Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第469号(2020.02.20発行)

北極評議会議長国アイスランドの方針と日本の役割

[KEYWORDS]北極評議会/アイスランド/第3回北極科学大臣会合(ASM3)
神戸大学極域協力研究センター特命助教、(公財)笹川平和財団海洋政策研究所客員研究員◆本田悠介

北極評議会の新しい議長国アイスランドは、「持続可能な北極に向けた連携」をテーマにした4つの優先事項を方針に掲げている。2020年にはアイスランドと日本との共催で第3回北極科学大臣会合(ASM3)が開催されるほか、日本ではさまざまなイベントが予定されている。
これらの機会を通じて、日本における北極政策研究がさらに発展し、北極圏における持続可能な開発への貢献に繋がることを期待したい。

アイスランドのAC議長国方針(2019〜2021年)

2019年5月7日、フィンランドのロヴァニエミで開催された北極評議会(Arctic Council: 以下AC)の第11回閣僚会合において、AC議長国の任がフィンランドからアイスランドへと引き継がれた。議長国の任期は、次の閣僚会合までの2 年間(2019〜2021年)である。そのアイスランドは、2020年11月に北極圏の科学的課題を議論する第3回北極科学大臣会合(ASM3)を日本と共催する。
アイスランドはACの議長国方針として、「持続可能な北極に向けた連携」をテーマに、4つの優先事項を掲げている※1。包括的テーマである「持続可能な北極に向けた連携」では、持続可能な開発の原則に対するアイスランドのコミットメントを反映し、北極圏内外の国と人々との緊密な協力の必要性に言及している。優先事項の①「北極海洋環境」に関しては、とくに海洋プラスチック汚染対策を重要視しており、2020年4月にはその一環として、レイキャビクにて「北極におけるプラスチック」に関する国際シンポジウムを開催予定である※2。このほか、沿岸コミュニティの持続可能な経済成長の促進のための海洋生物資源の利用改善や、北極における安全かつ持続可能な海運の促進への取り組みに言及している。②「気候・グリーンエネルギー解決策」では、気候変動の影響は北極の環境だけではなく北極コミュニティの経済や社会福祉にも影響を及ぼすとして、各メンバー国がそれぞれの国際約束および国内政策にしたがって気候変動に対応する必要性を強調している。③「北極の人々とコミュニティ」は、北極圏に住む約400万人の福利の促進を目的として、持続可能な形での新たな経済機会、信頼性がありかつ安価な通信およびジェンダーの平等の3つの具体策について、各方面との連携・協力を進めるとしている。④「より強い北極評議会」に関しては、ACの強みは建設的な協力にあるとして、ACメンバー国および先住民団体との緊密な協議だけでなく、オブザーバーとのさらなる互恵的な協力関係の強化を目指すとしている。また、北極圏のビジネス関係者で構成された北極経済評議会(Arctic Economic Council: AEC)との協力関係の強化にも言及している。このように、アイスランドの議長国方針は、「持続可能な開発」の3つの要素である、環境、経済、社会(人権)を十分に配慮した内容となっている。

北極をめぐる日・アイスランド協力関係

アイスランドは、ACオブザーバー国である日本との連携にも非常に積極的である。
AC議長国就任直後の2019年5月には、アルフレッズドッティル教育科学文化大臣が訪日し、2020年に日本とアイスランドで共催するASM3に向けた緊密な協力のほか、二国間の科学技術協力のさらなる進展について確認をした。またこの訪日に際して、同大臣は(公財)笹川平和財団海洋政策研究所にも表敬訪問し、北極政策研究に関して民間とも緊密に連携していくことを確認している。
また同年9月には、ACの高級実務者会合(Senior Arctic Official: SAO)議長であるグンナルソン北極担当大使が訪日し、在京AC関係国大使館や日本政府、日本の北極研究コミュニティに向けた、議長国方針に関するセミナーを駐日アイスランド大使館において実施している。このセミナーにおいて同大使は、アイスランドがとくに重要視している海洋プラスチック問題やブルー・バイオエコノミー※3について、日本とのさらなる科学協力や産業界との連携をしていきたい旨述べた。

笹川平和財団における意見交換会の様子。右中央が、リリヤ・アルフレッズドッティル・アイスランド共和国教育科学文化大臣
セミナーでアイスランドの議長国方針について説明をするエイナル・グンナルソン北極担当大使

第3回北極科学大臣会合(ASM3)の2020年日本開催

北極科学大臣会合(Arctic Science Ministerial: ASM)とは、北極に関する研究・科学の国際協力を強化し、政策決定に活かすことを目的とした閣僚級の会合であり、ACと並ぶ北極協力に関する重要な国際フォーラムである。その第1回会合は2016年9月に米国主導で開催、第2回会合は2018年10月にドイツ、フィンランド、EUの共催で開催され、それぞれ、ACメンバー8カ国や日本を含め、20か国以上が参加をした。そのASM2において、日本は第3回会合をアイスランドと共催し、2020年(11月21、22日)に日本で開催することを提案し、全会一致で了承を得た※4。ASMのアジア開催は初であり、わが国の北極政策および北極研究の推進の観点からも非常に重要である。

2020年以降の北極政策研究に向けて

2020年は、様々な意味で日本にとっての「北極年」といえる。それは単にASM3という重要な国際会議が日本において開催されるからではない。一つには、2020年は「我が国の北極政策」が策定されて5年という節目、そして新たに北極政策を主要施策の一つに加えた「第三期海洋基本計画」の中間年にあたることから、改めてわが国における北極政策と国際協力のあり方を検討する時期といえる。また2020年度からは、北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の後継として「北極域研究加速プロジェクト」が5年間実施される予定である。さらに、2020年11月には、「北極版ダボス会議」といわれる最大規模の北極に関する対話フォーラムである「北極サークル」の日本フォーラムが東京で開催される予定である。神戸大学極域協力研究センターでも、こうした内外の情勢を踏まえ、同年11月23から25日にかけて、アジア初となる、極域法シンポジウム(Polar LawSymposium)を神戸にて開催する予定である※5。同シンポジウムの統一テーマは「極域における法の支配」であり、極域を取り巻く諸課題に関して法政策的観点から議論をする。
これらの機会を通じて、日本における北極政策研究が更に発展し、ひいては、北極圏における持続可能な開発への貢献に繋がることを期待したい。(了)

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