海上、航空に続く輸送の第3の選択肢として、海上輸送との組み合わせによるシベリア鉄道の利用促進の取り組みを紹介する。

グローバル・サプライチェーンを支える海上輸送

わが国が輸出入する貨物の99.6%が海上輸送によって運ばれており、その量は約12.5億トンに上り、その約21%がコンテナで運ばれています(出典:『数字でみる港湾2019』)。コンテナ以外の貨物は、三大バルク貨物(石炭、鉄鉱石、穀物)のほか、原油、ガス、自動車、大型機械などです。
貨物輸送のコンテナ化は、日本では1960年代後半に本格化し、近年では2万TEU(20フィートのコンテナ換算で2万個)以上を積めるコンテナ船も就航しています。コンテナ船の大型化によるスケールメリットによる輸送コストの低減や、荷主の要望に対応した定時性の向上などの結果、アジア域内をはじめ世界全体で国際的な水平分業が進んできました。
一方で、精緻なグローバル・サプライチェーンの構築によって、何らかの理由でサプライチェーンが停滞すると、最小限の在庫で生産体制を維持している製造業に混乱が生じるリスクをはらむことになりました。サプライチェーン維持のために、多くの企業で事業継続計画(BCP)が策定されています。東日本大震災を契機とした2013年の国土強靱化基本法と、それに基づく国土強靱化計画には、BCP作成の重要性が盛り込まれました。国土交通省が2015 年に作成した『荷主と物流事業者が連携したBCP 策定のためのガイドライン』では、発災時等の物流機能の維持や代替輸送手段の確保を強調しています。
そこで、ここでは輸送手段の多元化に向けたひとつの取り組みを紹介します。

■図1 日本〜欧州間の南回り航路とシベリア鉄道経由の輸送経路

シベリア鉄道を利用した貨物輸送の現状

シベリア鉄道は、モスクワと極東のウラジオストクとの間の約9,300kmをつなぎ、ロシアの国内貨物輸送の約9割(トンキロベース)を担う重要な輸送手段です。現在も多くのコンテナ船が利用する「南回り航路」は、マラッカ海峡やスエズ運河を経由して欧州まで2万km以上になります(図1)。シベリア鉄道を利用する場合は、これに比べて輸送距離も輸送日数も短くなるメリットがあります。また、通年で利用が可能です。
かつて、日本~欧州間で輸送されるコンテナの2割以上がシベリア鉄道経由で運ばれていた時期がありました。1980年代前半のことです(出典:宮本敬『ユーラシア大陸に架ける橋』)。当時は1隻のコンテナ船に載る個数は1千TEU程度。シベリア鉄道を利用するほうが海上よりも安く運ぶことができ、それが大きなメリットでした。
利用にあたって問題もありました。発送された貨物の現在地や到着日の見当がつかなかったり、極東港湾での通関手続きで長い日数留め置かれたり、あるいは輸送中に包装が破れて中身が出たり、というような不具合もありました。それでも、メリットが大きいために多く利用されていたのです。
しかし、1991年のソ連崩壊で鉄道運営が混乱し、日本企業の利用は激減します。それから30年近くが経過し、シベリア鉄道による日本~欧州間のコンテナ輸送は、最盛期のわずか40分の1程度にとどまっています。日本の荷主企業にアンケートを行ってみると、利用に関心ありと回答した企業も多くありました。しかし、実際の利用が少ないのはなぜなのか。
少し具体的に話を伺うと、輸送コストが海上輸送より高いことがまず指摘され、そのほか輸送日数の変動、手続きの煩雑さ、輸送品質などの課題が挙げられました。ただ、これら個々の課題以上に私たちが注目したのは、シベリア鉄道に関する新しい情報が入らず、1980年代の印象のまま利用を断念している企業が多い、ということでした。そこで、シベリア鉄道の現状を把握するために、試験的にコンテナを輸送し、その中で課題を検証することにしました。

パイロット輸送を通じた課題の検証

2018年度と2019年度の2カ年にかけて、合計11件のパイロット輸送を実施しました。2018年度は、日本~モスクワ間の輸送、計7件を行いました。検証対象は、輸送日数、手続き、輸送品質などです。その結果、輸送日数は日本の港からモスクワまで15日から31日とかなり幅がありました。輸送品質(振動、衝撃、温湿度等)については、実施した輸送では大きな問題は確認されませんでした。
2019年度には、範囲を拡大して日本からモスクワを経て欧州までの間の輸送を試みました。このルートは、途中のベラルーシとポーランドの国境で軌間(レールの幅)が変わるため、積み替えの必要が発生します。その際の衝撃発生、国境での手続き、全体のトレーサビリティ(日々のコンテナ位置の把握)などを検証対象としました。その結果、輸送日数は、日本の港からベラルーシ国境の駅まで13日から20日、目的地とするドイツなどの駅まででも最長24日であり、前年度よりも輸送距離は長くなりましたが日数は短縮されました。また、トレーサビリティについては、ウェブ上で位置を把握できるサービスも実施されていることを確認しました。
2019年度に輸送日数が短縮された要因として、物流企業が手続きに習熟してきたことのほか、ロシア政府等がINTERTRAN(インテルトラン)と呼ばれる電子手続きシステムを構築したことも挙げられます。一方、ロシア語での書類作成や重量物の積載における手続きなど、現状での課題も確認できました。課題の中で荷主企業や物流企業の最大の関心は、コストです。輸送コストは、貨物の種類や量などに依存して決まるものであり、パイロット輸送での詳細な確認は困難ですが、大まかにいえば、海上輸送よりも数割程度高くなるようです。
以上のように、まだ残っている課題もありますが、実施したパイロット輸送によって既に大きく改善した部分もあることが分かりました。

今後への期待

最後にひとつ。シベリア鉄道を使うには極東の港湾までの海上輸送が不可欠であることを忘れてはいけません。日本とウラジオストク等の極東の港との間では、現在、週1~2便程度が運行されていますが、これが週3便、4便と増えれば、荷主企業が望むタイミングで発送しやすくなり、利便性が高まります。また、貨物が増えれば、輸送コストが安くなることも期待されます(輸送コストが安く、利便性が高まれば、貨物が増えることも期待されます)。
シベリア鉄道による輸送は、海上輸送よりもリードタイム(商品の発注から納品に至るまでの輸送などにかかる時間)が短く、航空輸送よりもコスト面で有利になり(図2)、また鉄道輸送には環境面でのメリット(少ないCO2排出量)もあります。
実施したパイロット輸送がひとつのきっかけとなり、輸送手段の多元化の観点からも、海上輸送、航空輸送に続く第3の選択肢としてのシベリア鉄道の利用が進むことを期待しています。(了)

■図2 海上輸送、航空輸送に続く貨物輸送手段としての鉄道(イメージ)

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