Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第395号(2017.01.20発行)

海底広域研究船「かいめい」が拓く海洋調査研究の新時代

[KEYWORDS]海底広域研究船/「かいめい」/広域3次元地殻構造モデル
国立研究開発法人海洋研究開発機構研究担当理事◆白山義久

「かいめい」は、海底設置型掘削装置、パワーグラブ、40mピストンコアラーなどの世界に誇る調査機器を搭載した海底広域研究船であり、資源調査においてさまざまな役割を果たすほか、あらたな海洋観測の展開にも貢献する。
新しい観測装置により、深海の温暖化や地震・津波災害を予測するための不可欠な海洋情報を把握し、安心と安全に貢献する科学的成果に向けて挑戦する。

海底広域研究船「かいめい」とは

■図1 海底広域研究船「かいめい」
©JAMSTEC

国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)は2016(平成28)年3月に海底広域研究船「かいめい」(5,747トン)を竣工させた(図1)。本船は海底資源の分布等、海底の広域調査を効果的に行うとともに、鉱物・鉱床の生成環境を捉える総合的科学調査を可能とする最新鋭の研究船である。最先端の調査機器、洋上研究ラボ機能を有する「かいめい」は、汎用研究船としての機能も兼ね備え、防災・減災研究にも貢献することができる。海底設置型掘削装置(BMS)、パワーグラブ(PG)、40mピストンコアラー(PC)による「海底下試料採取」、3モード対応地震探査システム(MCS)を用いた「地殻構造探査」、衛星通信・海中音響通信機器を駆使した「自律型無人探査機(AUV)複数機運用」、CTD(水温・塩分・深度センサー)・採水装置や各種気象海象観測装置による「一般海洋観測」といった機能を有し、調査研究の目的に合わせて機器を入れ替えることにより、一隻で複数の専用船に相当する能力を発揮することが可能である。

「かいめい」が資源調査に果たす役割とは ─ 海底資源研究開発センター

■図2 パワーグラブ(PG)により採取された海底鉱物試料
©Hideaki Machiyama / JAMSTEC

海底資源調査には主に二通りの方法がある。遠隔から調べるリモートセンシング(遠隔調査)と直接海底から試料を採取して調べるダイレクトサンプリング(試料調査)である。遠隔調査には、2次元あるいは3次元の地震波調査、海洋地磁気・重力異常調査などがあり、観測船から観測機器を曳航して実施するものと海中ロボットなどを使用して実施するものがあるが、いずれもスペックが異なる部分はあるものの、JAMSTECの船舶に従来から装備し使用してきた。「かいめい」で特長的なのは、BMS、PG、40m PCなどの資源調査に不可欠な試料調査に関する搭載装置の陣容である。BMSは海底に設置して海底下30mまでの地層を機動的に掘削する能力を持ち、海底下浅部の情報を直接得ることができる。これは2017(平成29)年船上に設備予定で、どのようなコア試料が採集されるか関係者の熱い注目を浴びている。PGには岩石試料採取用の6本爪タイプと泥質試料採取用のシェルタイプがある。HDTV(ハイビジョン)カメラを搭載し、船上のモニターにより、採取前に試料を直接観察して目星をつけてから大量に採取することが可能で、これまでの試験運用で、実際に大量の試料採取に成功した(図2)。PCはこれまで20mのものを運用してきたが、それを一挙に2倍にして新たに製作したもので、海底下40mまでの泥質試料採取が可能となった。試験航海ではこれまで26mの貫入、採取コア試料は21mにとどまっており、今後改良していきたい。
上述した試料調査機器を搭載できる科学調査船は、「かいめい」だけであり、更に遠隔調査で深部、浅部の海底下構造を調査する能力も備えている事を考慮すると、世界最高峰の船舶といえる。現在は1年間の慣熟航海の真最中であるが、実際の運用に向けた準備をしっかりと行い、その能力をいかんなく活かして、日本近海の海底資源の研究を飛躍的に発展させたい。

あらたな海洋観測の展開 ─ 地球環境観測研究開発センター

気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書では、地球の温暖化は疑う余地が無く、海洋表層に加え3,000m以深の深海でも温暖化している可能性が指摘されている。深海の温暖化は、深層循環の弱化に起因するという説も有る。
深海の変化は、船舶で大洋を縦横断しながらCTDと採水器を合わせた装置を、ケーブルを使って海中を上下させることで調べる。一般的な観測船では、使用する鋼線ケーブルの自重が重いため、深さ6,500m程度までしか観測できない。より深い海溝部では、ワイヤーに1台1台採水器を直付けした採水観測が可能であるが、多大な労力を要するため数えるほどしか行われていない。
「かいめい」では自重が軽い12,000mの繊維索ケーブルを装備することでこの問題を克服し、世界中のどこでも海底までのCTD/採水観測(最大36層)を可能にした。2016(平成28)年5月には、伊豆・小笠原海溝を横断する海溝底(9,500m)までの詳細なCTD/採水観測を世界で初めて実施した。予備的な解析から、海溝は、北太平洋底層の水質を反映した均質な海水で満たされており、北太平洋底層と同様の長期変化が存在することが示唆された。一方、微生物生態系の解析からは、海溝内には独自の生命圏が存在することが報告されている。
8,000m以深の海溝の大部分は太平洋の西端に集中しており、「かいめい」の卓越した能力と地の利を活かした機動的な観測を行うことで、気候変動研究や微生物生態研究等を大きく進展させていこうと考えている。

海底下構造探査の新時代 ─ 地震津波海域観測研究開発センター

地震は、固着していた断層が高速にずれることによって発生する。このような断層の地質構造を把握するために最も効果的な方法は、圧縮した空気を爆発させて人工的に地震を作り出し、その地震波(音)をモニターする「反射法地震探査」である。調査海域のある線上を受信器(マイク)が列状についている長いケーブルを船でひっぱりつつ、音を出しながら走って、出した音の海底下からの反射を受信器でとらえることで、岩石の様子や断層の位置など海底下の様子を調べる。
「かいめい」が搭載するケーブルはこれまでにない12,000mと長大なもので、今まで把握できなかった海底下からの深さ20km程度までの地殻構造を詳細に探ることができる。また、ケーブルを分割して平行に複数並べると、ちょうどステレオカメラのように、3次元で地殻構造を調べることもできる。3,000mのケーブル4本、300mのケーブル20本、どちらを用いても3次元探査ができるが、特に後者によって、沿岸域の海底活断層などの地殻構造を、非常に精細に、3次元で把握することが可能となる。
「かいめい」による探査から得られる広域3次元地殻構造モデルは、どこでどのような地震、津波災害が起こりうるのか想定するために不可欠な情報である。災害予測が可能となれば、より現実的な防災対策を講じることができるであろう。地震国日本の社会の安心と安全に貢献する科学的成果にむけて、「かいめい」による挑戦が始まる。(了)

  1. 本稿は、各研究センターが執筆したものを、筆者の責任でまとめたものである。
  2. 参照:JAMSTEC>「かいめい」大解明!―推進機関編
    http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/quest/kaimei/

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