Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第462号(2019.11.05発行)

世界に誇れる日本製の釣具と共に伝えるべきもの

[KEYWORDS]ルアーフィッシング/釣り具開発/啓発活動
(株)エイテック企画開発マネージャー◆中村宗彦

ルアー(疑似餌)は狙う対象魚の生態や習性を研究して作られ、その魚種に向けて最適化が図られている。
つまり、狙う魚が違えば用いるルアーも変わるし、フィッシングロッドに求められる性能もまったく変わってくる。
近年では、釣りは食べるためよりスポーツとしてプロセスを楽しむものに変化しつつある。
釣りが続けられる環境を保つために啓発活動をしていくのも開発者としての務めであると感じている。

私の仕事と、ルアーフィッシング

「釣り」と聞いて、どんな光景を思い浮かべるだろうか? 竿を手に水面に糸を垂らし、じっとすわって魚が釣れるのを待つ。経験者を除いた場合、釣りのイメージは「待ち」である人が意外と多い。
しかし、ルアーフィッシングは大概においてもっと「能動的」だ。ルアーと呼ばれる釣り具は、金属の板、オモリの塊、ミミズのような形をした軟質プラスチックなどでできている。釣り人はこれを釣り竿とリールを操って動かし、魚をだまして釣果につなげるのである。釣り人が何もしなければルアーはただの無機物でしかない。ルアーフィッシングは、投げては竿とリールを操って魚を誘い、食い気を示す魚を求めて移動を繰り返す、けっこう「忙しい」作業なのだ。
だからルアーフィッシングにおいて、フィッシングロッド(釣り竿)の役目は重大だ。ルアーをより遠くまで飛ばす、ルアーをより魅惑的に動かす、長いラインの先で生まれた魚からの微弱な反応を確実に釣り人の手に伝える、かかった魚の引きを釣り人にしっかり味わわせつつ、反発力を活かして手早く魚を寄せる。知らない人が見ればただの樹脂製の棒も、実はこれだけの役目を担っている。
私は釣り竿メーカーの(株)エイテックが展開する「テイルウォーク」というルアーフィッシングブランドで、製品のプロデュースや企画開発を担っている。プロモーションやテストの一環として世界各地で釣りに勤しみ、その合間にはホームフィールドの駿河湾(沼津)で魚を追いかける日々を送る。

筆者はタイラバと言われる真鯛釣り用のルアーを好んでよく使う。餌無しでルアーだけでこんなに大きな鯛が釣れる。

変わる釣りのスタイル

新たな製品が生まれるその端緒は、私たち企画立案に携わるスタッフたちが持つ、釣り人としての道具に対するシンプルな欲求から生まれることが多い。理想のイメージを生産工場に伝えて設計を依頼し、できあがったサンプルを社内のスタッフや各地で活躍するフィールドスタッフらが実際の釣りに用いて改良点を洗い出す。同時に機械による破断テストを行ったり、オモリを竿先に結んで実際の釣りでかかるものより大きな負荷をかけ、せっかく作り上げたサンプルを自ら折ったりするようなこともする。
一昔前までは「餌で釣るのが当たり前」だった魚もルアーを使った釣法が次々と確立され、ルアーフィッシングの対象魚は驚くほど増えている。アオリイカ、メバル、クロダイ、ハゼなどの魚は、近年、ルアーで狙うのが人気で、それぞれの魚種に対してルアーを用いる釣法もひとつとは限らない。人気の対象魚に向けては、今も新しい釣法が次々と生み出されている。ルアーは狙う対象魚の生態や習性を研究して作られ、その魚種に向けて最適化が図られている。つまり、狙う魚が違えば用いるルアーも変わるし、となればフィッシングロッドに求められる性能もまったく変わってくる。さらには海なら潮の速さや水深で使うルアーの重さが極端に変化するケースもある。
こうした対象魚や釣法の多様化がルアーフィッシングの人気を支えるひとつの要因になっているのだが、それは同時に、課題の多さに直結している。既存の釣法に対応したより優れたロッド、新たな釣法を実現する今までにないフィッシングロッドと、より多くのバラエティに富んだ製品ラインナップを企画立案することを求められている。

フィッシングロッドの耐久テストの様子。目標数値に向けた機械でのテストに加え、ホールドした際の角度や瞬間的なパワー入力を、人間が自ら試めす。破断まで追い込むテストでは、安全のためにヘルメットとグローブを着用する。

製品を売るだけでなく啓発も

日本は海に囲まれ、川も多い。しかし、水があればどこでも狙った魚が釣れるわけではない。結果的に「釣れる釣り場」は激戦区となる。釣り人からのプレッシャーにさらされた魚たちは神経質となり、ルアーへの反応が悪くなる。そんな状況下でも「釣れる道具作り」が求められ、結果的に対象魚やシチュエーションごとに先鋭化された製品が生み出されていく。日本の釣り人のクリエイティビティは高く、前述のようにルアーで狙える対象魚、釣法もどんどんと増えている。そうした日本の釣り文化と、そこから生み出される製品群は世界中の釣り人たちから注目されている。
日本の釣り場のシビアさが製品のクオリティを高め、それが評価されているわけだが、1日でも長く釣りを楽しむためには、世界に優れた道具を売るだけでなく、同時に釣り人の意識を高める必要もあると感じる。美味しい魚を獲るための釣りは楽しいが、小さい魚、必要以上の数が釣れてしまったようなときは、再び海、あるいは川へとリリース(放流)することも大切である。
ルアーフィッシングの経験を積むと、多くの人がその楽しみの本質は釣果ではなく、そのプロセスにあると感じるようになる。天候や時期から状況を判断し、魚のいる場所を推測し、数ある釣法、ルアーのなかから最適なものを選択する。知識と経験、技術を総動員させて釣り方を絞り込んでいくこうしたプロセスの楽しさは、もちろん餌釣りにも共通したものだが、ルアーフィッシングではそれがよりダイナミックなものとなる。あえて大きなルアーを使い、大きな魚だけを狙う、あるいは水面下に沈まないルアーだけで釣る、といったように自分で「縛り」を設定して、よりハードな道を進む楽しみも選択できるためだ。そのため釣りは、幼魚、稚魚の類いも含め、釣れた魚すべてを持ち帰り、釣り場の資源にダメージを与えることの無意味さに気付きやすい。ルアーや毛鉤を使った疑似餌の釣り、いわゆる競技としてのフィッシングはキャッチ&リリースという考え方と親和性が高いのである。
世界に向けて製品を売り込むと同時に、「せっかく釣った魚をリリースすること」をはじめ、釣り人のマナーについて意識を向けさせるような情報発信を行っていくことも自分の仕事であると感じ始めている。世界で釣りを経験すると、日本での釣りがいかに快適かを実感する。日本は釣りの対象となる魚種が多く、寒すぎず暑すぎない快適な気候の中で釣りを楽しむことが可能だ。こうした自然も含めた釣り環境と、そこで育まれた釣りの文化は世界に誇れるものだと思っている。経験とともにその思いは強くなる一方だ。感謝の気持ちを持って自然と接したい、そう考えるようになった。
釣りを体験したことがない方はぜひその「自然界との接点=魚の魚信(アタリ)」を体感して欲しい。海の中を悠々と泳ぐ魚たちと出会える奇跡を楽しんで欲しい。そこで皆さんの「大切なその休日に」「魚と出会うその瞬間」に自分たちの道具がお供できたら本当に最高だと思う。(了)

筆者が開発したフィッシングロッド。展示会や海外の代理店などにも赴き、世界中の海、釣法、対象魚、釣り人の体格などを想定しながらものづくりを進めていく。

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