Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第470号(2020.03.05発行)

海学の勧め─海を学ぶ、海から学ぶ

[KEYWORDS]地震津波/減災/環境
香川大学地域強靭化研究センターセンター長、特任教授、第12回海洋立国推進功労者表彰受賞◆金田義行

われわれの地球の表面約70%は海洋である。この海洋の未知の生物や豊富な資源などの「海の不思議と恵み」や海洋・海底下の地球の活動、台風、高潮、地震津波、海底火山噴火などの「海洋災害」を学び、地球温暖化等により悪化する海洋環境を理解しその保全の必要性を認識することは、海との共存、地球との共存、将来の日本・世界を考える上で非常に重要である。
「海学」は「海を学び、海から学ぶ」を実践するための取り組みである。

日本と海

最近、天文学の分野ではブラックホールが可視化されるなどの成果が話題になっており、宇宙の不思議や夢が語られている。一方、われわれの地球は表面の約70%が海洋であるにもかかわらず深海や海底下の状況は明らかにされていない。海洋こそ不思議や恵みが存在し、長期的には地球環境をコントロールしている。プレート運動による海底火山噴火等で多くの島嶼を作り上げ、豊かな海洋資源を育み、時には地震や津波あるいは火山噴火を引き起こす仕組みが存在する。
日本は領土面積では世界61位であるのに対して、EEZ(排他的経済水域)と領海の面積の合計では世界6位、領土とEEZ、領海の面積を合わせると世界9位に位置付けられている。この結果は、いかに日本にとって海洋の役割が大きいかを示すものである。したがって、われわれが『海を学び、海から学ぶこと』は将来の日本を考える上で必要である。

海を学ぶ、海から学ぶ

「海を学ぶ」ためには、様々な観測や調査が必要である。海洋探査のためのROV(遠隔式無人潜水艇)やAUV(自律型無人潜水艇)による観測や、調査船や海底観測網による調査や観測がある。これらの調査観測結果から海洋や海底下の状況を把握することができるのである。海洋生物やレアアースから海底地形、海底火山ならびに海底下地震活動や地殻変動など多様な情報が海洋に存在している。この海洋の恵みや海洋・海底下の地球の活動を知ることが「海学」の一つである。
一方「海から学ぶ」視点では、2011年の東日本大震災や今後危惧される南海トラフ巨大地震のように、海洋には巨大地震や津波を発生させるシステムが存在していることを学ぶことができる。つまり日本にはプレート運動によって発生するプレート境界型巨大地震や歪(ひずみ)集中帯で発生する地震、さらには火山噴火などのシステムが存在するのである。最近では、海洋生物の体内や深海にもマイクロプラスチックが発見され海洋環境汚染の深刻な現状が明らかにされてきている。このように「海から学ぶ」ことで、地震津波災害などの海洋災害システムを把握することによりその軽減対策を促進することや、海洋生物多様性の減少や人工物により悪化する海洋環境から、われわれは「未来の日本」、「未来社会」を見据えた減災や環境改善の必要性をあらためて認識できる。さらには地球温暖化による甚大化する風水害・台風被害など被害軽減には、直接的な被害軽減対策と併せて長期的な視点での温暖化により悪化する海洋環境保全の必要性を学ぶことが大切である。

東日本大震災の教訓と南海トラフ巨大地震への備え

2011年東日本大震災はM9の巨大地震による大津波で2 万近くの人々が犠牲になり、未だに多くの避難者が厳しい環境に置かれている。この大震災の教訓として、M9クラスの巨大地震の発生システムの解明とそのリスク評価、大津波対策の推進、地域コミュニティーの再建・発展の課題などが挙げられる。危惧される南海トラフ巨大地震の対策では、津波対策として津波避難困難地域において津波避難タワーが建設され防潮堤の強化が実施されている一方で、津波発生の前の強く長い揺れを想定した耐震化や、避難経路の確保の対策や訓練も推進されている。
このような東日本大震災の教訓に基づく大津波対策の強化とともに、紀伊半島沖の地震津波観測監視システムDONET(図参照)やさらに土佐沖から日向灘沖にN-netの整備が進められている。このように海域で発生する地震や津波観測システムが整備されることで、緊急地震速報や津波警報の高度化、迅速化が期待されている。海底観測網により海底下の地殻活動を把捉し、巨大地震発生前後の地殻活動を把握することで地震後の推移予測など地震研究への貢献も期待できる。
また、海底観測網の整備では、長期的な観測を維持するための海洋観測技術や観測網整備のための海中作業などの技術開発が不可欠であり、「海を学ぶ」視点ではこれらの技術は重要な役割を果たす。

■地震・津波観測監視システム:DONET(=Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis)
DONETは各観測点に複数の地震計と水圧計を整備し、南海トラフ巨大地震震源域の地震・津波の早期発見とモニタリングを行っている。
DONET1:
 5ノード
 22観測点
 ケーブル長320km
 三重県尾鷲市古江陸上局
DONET2:
 7ノード
 29観測点
 ケーブル長500km
 徳島県海陽町まぜのおか陸上局
 高知県室戸市ジオパーク陸上局

「海学」の実践

これまで海洋の調査観測について述べてきたが、そもそも海洋がもたらす美しい景色とともにプレートテクトニクスによる火山や島嶼の分布など、海洋と海底下のテクトニクスは水産資源などと共にわれわれの生活を充実させている必要不可欠な存在である。そのため当センターでは、「海を学ぶ」点で、特に若い世代にまずは「海の不思議」、「海の恵み」、「生活の中の海」といった視点で「海」への理解を推進し、興味を促進するよう講演などを実践している(写真参照)。
次に「海から学ぶ」点として、「海」には地震津波あるいは火山噴火などを引き起こすシステムが存在していることを示し、いかにそれらの災害を乗り越え、強靭な社会、地域を構築するかについて学ぶことを行っている。地震津波あるいは火山噴火などは繰り返し発生するシステムがあり、われわれはその点を十分理解する必要がある。また海水温の上昇や海洋環境の悪化は地球環境の変化に大きく関わることであり、その対策は人類として地球に住む生物に対して大きな責任があり、まさに喫緊の課題である。
われわれは、「海学」を海との共存、地球との共存のためのガイドラインの一つとして、さらに発展させたいと考えている。(了)

減災エンス塾(寺田寅彦記念館)、高校生に対して海洋科学と減災に関する「海学」の講演を実施

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