Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第461号(2019.10.20発行)

編集後記

同志社大学法学部教授♦坂元茂樹

♦2019年9月5日に発生した台風15号は関東地方を直撃したが、この台風により千葉県内で大規模停電が発生し、長期化した。こうした事態を受けて、海底ケーブルの設置や保守を行うKDDIの海底ケーブル敷設修理船「KDDIオーシャンリンク」が携帯電話基地局を開設し、千葉県館山市沿岸に配置した。携帯電話サービスの提供により、県民の通信障害の解消に貢献したという。
♦安楽孝明国際ケーブル・シップ(株)代表取締役社長から、ネット社会を支える海底ケーブルの保守にあたる「KDDIオーシャンリンク」の役割と社会貢献についてご寄稿いただいた。国際通信の99%以上は、国際光海底ケーブルを経由しているとされるが、その総延長は地球の30周分にあたるという。2011年3月に発生した東日本大震災では約20か所以上の海底ケーブルの障害が発生したといわれている。安楽氏が代表を務める会社は、当該修理船を使って150余日をかけて11か所の修理作業に従事したという。北海道胆振東部地震でも携帯の海上基地局として活躍した由である。
♦台風の痕跡はシャコガイ殻にも残されるという。渡邊剛北海道大学大学院理学研究院講師からは、沖ノ鳥島のシャコガイ殻に残された台風の痕跡とそこに刻まれた過去の気候変動についてご説明をいただいた。100年以上に渡って年輪と日論を刻みながら分厚い殻を形成するシャコガイは、化石としての保存状態もよく、熱帯域の気候変動を非常に高い時間解像度で記録する媒体とされる。人類記録のない時代の地球の温暖期における台風につきシャコガイ殻を用いて復元し、温暖化が進む近未来の台風の頻度や規模を予想しようという試みに注目したい。
♦佐藤孝子(国研)海洋研究開発機構技術副主幹であり、NPO法人チームくじら号副代表から、子どもたちへの深海の世界を紹介する絵本の読み聞かせを通じた科学教育についてご紹介いただいた。熱水噴出孔に豊富にある硫化水素を利用してエネルギーを得て、バクテリアに属するイオウ酸化細菌を体内に共生させている「ハオリムシ」の解説の際に、5歳の園児による「バクテリアは何を食べてるの」の質問に対し、深海微生物の高圧適応と共生を研究してきた加藤千明NPOチームくじら号代表の「バクテリアは地球を食べているんだ」とのやりとりは科学の楽しさを伝えてくれる。理科離れが深刻とされる子どもたちに、エビデンスに基づく科学的思考法を伝えるチームくじら号の活動に期待するとともに、心より応援したい。(坂元茂樹)

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