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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第476号(2020.6.5 発行)

「国連海洋科学の10年」に日本ができること

[KEYWORDS]SDG14/持続可能な海洋開発/UN Decade
埼玉県環境科学国際センター総長、東京大学名誉教授、ユネスコ政府間海洋学委員会EPG委員◆植松光夫

国連の「持続可能な開発のための海洋科学の10年」が2021年から10年間取り組まれることになった。
この実施計画で何が求められているのか、どのような成果が期待されているのか、そして日本はどのように取り組めばいいのか、私たちが望む未来に必要な海洋を作り出す、一生に一度しか経験できないような千載一遇の10年を迎えることになる。

「国連海洋科学の10年」開始を目指して

One Planet, One Ocean − 海は世界を繋いでいます。また海の環境を守るためには国際協力を抜きにして進めることはできません。日本は国際的枠組みの中で、海洋国家として「海を知る」権利と義務を認識し、海洋科学研究成果にもとづいて、国内外における持続可能な海洋開発を進めることが求められています。
2015年に開催された国連持続可能な開発サミットにおいて、『持続可能な開発のための2030アジェンダ』が採択され、2030年までに達成を目指す「持続可能な開発目標(SDGs)」が17項目、掲げられました。目標14の「海の豊かさを守ろう(Life Below Water)」は私達、海に関わるコミュニティーが取り組むべき主要課題です。今、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)が中心となって、「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」(UN Decade of Ocean Science for Sustainable Development)の準備が進められています。
この「国連海洋科学の10年」の実行計画は、すでに2019年以降に開催された海域毎の計画ワークショップ(RPW)や、グローバル計画会議(GPM)からの意見や提案を受け入れながら、IOC事務局と運営企画委員会(EPG)によって纏められつつあります。EPGは加盟国から選出された海洋科学者、政策立案者やNGO代表者など19名の委員から構成されており、2020年1月に第二回の会合がパリのユネスコ本部で開催されました。実行計画案はIOC執行理事会の承認を経て、国連総会で諮られる予定です。そして2021年5月末にドイツのベルリンで開催される「国連海洋科学の10年」キックオフ会合を目指しています。

「国連海洋科学の10年」が求めるもの

この実行計画は、科学行動計画、能力開発計画、ガバナンス、モニタリング、報告、コミュニケーションなどについて具体的な計画を、どう立案していくかのガイドラインが示されるものです。様々な立場からの意見を反映させて計画を推進するためにも、民間企業、資金提供機関、国連関連機関などとも会合の機会を設けています。また、若手海洋専門家(ECOP)の育成も重要な課題です。実行計画案の作成時から35歳以下のボランティアを募り、43名の非公式ワーキンググループが設立されました。アンケート調査を通して若手研究者の意見や提案を取りまとめ、実行計画に関するワークショップやネット会議などへの参加、議論に加わる機会を設けています。
実行計画の一つである科学行動計画の目的は、(1)変革の科学と教育能力の向上、(2)海洋観測および知識システムの拡大、革新、統合、(3)海洋システム全体の理解と予測、(4)統合評価と意思決定支援システムの開発と有効化の4つを掲げています。
その持続可能な開発目標の社会的成果として、期待されるものは、(1)汚染が劇的に減少した「きれいな海」(2)海洋生態系がマッピングされ、守られること、気候変動を含む多くの影響が調査されて軽減され、海洋生態系サービスの提供が維持できる「健全な海」(3)社会が現在および将来の海洋状況を理解し、その変化と人々の暮らしへの影響の予測を可能とする「予測できる海」(4)人間社会が海洋の危険から守られ、海上および沿岸での活動の安全と安心が確保される「安全な海」(5)将来の人々の暮らしに必要な食料の継続的な供給を確立する「生産的な海」。最後に、(6)すべての国、利害関係者、人々が海洋のデータと情報にアクセスでき、関連する技術を共有し、人々の判断を伝えることができる「情報公開の海」と6つの成果を挙げています。

日本の取り組み

こういった「国連海洋科学の10年」の準備が進む中、2019年3月6日に日本が議長国となり、G20各国の国立アカデミーで構成される「サイエンス20」(S20)が開催されました。ここで纏められた『海洋生態系に対する脅威と海洋環境の保全 ─ 特に気候変動及び海洋プラスチックゴミについて』の提言を、日本学術会議の山極壽一会長から安倍晋三総理大臣に手渡しました。2015年のドイツでのG7サイエンス学術会議とS20で話し合われた人間活動が海洋環境に与える影響とそれに対する対策をまとめたものを下の図に示します。

■G7サイエンス学術会議共同声明とS20で議題となった「海の未来:人間活動が海洋システムに及ぼす影響と対策」

その後、2019年6月、G20大阪サミットが開催され、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン』として共有されました。このことは日本の海洋関係者にとっては、国民に海の大切さを知ってもらう好機でありました。「国連海洋科学の10年」についても、研究者のみならず、地方自治体も含めた政策決定者、民間企業、NPO、市民も含めて、「グローバルに考え、ローカルに行動する」として、国を挙げて、できることに取り組んでいく必要があります。具体的な大型国際共同研究プロジェクトの立案や、日本の今までの知見やネットワークを生かした取り組みをさらに強化していくことが期待されます。
IOC事務局長のウラジミール・リャビニンは、「これは私たちが望む海洋に必要な科学、そして私たちが望む未来に必要な海洋を作り出す10年です」と述べています。「国連海洋科学の10年」を多くの人々に知っていただき、終了する2030年には誰もがその明確な成果に共感し、人と海洋の調和が実現でき、さらに変貌を続ける地球環境に適応できる社会になることを願っています。(了)

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