Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第466号(2020.01.05発行)

大阪から世界へ 〜日本初のG20サミットにおける海洋分野の功績〜

[KEYWORDS]G20大阪サミット/海洋プラスチックごみ問題/違法・無報告・無規制(IUU)漁業
外務省国際協力局長(前地球規模課題審議官)◆鈴木秀生

G20大阪サミットでは、全世界で喫緊の課題となっている海洋プラスチックごみ問題について、『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン』に合意するなどの画期的な成果を挙げた。
IUU(違法・無報告・無規制)漁業対策についても、初めてG20首脳宣言に取り上げられた。
日本政府としても、これらの問題の解決のため、率先して対策を講じていく。
企業・団体や個人の視点からも何ができるのか考えていただければ幸いです。

海洋の保全と利用を調和することの重要性

海は地球の表面の約70%を覆い、地球環境とわれわれ人類の生存にとって不可欠な存在です。また海産物や海上輸送をはじめ、わが国および世界の経済・社会において重要な役割を果たしています。さらに、海洋の生態系などまだ分かっていないことが多くあることや、近年は海洋での新たな資源やエネルギー開発への期待の高まりなどから、海は地球のラストフロンティアと言われることもあります。
このようにさまざまな恩恵をもたらしてくれる美しい海を次世代に引き継ぐ責務がわれわれにはあります。ここで重要となるのは、海洋の保全と利用の調和です。両者は相反するものではなく、科学的根拠に基づき海洋を保全することで、海洋の持続的な利用が可能となり、また、海洋を利用できるからこそ、その保全の重要性への理解が得られるようになります。ここでは2019年6月に開催されたG20大阪サミットにおける海洋分野の議論について紹介したいと思います。

G20首脳が合意した『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン』

G20大阪サミットにおいて、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン』※1を共有し、G20以外の国にも共有するよう呼びかけることが合意されました。その際、2週間前に軽井沢のG20関係閣僚会合で採択された『G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組』※2も承認され、ビジョン実現に向け各国で協調して実効的な対策を進めることで一致しました。
プラスチックごみは、世界全体で年間数百万トンを超える量が陸上から海洋へ流出していると推計されており、このままでは2050年までに海中のプラスチックの重量は魚の重量を超えるとの予測もあります。とくにG7からの流出量は全体のわずか約2%であるのに対し、G20では約48%を占めると推計されています。このように海洋プラスチックごみ問題は、途上国を含む世界全体で取り組む必要がある喫緊の課題であり、今回のG20での合意がいかに意義のある画期的なものかが分かると思います。
一方でプラスチックは、金属や陶器よりも軽く輸送燃料の節約にもなる、耐久性が高く歯磨き粉の容器のように何度も折り曲げても破断しない、安全・衛生面の維持がしやすく食品ロスの削減にも資するといった、さまざまな優れた特性をもつ素材です。このように社会において重要な役割を果たしているからこそ、プラスチックが世界全体に浸透したことを忘れてはなりません。重要なことは、プラスチックごみの海への流出をいかに抑えるかであり、そこに焦点を当てたことに『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン』の特徴があります。

わが国の率先的な海洋プラスチックごみ対策

わが国政府は、G20議長国として率先的な姿勢を示すため、2019年5月に『海洋プラスチックごみ対策アクションプラン』※3を策定し、「新たな汚染を生み出さない世界」の実現を目指し、廃棄物処理制度等による適正処理の徹底、海洋ごみの回収、イノベーションによる代替素材への転換等を推進することとしています。同時に『プラスチック資源循環戦略』※4も策定し、プラスチックができるだけ廃棄物とならないよう、3R(リデュース・リユース・リサイクル)+Renewable(再生可能)を基本原則とし、「2025年までにリユース・リサイクル可能なデザインに」するといった世界トップレベルの野心的なマイルストーンを設定しました。
日本だけで取り組みを進めてもこの問題は解決しないことから、途上国等における海洋プラスチックごみの流出防止にも貢献する必要があります。このためG20大阪サミットにおいて安倍総理は、日本として途上国の①廃棄物管理(Management of Wastes)、②海洋ごみの回収(Recovery)、③イノベーション(Innovation)に関する④能力強化(Empowerment)を支援していく『マリーン(MARINE)・イニシアティブ』※5の立ち上げを表明しました。このイニシアティブでは、世界において2025年までに、廃棄物管理人材を1万人育成することも約束しています。
さらに、海洋プラスチックごみ問題に関する科学的知見の蓄積も必要です。冒頭で「推計」といった言葉を使ったように、海洋プラスチックごみについては、その流出の実態さえ十分に明らかとなっていません。このため日本政府は2019年3月に国連環境計画(UNEP)に1億2,300万円の拠出を行い、東南アジア(メコン川流域)やインド(ガンジス川流域およびムンバイ)において、海洋プラスチックごみの排出源・経路の特定やモニタリング手法のモデル構築などを行い、各国における適正な廃棄物処理システムの導入などの政策につなげていく予定です。

ベトナムの小学校で行った3R活動。校内で利用する分別便のポスターは学校で行われた3Rコンテストで優勝した児童によるもの メコン川分流の河川敷に捨てられたごみ(カンボジア)

IUU 漁業にもスポットライトを当てたG20大阪サミット

G20大阪サミットでは、IUU(違法・無報告・無規制)漁業対策でも進展がありました。IUU漁業は、結果として過剰漁獲を引き起こすだけでなく、漁業から得られる科学的・統計的なデータに計上されない点でも、水産資源の適切な管理を阻害してしまいます。また東南アジアでは、IUU漁業が麻薬の密輸や人身売買といった犯罪の温床になりえるとの懸念もあります。こうした中で大阪首脳宣言では、G20サミットにおいて初めてIUU 漁業を取り上げ、海洋環境の観点からIUU 漁業対策の重要性を確認しました。
G20以外においても、例えば、ノルウェーやわが国をはじめ主要な海洋国家の首脳によって構成される「持続可能な海洋経済の構築に関するハイレベル・パネル」も、主要な論点の一つとしてIUU漁業について議論しており、2020年6月にリスボンで開催される国連海洋会議に勧告を出す予定です。わが国は関係諸国と連携しつつ、水産物のトレーサビリティの推進を含め、さまざまな施策を一層推進する必要があります。

結びにかえて

最後に、これらの問題の解決には、民間企業や団体、さらに個人の皆様の役割も不可欠であることを強調しておきたいと考えます。例えばわが国の企業は、最終的には二酸化炭素と水にまで分解する生分解性プラスチックの開発・実用化を進めており、このようなイノベーションが環境問題の解決と経済成長を両立させることになります。読者の皆様におかれましても、日本は1人あたりプラスチック容器包装の廃棄量がアメリカに次いで2番目に多いと言われていることや、自身が食べる水産物がどこからどのように来たものなのかを気にかけることから始めていただければありがたいと考えます。(了)

  1. ※1大阪ブルー・オーシャン・ビジョン:G20大阪サミット首脳宣言のパラ39にて言及 https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ge/page23_002892.html
  2. ※2G20 海洋プラスチックごみ対策実施枠組(仮訳)http://www.env.go.jp/press//files/jp/111827.pdf
  3. ※3「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」の策定について(環境省HP)http://www.env.go.jp/press/106865.html
  4. ※4「プラスチック資源循環戦略」の策定について(環境省HP)http://www.env.go.jp/press/106866.html
  5. ※5マリーン(MARINE)・イニシアティブ https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000493727.pdf

第466号(2020.01.05発行)のその他の記事

ページトップ