Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第476号(2020.06.05発行)

「海の神戸大学」を目指して〜海洋政策科学部の新設と海神プロジェクト〜

[KEYWORDS]海洋人材の育成/海洋研究の推進/練習船の教育・研究活用
神戸大学大学院海事科学研究科教授◆阿部晃久

2003年に神戸商船大学との統合を通して、神戸大学は国内では数少ない「練習船を保有する総合大学」となった。
また、2015年に「神戸大学ビジョン 2015」を策定し、「学理と実際の調和」を理念とした世界最高水準の教育研究拠点の形成を目指している。
国際港湾都市神戸に立地する大学として、海を背景とした地域の活性化と海の教育・研究の推進へ向けた神戸大学の取り組みを紹介する。

海神プロジェクトの3つの取り組み

神戸大学は、「海の神戸大学」を目指すために「教育」「研究」「船舶運用」の3つの観点から、学部の新設、研究アライアンスの形成、基盤センターの設置による具体的な取り組みに着手しており、これらの取り組みを「海神プロジェクト」と名付けています(図1参照)。2019年11月から本プロジェクトの広報活動を本格化し、水先案内人として手塚治虫氏原作の「海のトリトン」を起用しました。海洋を舞台に、現代にも通じる地球的課題に遭遇しながら自分探しの旅を通じて成長してゆくトリトンを神戸大学の姿に重ね、海の背景を有する地域の活性化と海の教育・研究の推進に尽力して行きます。本稿ではそれらの取り組みの概要について紹介します。

■図1 神戸大学海神プロジェクト http://www.org.kobe-u.ac.jp/kaijin-pj/

学部の設置

神戸の地で長年にわたり培われてきている海技教育の伝統を継承する新たな「海洋政策科学部(仮称)」の設置を2021年4月に計画しています。本学部は、現在および将来の海事・海洋分野の諸課題に挑戦し、解決するための基礎知識や能力を身につけた人材を輩出することを中心に据え、教育・研究を一体として効果的に推進できる1学部1学科(募集人員200名)の体系としています(図2参照)。学科内には、海洋に関するサイエンス、テクノロジー、ガバナンスの専門領域を総合的に学ぶことができる「一般3領域」に加えて、海技士ライセンスの取得を目指す「海技ライセンスコース(90名まで)」を設置します。海洋産業技術、海洋開発、海洋探査、海洋環境保全などの海洋に関するサイエンスおよびテクノロジーだけでなく、海洋法や海洋政策などにも精通した海洋の幅広い教養と専門知識を備え、海事・海洋社会を牽引し、海洋に係る社会問題の解決に貢献できる人材(海のグローバルリーダーおよびエキスパート)、さらに海技ライセンスを取得し国際物流を支え、海運業界に貢献する「神大海技士」の育成に取り組みます。

■図2 神戸大学新学部の構成

現在検討中の海洋政策科学部の主な特徴について紹介します。
(1)2類型の入学者選抜
一学部の中で、文系科目重視型および理系科目重視型の入試を実施します。文系的思考の学生と理系的思考の学生が共に1学科の中で学び、交流することで、互いを知り、理解し、尊重する環境を作り出し、海洋問題の解決に不可欠な文理融合の思考力や対応力を育むことを狙っています。
(2)海洋リテラシー教育
海洋に関する専門分野への学際的学びに対する意識の向上を図り、海洋の教養的知識を身に着けます。また、海洋リテラシー科目を他学部生にも開放することで、海洋教養教育を神戸大学全学へ広げます。
(3)海のアクティブ・ラーニング
練習船を活用し、限られた船内空間での集団・協働学習体験を通して、陸上と異なる環境での活動を体験すると共に、海上ルールや実際の機器に触れ、専門分野への学びの意識を培います。
(4)主・副専門科目履修システム(メジャー・マイナー制)
専門性を深める「主専門科目」と専門性を広げる「副専門科目」を選択して履修する「主・副専門科目の履修システム」を導入します。学生の自由な選択により、海洋に関する専門知識をバランスよく身に着けます。
(5)海のBDL(Beyond-Disciplinary Learning)
海洋に関する教養科目、専門基礎科目および専門科目の学びを通して修得した多様な知識を基盤として、自ら課題を見出し、広い視野で物事を判断できる能力を養うため、海洋に関わる具体的な課題を専門性の異なる学生がチームを組んで課題解決に向けた提言に取り組みます。
(6)海のインターンシップ
海事・海洋産業分野に係るグローバルな企業や国内外の行政・研究機関等における研修・実習・就業体験を通して実社会を学び、実践力を涵養します。

海共生(ともいき)研究アライアンス

海洋由来災害のメカニズムの理解に基づく被害軽減へ向けた技術開発やシステム開発、海洋を巡る国際的課題の解決に繋がる海洋政策提言を行うシンクタンク機能の構築など、海洋を探求し、先端研究を推進することによって「海と人の共生」を追求する新たな研究ユニットが「海共生(ともいき)研究アライアンス」※1(2019年10月設置)です。教員の所属に縛られない専門分野横断型の全学研究組織として、先端研究の推進と国際的プレゼンスの確立に向けた政策提言を行うネットワーク型研究拠点の実現を目指しており、産官学に広く人材を求めて連携研究を発展させるなど、研究者の自由な発想と連携によって海の研究を推進します。

海洋教育研究基盤センター

神戸大学が所有する練習船の教育および研究への効果的効率的活用を促すために、「海洋教育研究基盤センター」が2019年4月に発足しました。本基盤センターは、練習船を始めとして他の舟艇も含めた設備の運航・管理、神大海技士養成教育や文部科学省から認定を受けている共同教育拠点プログラムおよび様々な教育プログラムの実施と開発、学内外との連携による先端的海域研究推進の業務を担っています。また、現在、「新練習船」の建造計画が進められており、災害援助のための設備や海洋研究のための機能も搭載することで、教育・研究活動利用への期待に応えることはもちろん、新練習船を起爆剤として多くの方に「海の神戸大学」を知ってもらい、海への興味を強めていただけるように活動して行きます。
神戸大学は、「海洋立国日本」の将来へ貢献すると共に、平和な海洋利用による「海と人の共生」の実現を追求し続けます。今後の「海の神戸大学」の成果にご期待ください。(了)

  1. ※1海共生(ともいき)研究アライアンス http://www.org.kobe-u.ac.jp/kaijin-pj/alliance/

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