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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第477号(2020.6.20 発行)

Blue Techによる新産業創生〜静岡マリンオープンイノベーションへの取り組み〜

[KEYWORDS]マリンバイオテクノロジー/新産業クラスター/SDGs
東京工業大学環境・社会理工学院教授、MaOI機構統括ディレクター・理事◆橋本正洋

マリンバイオテクノロジーを中心としたマリンオープンイノベーションのプロジェクトが、2019年度から静岡県で立ち上がった。
海洋遺伝子資源の活用と新産業創生に向けた拠点整備の意欲的なプロジェクトである。
さらに、米国を中心に世界的に推進されているBlue Tech クラスター構想に進展している。
同構想は、およそ海洋にかかるすべての産業を対象として、科学的な知見に基づく持続可能な技術開発と産業化を都市・地域レベルで目指すものであり、SDGsに対応したものでもある。

海洋バイオ研究所の存在とMaOI

かつて清水(静岡県)と釜石(岩手県)には、「海洋バイオテクノロジー研究所」が設置されていた。これは、海洋生物資源の新たな活用について研究開発を進め産業化を目指す国家プロジェクトとして実施されたもので、東亜燃料工業(現JXTGエネルギー(株))および新日本製鉄(現 日本製鉄(株))をはじめとする民間企業24社や大学が参加し、100億円規模の事業を進めた。この取り組みは世界に先駆けて行われ、研究所の運営にも貢献された松永是東京農工大教授(当時)により、日本に国際マリンバイオテクノロジー学会(IMBA)が設立され、1992年5月には第1回の国際研究発表会を清水の地(東海大学海洋学部)にて開催したのである。初代の会長は、宮地重遠MBI総合研究所長がつとめた。当時は、バイオテクノロジーの可能性への期待が急速に高まった時代で、遺伝子組み換え技術が普遍化し、その後のゲノム解析に続いていく飛躍期だったといえる。その中で、海洋生物の遺伝子資源には未知のものが多く、特に地上では見られない高温や高硫黄などの極限環境で生息する生物の存在に、無限の可能性を見出したのである。
それから時を経て、清水の研究所は解散し、釜石は北里大学海洋バイオテクノロジー研究所に継承された。釜石は東日本大震災により甚大な被害を受けたが、関係者のご努力により、現在もこれまで蓄積した微生物資源のカルチャーコレクションの維持活用などが続けられている。
こうした経緯も踏まえ、2018年、関係者によって清水に再度「マリンバイオ」の拠点を構築しようとの機運が芽生え、これに応えて、静岡県が2018年11月、駿河湾などにおける海洋由来の生物資源を活用した産業振興を進めるため、「マリンバイオ産業振興ビジョン検討協議会」を発足させた。駿河湾は、世界有数の急峻な海底地形を持つ。また日本一深い湾であり、最深部は2,500mに達する。また、富士山系・南アルプスから豊富で清廉な地下水が注ぐ。このため、生物多様性に恵まれており、日本の魚類の40%以上の種が生息すると言われる。静岡県はここにマリンバイオの世界的拠点の形成を目指して検討を開始した。2019年2月に取りまとめられた同ビジョンを受け、2019年度当初から、マリンバイオテクノロジーを核としたイノベーションにより「産業の振興・創出」はもとより、「人材の集積と育成」「海洋をテーマとした地域づくり」「世界への発信と展開」を推進し、この地に世界的拠点を形成することを目指すべく、MaOI (Marin Open Innovation)プロジェクトとして始動した。同年7月には、中核推進拠点の運営に当たる支援機関である(一財)MaOI機構※1が設立され、初代理事長には松永是元東京農工大学長(現在は (国研)海洋研究開発機構理事長と兼任)が就任した。
その後、MaOIプロジェクトとして、オープンデータベースの構築、大学へのシーズ創出の委託研究、企業コンソーシアムへの事業化促進助成や、MaOIフォーラムなどの産学連携や啓発活動が開始されつつある。

マリンオープンイノベーションとBlue Techへの展開

MaOIプロジェクトは当初から世界とのネットワークを念頭に置き活動を行ってきた。MaOI機構の設立間もない2019年7月、高度な海洋研究と展示を同時に進めていることで世界的に有名なモントレー水族館をはじめ、米国西海岸の海洋関連プロジェクトとの連携のため調査に赴いた※2。ここで、すでにバイオクラスターとして有名なサンディエゴにて「Blue Tech(海洋先端技術)Cluster」の世界的ネットワークへの参加を推奨され、MaOIプロジェクトの方向性がさらに深化することとなった。Blue Tech Clusterは、海洋に関係するすべての産業に関する技術開発を起点として、地域に新しい産業を創生するというコンセプトのもと、TMA※3により提唱されてきたもので、その後、2017年に国連本部においても世界のBlue Tech Clusterによる会合が行われている。また、毎年11月にサンディエゴにて開催されているBlue Tech Weekの2019年開催時には日本のMaOIを含め世界8か国のクラスターが集結し、海洋産業の未来について議論を深めた。Blue Tech Clusterの構成要素は、①Ocean and Water Industries、②Science- Based、③Sustainableである。海洋に関するあらゆる課題を産業化に結び付けようとする各国・地域の努力から、それぞれの有する海洋資源を活用していく国を挙げた活動となっている。例えば、TMAにおけるBlue Tech関連の海洋産業は、水産、造船、海洋バイオに始まり、港湾運送、エネルギーなど、実に16分野と多岐にわたっている。
こうした背景から、MaOIプロジェクトでは、海洋生物資源に着目したマリンバイオを中核に据えつつ、当初から水産・食品・ヘルスケアのほか、環境、水、観光、輸送等海洋に関する様々な産業創生をゴールとし、2020年3月に策定された「静岡県マリンオープンイノベーションプロジェクト第1 次戦略計画」においても、マリンバイオを中軸に据えつつ、Blue Techへの広がりを見据えた方向性が盛り込まれている。

■ MaOIプロジェクトの概要

MaOI の理念と今後の展開

2019年9月に静岡で開催された国際マリンバイオテクノロジー学会にて発出された『MaOI 宣言~海の恵みをBlue Techとイノベーションで 社会へ 未来へ』※4に示されているように、MaOIプロジェクトの基本理念は、海を知り、育て、活かすことにより産業と地域社会の適切かつ持続可能な発展を目指すものである。静岡発ではあっても、地域の産業のみならず、日本、そして世界規模で進めていくプロジェクトであり、国際ネットワークのもとに発展を図っている。今後地球規模のSDGs への対応を含め、世界的な拠点として進展していくことを期待する。(了)

  1. ※1(一財)MaOI機構:https://maoi-i.jp/
  2. ※2調査団は角南篤海洋政策研究所所長が先導、筆者のほか、五條堀孝MaOI機構研究所長、竹山春子マリンバイオテクノロジー学会会長や静岡県の関係者が参加した。
  3. ※3TMA:The Maritime Alliance 米国サンディエゴをベースとする世界でも先駆的なBlue Techクラスター。https://www.tmabluetech.org/
  4. ※4MaOI宣言:https://maoi-i.jp/message
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