Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第470号(2020.03.05発行)

博学連携による海洋教育プログラム

[KEYWORDS]環境教育/学校教育/ESD
東海大学海洋学部博物館業務課博物・教育担当係長(学芸員)◆伊藤芳英

東海大学海洋科学博物館は、調査研究の成果を基にした海洋教育プログラムを組み立て、地域社会や学校教育と連携した機会に活用している。
その目的は、海洋関連分野の関心を深めキャリアを目指す人材の育成である。
現在活用している教育プログラムには「深海魚ミズウオを用いた環境教育プログラム」と「海洋プランクトンとシラスを用いた海洋教育プログラム」がある。
ESD(持続可能な開発のための教育)への反映を視野に入れた海洋教育プログラムについて紹介する。

博物館による海洋教育の取り組み

東海大学海洋科学博物館は、1970年5月に景勝「三保の松原」北端に開館し、2020年に50周年を迎える。「四方を海に囲まれた日本は、無限の可能性を持つ海洋に目を向け、これを平和的に活用する海洋立国を目指すべき」と訴えた本学創立者松前重義が1962年に設置した日本初の「海洋学部」の付属機関である(参照 http://www.umi.muse-tokai.jp/)。
これまで、半世紀の間に蓄積した教育・研究ノウハウを、地域や社会に還元するとともに、2000年からは学校教育に活用する「博学連携」の取り組みを進めてきた。地元・清水の小学校との交流に始まり、2013年からは学芸員による出張授業を本格的に開始した。筆者は現在、毎年5月から7月に5年生の理科、10月から12月に6年生の理科で、その他の時期には要望と学齢に応じて総合的な学習の時間(以下、総合学習)で、環境教育・海洋教育・キャリア教育について、地元の小学校を主体に他県へも博物館資料や機材を持ち込み精力的に取り組んでいる。
自然科学を学際的に取り扱う当館の教育活動では、この20年間、環境教育・海洋教育・キャリア教育に通ずる教育課題に対応したプログラムの開発とその活用に取り組み、小学校5、6年生の団体から生涯学習に臨む社会人までのニーズに応えてきた。その中から「深海魚ミズウオを用いた環境教育プログラムの活用」「海洋プランクトンとシラスを用いた出張授業の実施」「高校と大学博物館の連携事業」の3つの事例を紹介する。

深海魚ミズウオを用いた環境教育プログラムの活用

2000年1月、三保海岸に漂着したミズウオの胃からビニール袋が出現

本プログラムは、東海大学名誉教授久保田正氏のミズウオにみられる異常現象(1971年)の研究に端を発し、胃内容物から海ゴミが出現する現象について1964年から1983年まで実施した研究の結果を活かした当館の環境教育プログラムである。引き続き、筆者が2001年から現在に至る記録をまとめ、1964年からの20年間と2001年からの19年間のデータを比較し海ゴミの指標として取り扱うようになった。最新の記録では、1964-1983年の胃内容物にみられた海ゴミの出現率62.2%に対し、2001-2019年(5月)までの記録では71.9%とその出現率は上昇している。
本プログラムの課題は、教材の入手である。そもそもミズウオは、極域を除く南北太平洋、南北大西洋、インド洋の通常400~1,400mの深海に生息する深海魚であり入手が困難だ。しかし、三保の海岸には、駿河湾の海底地形と季節風の影響で湧昇流が起こることから漂着するチャンスがあり、2001年からの19年間は年平均9個体ほど入手している。他県からのニーズに対して十分な数とはいえず、解剖時の映像を紹介することもあるが、当館で実施するには本プログラムへの理解者らの収集協力が何より有り難い。本プログラムは、このような自然や人に恵まれて実現可能な他に類の無い海洋の環境教育プログラムである。2004年12月、第6回世界水族館会議がカリフォルニア州モントレー水族館で開催された時に「Environmental education utilizing the deep-sea lancet-fish (Alepisaurus ferox)」と題して紹介してきた。当時、魚類と海ゴミを環境教育プログラムの教材として取り扱う発表は無く、参加者らの関心を集めた。
2002年、静岡市立清水興津小学校5年生の総合学習の組み立てに関わらせていただいたことが、本プログラムを地元の小学校の授業に取り入れたきっかけである。当時は、総合学習が学習指導要領に新たに取り入れられた移行期間にあたり、全国の小学校で創意工夫が成された時期である。現在でも清水興津小学校では、海洋の環境教育の授業として本プログラムの活用を継続している。また、近年、海洋ゴミの問題が世界の課題として大きく取り上げられるようになり、ミズウオを教材とした本プログラムは、学校教育に留まらず行政の事業や日本財団「海と日本プロジェクト」(2017-2019年)で実施し、企業や団体の研修会等でも広く活用されるようになった。

海洋プランクトンとシラスを用いた出張授業の実施

当館は、2013年から地元静岡市の小学校で出張授業を行っている。その内容には、海洋プランクトンの観察実験とシラスの話題を取り入れたプログラムがある。教材は、授業当日の早朝に採集した海洋プランクトンと生徒2名あたり1台の双眼実体顕微鏡である。機材は、日本財団の助成により充実を図った。本プログラムは、小学5年生理科「生命のつながり」の単元で学ぶメダカの授業に活用している。日本固有種のメダカ(ミナミメダカ、キタノメダカ)は、以前から理科教材に取り扱われていたが、昨今は全国で絶滅危惧種となり生徒らに身近な生き物ではなくなっている。こうしたことから、メダカに代わる身近な教材としてシラスを話題に取り扱うことを試みた。その導入では、普段何気なく食しているシラスの腹部に赤みを帯びたものがあることから解説をする。これは、シラスの摂餌した動物プランクトンの色であるが、多くの人は気にすることなく口にしている。この点をシラスの解剖結果を紹介して説くことで生徒らの知的好奇心を刺激し、後に続く海洋プランクトン観察の導入となった。生徒らは、自らの食と海洋生物の「食べる、食べられる」の繋がりが直結することを知り海洋の自然を大切にすることの意義に気付く。本プログラムは、海洋教育の一助として今後も学校教育に役立てたいと考えている。

教育プログラムの成果と今後の展望

当館の教育プログラムは、海洋分野へ関心を深めその道へ向かう人材の開発や能力の向上といった人材育成を目指している。義務教育から発展した例では、海洋に接しない埼玉県のさいたま市立浦和南高校が、高校と大学博物館の連携を謳い2009年8月から毎夏、前述した「ミズウオの解剖」「海洋プランクトンの観察」「シラスの解剖」そして「港湾近傍の生物観察」を組み合わせ、専門性を高めた内容で実施している。高校生らは、普段、海洋に関する体験的学びの機会が少ないことから、この機会では真摯に取り組んでいる。また、在学中に繰り返し参加する生徒や「海洋についてもっと学びたい」「海洋分野に進みたい」と目を輝かせて心を伝えてくる生徒が少なくないことから、海洋分野の発展には専門的学びを模索する高校生に向けた海洋教育普及の重要性を感じている。
今後は、海洋教育プログラムをこれまでの活動と併せて、ESD(持続可能な開発のための教育)の取り組みにも反映させていきたいと考えている。(了)

毎夏、参加を希望した20人の高校生が来館し、1泊2日の臨海実習を行う

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