Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第464号(2019.12.05発行)

いのち輝く未来の大阪湾に向けて〜持続可能な豊かさのために〜

[KEYWORDS]栄養塩の偏在/ブルーカーボン・カーボンリソース/大阪・関西万博
NPO法人大阪湾沿岸域環境創造研究センター専務理事、「全国アマモサミット2018 in 阪南」実行委員会副委員長◆岩井克巳

大阪湾は、関西圏の経済を支えるための港湾や空港、食生活を支える漁場など、海の豊かさを感じることができる自然環境をもっている。
これらの地域を連携させ、それぞれの機能を有機的につなぎ合わせることで、大阪湾を一体化した今までには無い価値観を創造できるのではないだろうか。
心の豊かさや地域を含めた大阪湾全体の魅力や発展に向けて貢献していきたい。

大阪湾の現状と市民のイメージ

大阪湾は、昭和30年代頃までは「魚庭(なにわ)の海」「茅渟(ちぬ)の海」と呼ばれ、人々は生活の一部として豊富な漁業資源の恵みを受けていた。しかし、高度経済成長に伴い、大阪湾奧部の沿岸域は、工場建設や物流機能の向上、台風や高潮などによる防災(水防)機能の向上など、関西圏の経済拠点としての機能向上のために埋立てが進み、沿岸の浅場や藻場が消滅した。このことは、海の自浄機能の低下を招き、水質、底質の悪化が深刻化し、人間と海との間に大きな隔たりを生んだ。
1970(昭和45)年に「水質汚濁防止法」が、1973(昭和48)年に「瀬戸内海環境保全特別措置法」が相次いで施行され、流域の排水規制で大阪湾への流入負荷量は大幅に削減され、赤潮の発生減少など、水質環境は大きく改善された。その一方で、湾奥の臨海部では依然として栄養塩の過多や底層の貧酸素化は改善されておらず、逆に湾口部では栄養塩不足によってワカメや海苔などの養殖漁業に被害をもたらすなど、湾内での栄養塩類の偏在が発生している。つまり、現在の大阪湾は一部は美しくなったが、人々が海との関わりの中で必要不可欠な「心の豊かさ」を感じることができず、負のイメージが払拭できない「近くて遠い大阪湾」のままとなっている。

藻場の役割と大阪湾における藻場

沿岸域の藻場は、ワカメや海苔などの水産資源の提供や、湾内の過剰な栄養塩の吸収による水質や底質の改善、温暖化の原因であるCO2の吸収、波浪の軽減による海洋生物の保全など、人間にとって多種多様な自然の恵みをもたらしている。
大阪湾の湾奥部は、垂直護岸からなる人工海岸で囲まれているため、海藻が生育できるような浅場は無く、人々も水辺に近づくことがままならない。そのため、海に対しての意識は低く、興味自体を持っていない人も多い。一方、関西空港より南の「泉州」と呼ばれる湾口部に近い沿岸は、比較的遠浅な自然系の海岸が多く残っていることから海藻をはじめとした生物が多く生育し、海水浴や釣などで水辺が利用されている。その中でも阪南市周辺の海岸は、ほとんどが浜を備えた自然海岸となっており、大阪府下で最大級のアマモ場の生育地となっている。さらに、大阪府最南端の岬町の海岸は、礫や岩礁が広がっており、ガラモやワカメなどが多く生育している。
また、泉州地域はワカメなどの海藻の養殖も盛んに行われており、阪南市では大阪府下で唯一の海苔養殖漁業が行われているほか、阪南市以南の地域では藻場環境を活かしたサザエ、アワビ、ナマコなどの潜水漁業や天然ヒジキなどの漁業も行われている。
この様に、大阪湾湾口部では、藻場や浅場が存在することで、生態系のバランスがとれた豊かな海が広がっている。

大阪湾の海岸線(出典:「大阪湾環境データベース」国土交通省近畿地方整備局)

藻場のある豊かな海を活かした取り組みへ向けて

阪南市では、2018年に「全国アマモサミット2018 in 阪南」を開催し、国内の沿岸域の保全活動を行っている研究者や市民などが一堂に集まり、沿岸域の保全を進めつつ地域に根ざした海との関わりについて議論した。筆者も実行委員会副委員長として関わったが、これを契機に、行政、漁業者、市民、NPOなどの多様な主体が連携した海洋教育の推進や環境を活かした行事の開催などに繋がり、地域が持つ環境のポテンシャルを活かした活動は活発化してきている。湾口部の比較的豊かな自然環境をもつ地域だからこそ実現可能なことではあるが、大阪湾全体の負のイメージを払拭していくには、湾口地域に住む人々が目の前の豊かさに気付き、豊かで身近な大阪湾の存在を、湾奥に住む人々へ伝えると共に、その人たちにも身近に感じてもらえるような連携した取り組みを創っていくことが重要である。

いのち輝く未来の大阪湾に向けて

2025年に「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに大阪・関西万博が開催される。サブテーマとして「多様で心身ともに健康な生き方」「持続可能な社会・経済システム」を掲げ、大阪湾奥部の四方を海に囲まれた舞洲(まいしま)を会場に開催される万博だからこそ、豊かな大阪湾を実現しアピールしていくことが望まれる。
大阪湾は、関西圏の経済を支えるための港湾や空港、食生活を支える漁場、海の豊かさを感じることができる自然環境など、それぞれの地域だからこそ可能なさまざまな機能が存在している。これらの地域を連携させ、それぞれの機能を有機的につなぎ合わせることで、大阪湾を一体化した今までには無い価値観を創造できるのではないだろうか。
例えば、横浜市が先行して取り組んでいるブルーカーボンやブルーリソースを活用した「横浜ブルーカーボン事業」は、大阪湾における新たな価値観創造の参考となる。大阪・関西万博の開催を機に、温暖化対策プロジェクトとして独自のカーボンオフセットの仕組みを作ることで、泉州地域での藻場の保全や養殖海藻の地産地消の推進をブルーカーボンやブルーリソースとして万博開催期間中やその後の跡地利用におけるCO2排出量をオフセットとして活用していくことが可能になり、大阪・関西万博が目指している項目の1つであるSDGsの達成に繋がっていくことが期待される。
大阪湾再生推進会議は「湾 for All All for 湾」を掲げた大阪湾再生のための行動計画を実践しているが、大阪湾を一体のものとして考えていくことで、より多くの人たちが大阪湾を身近に感じ、レジャーや食、文化などで大阪湾と関わっていくようになる。そのような人々の心の豊かさや地域を含めた大阪湾全体の魅力や発展に向けて貢献していきたい。(了)

大阪・関西万博の開催概要(大阪府資料より)

  1. 信時正人「横浜市でのブルーカーボン事業の考え方」、『Ocean Newsletter』 第443号(2019.1.20)参照

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