Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第476号(2020.06.05発行)

多目的MDAサービス「海しる」で海を知る

[KEYWORDS]MDA/WebGIS/海洋台帳
海上保安庁海洋情報部海洋空間情報室長◆吉田 剛

2019(平成31)年4月17日、わが国の海洋状況把握MDAの能力強化に基づくWebGISサービス「海洋状況表示システム(愛称:海しる)」の一般向けの運用が開始された。
「海しる」は内閣府総合海洋政策推進事務局の総合調整のもと、海上保安庁が運用を担当するサービスであり、海洋関係機関が有する海洋情報を集約し提供する先進的なWebGISサービスである。
従前の「海洋台帳」の後継サービスであり、引き続きわが国の様々な海に関連する施策に資する取り組みである。

多目的MDAサービス「海洋状況表示システム(愛称:海しる)」

海洋状況表示システム、愛称「海しる」、英語名”Maritime-domain-awareness Situational Indication Linkages: MSIL”は、政府による多目的の海のWebGIS(ネット経由の地理空間情報システム)サービスであり、内閣府総合海洋政策推進事務局の総合調整のもと、海上保安庁が運用を担当している。「海しる」は、国土交通省の「生産性革命プロジェクト」における海洋ビッグデータを用いた海洋情報革命を推進する海洋分野の国土交通データプラットフォームであり、さらには、政府全体で推進している「海洋状況把握:Maritime Domain Awareness: MDA」の能力強化に基づく基盤情報システムと位置づけられ、海洋関係機関等が有する様々なデータを集約し、提供する先進的なWebGISサービスである。

海洋情報提供の歴史的経緯

海上保安庁海洋情報部では、戦前の海軍水路部を引き継ぎ、海図等の航海の安全に関する情報の提供を実施してきた。1965年には「日本海洋データセンター(JODC)」を開設し、海洋のさまざまな情報提供を開始、1995年にはいち早くインターネットに対応し、ネットによる情報提供を開始した。GISを活用しての情報提供の取り組みとしては、2000年代にWebGISを用いた情報提供環境が整ったことから、2003 年に油流出事故等の対応等のための沿岸海域環境保全情報を集約したWebGISサービスである「CeisNet」の運用を開始した。このように、海洋関係機関による海洋情報の集約は、必要に応じて継続して行われてきた。
海に関する施策の調整については、1994年に発効し、わが国も1996年に批准した国連海洋法条約に基づく。世界各国が同条約に基づく実行を開始した2000年代以降、わが国においても政府一体となった海洋政策の推進が求められるようになり、2007年には海洋基本法が成立。海洋情報の集約についても、同法の枠組みに基づき、省庁横断の包括的海洋情報提供サービスを行うこととされ、2012年に海上保安庁においてWebGISサービス「海洋台帳」の運用を開始した。
「海洋台帳」は、海底地形、航路、海流などのさまざまな情報を、ユーザーが自由に取捨選択し、地図上に重ね合わせて表示することができる、当時としては先進的なWebGISサービスであった。運用開始から5 年が経過し、ネット環境も大幅に変化し、大量のリアルタイム情報も扱えるようになってきた。そこで、「海洋台帳」で扱っている「日本周辺の非リアルタイム情報」だけではなく、「世界全体のリアルタイム情報」を扱えるように発展させ、掲載項目数も「海洋台帳」の約100項目から約200項目に倍増させた新たなWebGISサービスとして、2019年4月に「海しる」としての運用を開始した。

「海しる」の概要

■図1 「海しる」トップページ https://www.msil.go.jp/msil/htm/topwindow.html

「海しる」は、全世界の海洋に関する情報を対象とした「グローバル情報」や、天気図・海面水温などの「リアルタイムの情報」を扱うのが特徴であり、掲載されている情報は、海上保安庁と国内外の政府機関等との連携による、雲の衛星画像、天気図、降水情報、海面水温、流れ、波の高さ、地震関連情報、地理院地図、海底地質図などで、項目数は200項目以上となっている。
「海しる」のトップページ(図1)には、日本語版と英語版の入り口と、テーマ別マップのリンクを用意している。掲載情報が約200項目もあることから、油防除、洋上風力発電、マリンレジャー等、各テーマで利用される情報をワンクリックで表示可能なテーマ別マップを用意している。図2は、海洋環境に関する情報の表示例を示す。ラムサール条約登録湿地、生物生息地情報、藻場、干潟等の環境情報を衛星写真上に重ねて表示し、海の環境を一目で把握することができる。
「海しる」は情報を自由に選択し、透過の機能等を用いて見やすく重ね合わせることができるなど、利用者が目的に応じて必要な情報を組み合わせた地図を作成することができる。海上安全、海洋開発、海洋環境保全、水産等の海洋関係の各分野では、海に関する情報を、それぞれの目的で取得し利用しているが、他の分野でも共有可能な情報を「海しる」に登録することで、当該情報が有効活用されることとなる。

■図2 海洋環境に関する情報の表示例
出典:「海しる」より作成
ラムサール条約登録湿地帯、マングローブ、湿地、藻場、干潟、珊瑚礁を重ねた図
情報提供元:国土地理院、環境省、海上保安庁

「海しる」の取り組みの方向性

「海しる」は、海洋関係の各分野で取得されている海のデータの、分野間での流通を促す取り組みであるといえる。各分野が有する海のデータを「海しる」に登録することで、他分野へデータの存在を周知することができる。海洋関係の各分野が「海しる」を通じた海のデータ連携を通じて様々な問題の解決を推進することで、様々な海に関連する施策に資することを可能とする取り組みである。さらに、データ取得時の目的とは違った新しいデータの利用が生まれ、各分野の発展につなげていくことができる。
2019年4月に運用開始した「海しる」の現在の課題は、利用者のニーズに沿ったコンテンツの充実と機能の改善、地方公共団体等との連携による「すそ野」の拡大の2点である。「海しる」は政府関係機関の連携により開始されたサービスであり、沖合域の情報は比較的充実しているが、沿岸域の情報は必ずしも十分ではない。利用者のニーズの多くは、沿岸域の詳細情報にあり、そのような情報は、関係する地方公共団体等との連携が不可欠となる。沿岸部の海象などの詳細な情報を収集し共有する情報共有基盤として「海しる」が活用されることで、利用者のニーズにそった情報の充実が図られる。このため、各団体への説明会や、関連するフォーラム等を通じて地方公共団体等との連携を深め、ニーズを細かく吸い上げるとともに、情報の充実や機能の改善を適切に進めることが重要である。引き続きわが国の様々な海に関連する施策に資するため、海のデータ連携に努めていくこととしている。(了)

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