Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第469号(2020.02.20発行)

編集後記

同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

◆2019年12月14日、河野太郎防衛大臣は、カタールで開かれた国際会議で、中国の海洋進出に関して、「東シナ海や南シナ海での活動を含め、一方的で威圧的な現状変更の試みを続けている。また、透明性を欠いたまま軍事力を急速に強化させている」との懸念を表明した。
◆こうした東アジアの海で起きている「せめぎあい」について、竹田純一(公財)笹川平和財団海洋政策研究所客員研究員にご寄稿いただいた。南シナ海と東シナ海での「せめぎあい」の類別については本誌をご一読いただくとして、中国の権益主張と海洋進出の拡大が日本の安全保障に大きな影を落としていることはたしかである。こうした中国による「度を超した現状変更」に対して、日本としては「法の支配」の重要性を強調するとともに、竹田氏が指摘するように、海のパワーゲームの中で不測事態の生起とエスカレーションを防ぐ必要があろう。
◆2020年11月に東京で開催予定の第3回北極科学大臣会合(ASM3)の意義について、本田悠介神戸大学極域協力研究センター特命助教にご説明いただいた。日本は、北極評議会(Arctic Council: AC)のオブザーバー国であるが、2019年から2021年の議長国であるアイスランドは、日本との連携に力をいれており、同国のアルフレッズドッティル教育科学文化大臣が(公財)笹川平和財団海洋政策研究所を表敬訪問し、緊密に連携したいとの意向を示されたことは特筆すべきであろう。「第三期海洋基本計画」でも北極政策は主要施策の一つとされており、会合の行方を見守りたい。なお、神戸でも極域における法の支配を統一テーマに極域法シンポジウムが開催される由である。
◆黒嶋敏東京大学資料編纂所准教授から、中世の「海の武士団」についてご寄稿いただいた。体制側についた場合は「水軍」と呼ばれ、体制と距離を置くと「海賊」と呼称されたこの「海の勢力」は、国家的な海上インフラの整備が着手されていなかった日本中世の海上交通を下支えする存在だったとの説明は明快である。ヨソモノから通航料を徴収するナワバリをもった「海の勢力」を検討することで、固定的な議論に陥りがちな領海の問題に柔軟な見方を提供できるとの指摘はまさに興味深い。ぜひご一読を。(坂元茂樹)

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