Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第462号(2019.11.05発行)

編集後記

帝京大学戦略的イノベーション研究センター客員教授♦窪川かおる

♦先日の台風19号が50以上の河川を氾濫させ甚大な被害をもたらした。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げる。強い勢力を保ったまま日本列島を直撃する台風の増加の主因は、海水温の上昇である。折しも9月25日に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は『海洋・雪氷圏に関する特別報告書(SROCC)』を公表し、科学的根拠に基づいて気候変動による地球の危機への警鐘を鳴らした。SROCCの公表を受けて10月15日に(公財)笹川平和財団海洋政策研究所が、参加者150名を超えるシンポジウムを環境省と共催し、提言を発表したが、すべての講演に台風19号と温暖化との関係が盛り込まれていた。一方、台風への最大級の警報に、都心では防災品等が売り切れたという。その中にはリチウムイオン電池があったが、それを開発した吉野彰氏と米国の2氏に2019年のノーベル化学賞が決まった。その会見で吉野氏はクリーンな自然エネルギーを安定化する蓄電システムの利用の未来を語っている。不可逆的気候変動とされているが、その緩和に向けて、基礎研究に基づく技術革新が気候変動シナリオを変えることは可能であることに勇気づけられる。
♦セーリング競技にレース海域の海洋情報の予測は必須である。東京大学大学院新領域創生科学研究科の小平 翼助教より、東京オリンピックのセーリング競技会場である江の島周辺海域での海流・潮流情報の提供の難しさや実際の活用について詳説していただいた。海洋情報の入手と利用の双方に配慮して展開される研究に期待したい。
♦近大マグロは消費者の養殖への親和性を高めたのではないだろうか。研究機関と大学との連携で設立されたNPO法人「持続可能な水産養殖のための種苗認証協議会(SCSA)」について近畿大学水産研究所の升間主計所長よりご説明をいただいた。養殖は種苗の作成が起点であり、しかも人工種苗は日本から世界に広がったという。持続可能な養殖業を支える種苗認証制度(SCSA認証)が開始され、人工種苗の高い品質を維持しようとしている日本の水産業の振興を応援したい。
♦今夏は東京湾ハゼ調査に同行し、釣り上手な方々の末席で夢中になった。ルアーフィッシングで日本製の釣具の開発と販売を行っている(株)エイテック企画開発マネージャーの中村宗彦氏より製品開発の現場と釣りの醍醐味についてご寄稿いただいた。釣りのマナー遵守と釣りを生涯一度は体験して欲しいとの中村氏の願いに同感である。ご一読いただきたい。(窪川かおる)

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