Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第477号(2020.06.20発行)

スノーケリングを安全に楽しむためには

[KEYWORDS]水辺活動/安全管理/安全学習教材
東京海洋大学学術研究院海洋政策文化学部門教授◆千足耕一

スノーケリングは、海や湖沼・河川等をはじめとする水域で、水面を浮遊・遊泳しながら行う、水辺の自然に触れる活動である。
近年では愛好者の増加が報告され、指導者の養成が実施されるようになってきた一方で、スノーケリング中の事故も増加傾向にある。スノーケリングを安全に楽しむためには、水辺に特有な自然に関する知識の獲得、器材使用に関する技術の習得、水域利用にかかわる法令の遵守・マナー向上が求められる。

スノーケリングとは

スノーケリングとは、マウスピースを口にくわえてスノーケル(筒)を通じて呼吸しながら水面で浮遊・遊泳する活動を指し、広い意味ではスノーケルという用具を用いて行う活動を指す。スノーケル(snorkel:英語)と同義のシュノーケル(schnorkel:独語)の語源は、「旧ドイツ軍のUボート(潜水艦)が水中航行中に海面に出す通風・送気管」であると言われている。(一社)日本スノーケリング協会はスノーケリングについて、「主に水中マスク、スノーケル、フィン、スノーケリングベストといった用具を身に付け、水面での浮力を十分に確保しつつ、水面上を漂うように移動し、口にくわえたスノーケルを通して常に呼吸活動を継続しながら、水面から水中の様子を観察する活動を指す」と説明している。1964年にスノーケリング愛好者のアマチュアクラブ東京潜泳会を発足させた大橋禄郎の著書『ハッピーダイビング』(水中造形センター、1995)によると、スノーケリングとは水面を歩くことであり、アメンボのように水面に浮き、鳥のように水中を眺めながら散歩をするようにゆったりと活動すること、潜らないことが安全性を高めるとも記述されている。
スノーケリングとは別にスキンダイビングという言葉があるが、スキンダイビングとは水中・水圧下での息こらえ潜水を含んだ活動であり、より多くの知識と技術を身につける必要がある。但し、事故統計や新聞記事等に示されている「スノーケリング」は、スノーケルを使用した活動全てを指して使用しているように考えられる。スノーケリングが多義的に用いられている現状があるということも認識しておく必要があろう。

スノーケリング活動中に関わる安全管理

海上保安庁は、2018(平成30)年度におけるスノーケル使用中の事故を分析し、事故者数は75名、うち死亡・行方不明者は45 名であり、事故内容別では溺水(おぼれ)が83%と最も多く、次いで帰還不能8%、病気4%、負傷2%の順に多かったとしており、事故原因の8割が「自己の過失」と報告している。「自己の過失」の内訳については、知識技能不足(37%)、気象海象不注意(18%)、実施中の活動に対する不注意(13%)、健康状態に対する不注意(12%)、無謀な行動(8%)の順で多かったと示している。2017年の日本海洋人間学会第6回大会で高野修らが発表したスノーケリング愛好者対象の「スノーケリングにおけるヒヤリ・ハット調査」によると、「唇がゆるんで海水を飲み、パニックになった」「波にあおられて岩に接触しそうになった」「写真撮影に夢中になってグループからはぐれそうになった」「流されて、なかなか岸に戻れなかった」などの事例が報告されている。一緒に活動すべきバディ(仲間)とはぐれたなどの実施中の活動に対する不注意が36%と最も多く、次いで知識・技能不足を原因とする事例が28%と多いことが特徴である。
海上保安庁が示す最大の事故原因である「溺水」に至らないようにするためには、マスク・フィン・スノーケルに関する基礎的な技術の習得、スノーケリングベストやウエットスーツなどの浮力体の着用、単独行動の厳禁、指導者の介在、注意力向上の喚起などに加えて、安全管理手法の導入が考えられる。安全管理手法には、活動中止・禁止の明示、時間の制限、エリアの制限、人数制限、適切な指導者/実施者の比率の明示と厳守、舟艇や陸上からのウォッチ実施、スノーケリングベスト等の浮力体着用必須化などがある。例えば、プールや足の立つ浅瀬で器材の使い方をしっかりと身につけてから行動範囲を広げることが非常に重要である。また、活動する水域の波や流れに注意を払い、無理な行動をしないように注意喚起したい。
スノーケリング中の安全性を向上させるためには、上記の安全管理と実施者による安全学習の両輪を働かせることが求められる。スノーケリングの安全学習教材として筆者が監修して、2019年に(一財)社会スポーツセンターが『初心者のためのスノーケリング安全手帳』を10,000部発行し、スノーケリング器材のメーカー、都道府県スノーケリング協会、海上保安庁、全国海上保安本部、スクーバダイビング指導団体、全国水産海洋高等学校、スノーケリング実習を行っている主な大学、三宅島ライフセービングクラブ等に配布した。沖縄をはじめとする地域では、外国人によるスノーケル使用頻度が上昇している現状を鑑み、今後は英語版や中国語版等の作成を企画している。

■水辺に持参できる小さな蛇腹折りの『初心者のためのスノーケリング安全手帳』
上図の二次元コードおよび下記のサイトでダウンロード可能。
http://chiashi.jp/

指導者養成・資格認定および今後の課題

スノーケリングに関連する団体で、指導者およびスノーケラーを養成し、講習の修了や技能に関する認定カード等を発行している団体には、日本スノーケリング協会(社会スポーツセンター内に事務局)、日本スノーケリング連盟(NPO法人バリアフリー・スポーツ・ネットワーク)、(一財)沖縄マリンレジャーセイフティービューローがある。このほか潜水指導団体ではNAUIジャパンがスノーケリングリーダーを養成しているほか、PADIジャパンでもスノーケリング・プログラムの提供を行うなど、スノーケリングに関するすそ野が広がっている状況にある。今後、スノーケルを使用して水中観察を行う人々が増加することが予測されることからも、スノーケリングに関する情報収集と研究推進、およびスノーケリングに関する教育の普及が期待される。海水浴の延長上、あるいは海水浴で手軽に行う人々が多いこともスノーケリングの特徴であるが、海で安全に活動するために、海を知り、ルールやマナーを守ることも含んで海の使い方を学んでもらえるような組織づくりや環境づくり、教材作成も重要であろう。(了)

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