◆2020年5月25日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための緊急事態宣言が全国で解除された。世界中で猛威をふるう新型コロナの影響のため、本年は「海洋のスーパーイヤー」と呼ばれるほど多数の海洋に関する重要な国際会議が開催予定だったが(本誌472号参照)、ことごとく延期や中止になっている。他方で、コロナ危機において、その対応に際し科学的データに基づく政策決定をする政治家に住民が信頼を寄せる現象がみられる。2021年から「国連海洋科学の10年」が開始されるが、海洋に関する政策決定は科学的証拠に基づく措置であることが求められており、持続可能な海洋の保全と利用に向けた科学の役割に期待したい。 ◆東京工業大学教授を務めるかたわらMaOI(Marine Open Innovation)機構統括ディレクター・理事である橋本正洋氏から静岡マリンオープンイノベーションの取り組みについてご説明いただいた。海洋先端技術(Blue Tech)による新産業創生に取り組むMaOI 機構は、マリンバイオを中核に据えた様々な産業創生を目標とし、そのプロジェクトの基本理念は、海を知り、育て、活かすことにより産業と地域社会の適切かつ持続可能な発展を目指しているとのこと。Blue Tech Clusterの国際的ネットワークに力を入れる同機構の発展に期待したい。 ◆浦野明央北海道大学名誉教授から溯河性資源であるサケの母川回帰のメカニズムと海水温の変動が及ぼす影響についてご寄稿いただいた。日本の川で生まれたサケが北洋の海(ベーリング海とアラスカ湾)で成長し、産卵のために生まれた川に3,000kmの旅を経て帰ってくる事実に驚きを禁じ得ないが、最近の研究では海流ではなく地磁気を利用して北海道沿岸まで回帰してくるとのこと。こうしたサケの回遊は遺伝的にプログラムされており、その遺伝子プログラムの解明に取り組む研究の現状と海水温の変動の関係につきぜひ本誌を一読いただきたい。 ◆千足耕一東京海洋大学教授には、水辺のスポーツとして人気の高いスノーケリングを安全に楽しむための注意事項についてご説明いただいた。海上保安庁の調査で2018年の事故者数は75名、死亡・行方不明者は45名と聞いて驚いた。事故原因の8割が「自己の過失」とのこと。緊急事態の解除後、湘南海岸には多くの人出があったが、スノーケリングをする際には、千足氏が監修した『初心者のためのスノーケリング安全手帳』を読んで、事故がないように楽しんでもらいたい。(坂元茂樹)
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