Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第395号(2017.01.20発行)

誰が日本の美しい海岸を守るのか?~加茂水産高校における海洋教育の取り組み~

[KEYWORDS]海洋教育研究会/海洋教育促進拠点/SPH(スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール)
山形県立加茂水産高等学校長、山形県海洋教育研究会長◆佐藤 淳

漁村地域の生活向上を目的に70年の歴史を経て、山形県海洋教育研究会を続けてきた。
少子化の流れの中で、海洋教育を進めてきた海岸地の小学校が少なくなってきているが、引き続き、山形県立加茂水産高等学校を拠点とした海洋教育の地域への展開と海洋教育の全国ネットワークづくりを目指している。

はじめに

きらきらと輝く光る海、夕陽に染まる日本海、校舎から眺める表情豊かな海が私たちの心を和ませてくれる。最近の報道で2050年には、人口減少により県内市町村の8割が消滅してしまうと伝えられた。高齢者を含め多くの農村漁村から人がいなくなってしまう。それに伴い日本各地の美しい原風景である里山里海が失われていくことが心配される。人の手が入らない自然は原始に戻り荒れていく。また、人のいなくなった海岸線では、外国からの密入国者、海洋投棄物の漂着、防波堤などの海洋構築物の破損など多くの問題が懸念される。地域で生活をし、地域を守る人材の育成が急務とされている。
山形県の沿岸は、海岸線約92キロ(飛島周辺10キロを含む)で構成され、沿岸には35の集落が点在している。これらの集落でも少子化が進み統廃合の流れの中で、海を題材に長年にわたり海洋教育を進めてきた海岸地の小学校がなくなってきている。海に親しみ、海を知ることを通して、海を守り、利用してきた私たちの生活や意識が変わる分岐点に差しかかっている気がしてならない。

山形県の海洋教育の現状

戦後間もなく漁村地域の生活向上を目的に、山形県漁村教育研究会が結成された。以来70年の歴史を経て、山形県海洋教育研究会と名称を変えながら、現在は加茂水産高校と8つの小学校を会員校として活動を続けている。
「海は学びの宝庫である」を基本理念に、各小学校でヨット教室・地曳網・稚魚の放流・遠泳・磯採集など海や生き物とのふれあいと地域学習を通して活動していたが、総合的な学習の時間の減少と海岸地の小学校の統廃合のあおりを受け、会員校が減少し本県独自で進めてきた本会の存続も議論されるようになった。しかし一方で、小中学校の次の学習指導要領に海洋教育を位置づけるべきとする大きな流れも出てきた。各教科の目標や内容に海洋教育を活用し、その実践の交流の場として東京大学を会場に海洋教育サミットが開催され、海洋教育が全国的な取り組みになりつつある。
その流れの中で、山形県海洋教育研究会を代表し、加茂水産高校が東京大学海洋教育アライアンスと海洋教育促進拠点として2015(平成27)年に協定を結ぶことになった。
ここ山形は、月山などの豊かな森が最上川など美しく豊かな川を生み、多くの生き物を育みながら海にそそぎ、豊穣な庄内の海をつくっている。2016年9月の天皇皇后両陛下をお迎えして行われた『全国豊かな海づくり大会』により、その魅力が県民や全国に広く発信され、明日を担う子どもたちが海や森や川に目を向けてくれる良い機会になった。この機運が高まっている今こそ、全国の海洋教育の拠点とネットワークを形成し、海に親しみ、好きになる子どもたちを増やし、将来海岸地に住み「地域を守り、海を守る人材育成」の千載一遇のチャンスと考えている。

海洋教育促進拠点の締結式
小学生との缶詰製造実習
加茂水族館での出前授業

SPHとしての取り組みと今後の課題

SPH(スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール)研究テーマを、「中型実習船『鳥海丸』を効果的に活用し、学校の活性化を図るとともに、地域に貢献するためのアグレッシブな地域再生の原動力たる水産教育の実践」とし、別表のような取り組みを行っている。
海洋およびそれを取りまく環境について研究・研修を深め、探究型学習などによる充実した児童・生徒の海洋教育を提供するための持続可能なシステムづくりが課題である。幸いにして、本県には長年受け継がれてきた海洋教育に関する研究や実践で、数多くのプログラムの展開ができる強みがある。また、水産高校では「海・船・水産物」に関する設備や海洋生物が提供でき、近隣には加茂水族館などの海洋に関わり連携する施設がある。
それらを活用して、①海の食文化を学ぶ、②海洋生物の生態と資源保護を学ぶ、 ③庄内の海を学ぶ、④航海(海の乗り物)を学ぶ、⑤マリンスポーツに親しむ、⑥海の安全を学ぶ、⑦冷凍の不思議を学ぶ、⑧地域の水産業を知るという8つの学びを準備し、庄内浜文化伝道師協会、加茂水族館、水産試験場、漁業者、鶴岡市と連携しながら会員校である小学校や幼稚園その他希望校にプログラムを提供することを計画している。
海は地球表面の7割を占め、日本は四方を海に囲まれている。その海岸線の長さは世界でも6番目に長く、海洋国家と呼ばれている。私たち日本人は、海の恵みを大切に海と共存しながら、里海を守り生活してきた。この海岸線と漁業を守り、その地域の魚食文化を伝える人づくりが、全国にある私たち水産・海洋系高校46校の使命と考えている。(了)

  1. SPH(スーパー・プロフェッショナル・ハイスクール):社会の第一線で活躍できる専門的な職業人を育成するため、先進的な専門高校を指定し支援する文部科学省の事業
  1. 山形県立加茂水産高等学校HP

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