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第450号(2019.5.5 発行)

水産研究機関からのSDGsへの貢献 〜SH“U”Nプロジェクトの推進〜

[KEYWORDS]SDGs/SH"U"Nプロジェクト/水産物の持続可能性
(国研)水産研究・教育機構顧問◆大関芳沖

東京オリンピック・パラリンピック開催を控えて、各地でSDGsをテーマにしたイベントが開催され、持続可能な開発という意識が社会に次第に浸透しつつある。
魚介類などの水産資源についても、持続可能な利用に向けていろいろな動きが見られる中で、(国研)水産研究・教育機構が行っているアウトリーチ活動の1つである、SH“U”Nプロジェクトの推進について紹介したい。

オリンピックに向けた持続可能性意識の拡がり

2年ほど前には、道行く人に「SDGsをご存じですか?」と聞いても、「なんかの予防接種 ?」というような反応だったが、オリンピック東京開催を控えてこの言葉が急速に広まってきた感がある。大手企業の人達からは、「これからはSDGsをやっていなきゃだめだ」という声も聞かれるが、水産なら何ですかと聞いてみると、「社食でエコラベルのついた魚の料理を出すことでしょ」という答えが返ってくる。
2015年9月の「国連持続可能な開発サミット」で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に含まれる持続可能な開発目標が、SDGs(Sustainable Development Goals)である。これは、2030年までに持続可能な社会の実現を目指す17の開発目標からなる世界のマスタープランであり、目標14「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」には、魚介類などの水産資源も含まれている。
2012年のオリンピックロンドン大会から、開催後に継承すべきテーマとして「環境の持続可能性確保」が謳われ、開催期間中に提供される水産物にも持続可能性に配慮することが求められた。これは東京大会にも受け継がれ、わが国におけるSDGs推進も、政府による2017年の「SDGsアクションプラン2018」決定により加速されている。

水産業におけるSDGs推進

水産業は、天然で再生産する魚介類資源を利用するものであり、適切に管理すれば持続可能な形で利用できる。しかしながら、適切に管理されているかどうかを一般の人が知ることは容易ではないため、水産エコラベルが考案された。これは、認証審査団体が消費者に代わって個別の水産物の資源状況・漁獲状況・環境への影響などを審査し、合格したものにラベルをつけて販売することで、資源や環境に悪影響をもたらす漁業を是正していこうという活動である。世界的には、MSC(Marine Stewardship Council)やASC(Aquaculture Stewardship Council)がよく知られている。最近は大手量販店でMSCマークを見ることもあるが、国内で認証を受けた魚介類はまだ少ない。日本発の水産エコラベルとしてはMEL(マリン・エコラベル・ジャパン)があり、50以上の漁業が認証を受けているものの、店頭ではまだまだ十分に浸透していない。その結果として、冒頭の社食にはベトナムから輸入されたナマズや北海道のホタテなど、ごく少数のSDGs対応料理が並ぶことになる。
わが国の水産業は2000年を優に超える歴史をもち、多くの魚種が持続的に漁獲され、1,000種類あまりの魚種や銘柄の水産物が水産市場で取引されている。SDGsを真剣に推進するには、エコラベルに加えて国民一人ひとりが持続可能な資源の利用を意識し、正しい知識を持って旬の魚介類を味わう必要がある。また、水産資源を生産している地域社会が健全に持続的な生産を続けられるようにすることも重要である(目標8:経済成長と雇用)。
(国研)水産研究・教育機構(水研機構)は、研究機関の立場から国内の漁業者を支援し、国内の消費者が自身の判断によって資源の持続可能性を維持していく活動を支えることを目的に、科学的な情報を分かりやすく提供するアウトリーチ活動の一環として、SH“U”N(Sustainable, Healthy and “Umai” Nippon seafood)プロジェクトを、2016年に立ち上げた。その主体となるのは、水研機構が都道府県水産研究機関と連携して長年にわたって実施してきた、多くの魚種の資源調査結果である。

SH“U”Nプロジェクト

SH“U”Nプロジェクトでは、水産資源や漁獲の状況、漁業管理などの情報を、魚種ごと生産地ごとにまとめて公表し、消費者が自然と体に優しい魚選びをする際の情報源にしていただくと共に、生産者のエコラベル取得を支援することを期待している。
このプロジェクトでは、水産総合研究センター(水研機構の前身)が、2009年にとりまとめた『我が国における総合的な水産資源・漁業の管理』のあり方を基礎にしている。ここでは、魚が生まれて成長し、それを一定の秩序に従って各地域の漁業者が獲ったあと、陸上の加工・流通を通じて価値が高められ、各家庭の食卓でおいしく食べられるまでの、自然と社会の中の魚の流れ全体を「水産システム」と呼び、「水産システム」全体を強く、太く、なめらかにしていくことが、水産資源を守りながら持続的に利用することだと捉えている(図1)。
そこで評価の視点には、持続可能性の視点として水産資源と海洋生態系の持続性だけでなく、地域固有の文化と地域経済の持続性も考慮することとした。日本の持続的な水産物を安心して購入してもらえるよう、水産資源の水準だけでなく海洋生態系や漁業管理の状態、地域の文化や社会経済的な状況など4つの視点から評価を行い、食品としての栄養や安全性などとともに、消費者向けに発信している。
水研機構はわが国唯一の水産に関する総合研究機関だが、現場のことは漁業者自身や各地方自治体の水産行政機関の方がよく知っていることも多い。そこで、水研機構内の専門家が評価報告書案を作成した後、現場で評価対象漁業に関係している方々からの意見を聞いて、情報の漏れや誤解を事前に解消すると共に、評価報告書案へのパブリックコメントを実施し、その対応についても公開することとした。さらに一連の対応に問題がないかどうか、外部レビュー委員会の開催も併せて実施している。
評価結果は、店頭で表示されている品目名と原産地表示に対応した形でホームページに公表すると共に、引用文献や根拠データも公表することで、水産エコラベルの認証審査においても科学的な情報源として利用してもらうことを期待している。これまでに10魚種の評価結果を公表し、対馬暖流域のマイワシなど6種についても近々掲載する他、東北地方のマダラなど7種についても作業を進めている。東京オリンピックの調達が始まる今年末までには50種程度を目標に評価を公表する計画である。また、消費者の皆様により水産物の持続的な利用を身近に考えてもらえるよう、スマートフォンアプリを公開している(図2)。
このプロジェクトがスタートして2年余りの間に社会は大きく変化した。東京オリンピックの水産物調達では、各地の資源管理計画にも目が向けられるようになった。昨年末には漁業法が改正され、資源管理に科学的な達成目標を定めて維持管理していくという考え方も取り込まれている。こうした中で、消費者への適切なアウトリーチ活動の重要性は今後ますます高くなっているものと考えている。(了)

■図1 SH“U”Nプロジェクトにおける「水産システム」の考え方 (水産総合研究センター 2009改変)
「海にいる魚」、「海の生態系」、「海での漁業活動」、「漁業を取りまく地域産業や社会」、そして食品としての「健康と安全・安心」などのどれか一つがかけても、水産物を持続的に利用することはできません
■図2 SH“U”Nプロジェクトのスマートフォンアプリ■図3 SH"U"Nプロジェクトホームページ QRコード http://sh-u-n.fra.go.jp/
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