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第482号(2020.9.5 発行)

外航海運業は新型コロナウイルスにいかに立ち向かっているか

[KEYWORDS]グローバル物流/新型コロナ感染予防/船員交代
関西外国語大学外国語学部教授◆宮下國生

新型コロナウイルスの流行において、外航海運業は船員の感染予防対策と船員交代システムの構築という2つの課題をもっている。
感染防止対策等に関しては5月に国土交通省海事局安全政策課がガイドラインを示し、これを受けて(一社)日本船主協会が主に外航海運事業者向けに感染予防対策ガイダンスを公表した。
船員の交代についてはIMOが加盟国政府に対して勧告を続けているが、多くの国が導入した感染防止のための制限にも阻まれ、改善されない状況にある。

グローバル物流を守るために

外航海運業は、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の急速かつ大規模な感染拡大による各国の経済活動の自粛と大幅な沈滞の影響を被っている。グローバル規模で構築されたサプライチェ-ンが分断され、海運各社は当面の大幅な減便とスケジュール変更を余儀なくされている。しかし世界の海運各社、とりわけコンテナ船企業は、すでにアライアンスの集約や大型合併によって筋肉質の経営基盤を形成しているため、多くはこの危機を切り抜けることができると思われる。すなわち、業績面への影響は頗る大きいが、経営の存続にまで及ぶことはないであろう。
グローバル物流を守るために、新型コロナに対応する外航海運業の当面の課題は、大きく分ければ2つある。一つは船員の感染予防対策であり、もう一つは船員交代システムの構築である。これら課題への対応の特徴は、現在までのところ、国および国際機関さらには業界団体をベースとする流れになっており、企業各社が前面に出た対応は見られない。そこで本稿では、国および国際機関並びに業界団体による新型コロナ対策のガイダンスを巡る国内の動向と船員交代の国際的動向を中心に話を進める。

感染予防対策ガイダンスの国内動向

国土交通省海事局安全政策課は2020年5月11日に『感染防止対策及び船上で乗組員や乗客に新型コロナウイルス感染症に罹患した疑いがある場合の対応等について』※1という文書を業界団体に通知した。その狙いは、緊急事態においても事業継続が求められる海運業従事者の感染予防、健康管理に向けた入港時、停泊中および航海時における取り組みや、洋上や日本および海外での接岸時において乗組員や乗客が新型コロナ感染症に罹患した疑いがある場合等の対応について検討する際の基本的なガイドラインを示すことである。加えて、乗組員が新型コロナに感染した場合でも可能な限り業務を継続するため、①船内における新型コロナ対策の責任者・担当者の選定、②マスク・消毒液・ビニール手袋等の確保・手配、消毒の手順の作成、消毒実施要員の選定、および③乗組員の交代要員確保などの体制を予め検討し、必要な準備を行うように海運事業者に対し求めている。
これを受けて(一社)日本船主協会は、5月15日、『新型コロナウイルス(COVID-19)に関するガイダンス』※2を主に外航海運事業者向けに公表し、本ガイダンスを参考に、各海運事業者において、個々の職場・現場や感染リスクの実態に即した、実行可能で効果的な対策を、迅速かつ適確に講じることにより、感染拡大の予防に万全を期していく必要があることを強調した。加えて本ガイダンスに記載のない取り組みを含め、業界内外の好事例を積極的に取り入れ、創意工夫しながら、感染リスクの実態に即した対策を実践していくことが重要である旨強調している。このガイダンスが各海運事業者の保有する知見と無関係に策定されたのではないことは評価されるべきであろう。とりわけ、ガイダンスが取り上げた重要項目である乗組員が発症した場合の措置について、一般論としては、検疫法等の要求に従い、入港国への検疫通報を行い、入港国の指示をあおぐことを提案しているが、日本の場合、検疫法、出入国管理法において入港(入域)を拒否できる根拠がないこと、また旗国は入港のアシストはできないため、発症者等の緊急下船が必要になった場合に、P&Iクラブ(船主責任相互保険組合)への相談を推奨としていることなどが注目される。

船員の交代を巡る国際的混迷

国際間の貨物輸送を担うコンテナ船(2020年5月カナダ・オークランド港にて)

船員が発症した場合も含め、船員交代に関わる国際的動向としては、すでに国際海事機関(IMO)が、2020年3月27日付けのCircular Letter(回章文書)No.4204/Add.6において、特に港湾での船員の変更を容易にするための措置として、加盟国政府に対して、勧告を行っている。そのポイントは、①国籍に関係なく、管轄内にある船員を、必須のサービスを提供する「キーワーカー」として指定した上で、②船員の交代を目的として、公式船員の身分証明書、退院書、STCW 証明書、船員雇用契約、および海事雇用主からの任命状が提出されれば、③船員交代と本国送還のために、船員を下船させて領土(空港)を通過することを許可するなど、④船員変更および本国送還の目的で下船しようとする船員に対して、適切な承認を実施することである。
これを受けて、欧州委員会(EC)は、4月8日にEU 加盟国に対し、乗組員の変更を迅速に追跡するための港湾を指定するよう求めるガイドラインを発行し、さらに船員交代のためのグリーンレーンの導入を促進するよう加盟国に要求した。この提言に対し、世界の商船の80%以上を運航するアジア、南北アメリカ、欧州の国内船主協会の国際組織である国際海運会議所(ICS:International Chamber of Shipping)事務局長は、ECが、EU加盟国に対して、船員の基本的な移動を促進するよう呼びかけたリーダーシップを歓迎するとの談話を公表した。
さらにIMOは2020年5月5日付けのCircular Letter No.4204/Add.14によって、船員交代手順を詳細に説明して、加盟国政府がこの問題に取り組むために緊急の行動をとることを強く奨励したものの、これによっても事態が改善する兆しはないことは、5月29日に、ICSが感染予防のガイダンスの2.1版※3を公表したことからも明らかである。そこで注目されるのは、船員交代にも関わる入港制限の項である。それによれば、WHOの国際保健規則(IHR)やその他の国際規則に違反して、多くの国が、新型コロナの発生後に、国家レベルあるいは地域限定の制限を導入した。例えば、就航許可の遅延、船員の乗下船(陸上休暇および乗務員変更を含む)の阻止、貨物の船下ろしと船積み、燃料・水・食料等の持ち込みの阻止、船舶への検疫の強制または極端な場合には入港拒否である。ICSはこれらの措置が海上交通を混乱させることから、IHRやIMO条約および船員の権利と取り扱いに関するその他の海事原則に違反する可能性があると警告してきた。しかし現実には海運各社はこれらの国および地域の制限に従うしか選択肢がない状況にあると強調している。
このICSの報告から読み取れることは、新型コロナの発生という緊急事態に立ち向かうIMO、ILOなどの国際機関の指導力の欠如である。ついに国連事務総長も6月12日の記者会見で、世界で200万人いる船員のうち数十万人がどこにも上陸できず、数カ月にわたり海上に取り残されているとして、事態の深刻さを指摘するに至った。COVID-19パンデミック下の海上輸送の円滑化を審議中であったIMO第32回臨時理事会では、7月13日付けのCircular Letter No.4204/Add.24において、船員を基本的サービスを提供するキーワーカーとして指定し、彼らの地位を守るための法的可能性を検討することを共同声明で表明したものの、果たしてグローバル世界における連携から分断への流れが外航海運業でも進むのか、その行方を注視しておく必要がある。(了)

  1. ※1国土交通省海事局安全政策課『感染防止対策及び船上で乗組員や乗客に新型コロナウイルス感染症に罹患した疑いがある場合の対応等について』
    https://www.mlit.go.jp/kikikanri/content/001344236.pdf
  2. ※2(一社)日本船主協会『新型コロナウイルス(COVID-19)に関するガイダンス』(第3版)
    https://www.jsanet.or.jp/covid-19/pdf/guidance.pdf
  3. ※3ICS, Coronavirus (COVID-19) Guidance for Ship Operators for the Protection of the Health of Seafarers.
    https://www.ics-shipping.org/docs/default-source/resources/covid-19-guidance-for-ship-operators-for-the-protection-of-the-health-of-seafarers-v2.pdf?sfvrsn=4
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