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オーシャンニューズレター

第380号(2016.06.05発行)

CLMVにおけるロジスティクスの現状と課題

[KEYWORDS]社会インフラの未整備/荷主と物流事業者の同期化/国内とCLMV工場の一元管理
東海大学海洋学部教授◆石原伸志

2000年代に入ると、安い労働力、アセアン経済共同体の発足、日本政府による経済支援等もあり、新たな生産拠点としてカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム(CLMV)が注目されている。
だが、物流インフラや法規制が未整備なCLMVで、グローバル・ロジスティクスやグローバル・サプライチェーンを構築することは容易ではない。
今後CLMVでのグローバル・ロジスティクスやグローバル・サプライチェーンの構築に際しては、物流事業者と荷主企業の同期化がますます重要となってこよう。

はじめに

2000年代に入ると、「チャイナ・プラスワン」と称して、繊維産業や組立型産業(ワイヤーハーネス他)のような労働集約型産業の新たな生産拠点として注目され始めたのがカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの4カ国(CLMV)である。これらの国が注目され始めた理由は、①安い人件費、②AEC(アセアン経済共同体)のメンバー、③東西経済回廊や南部経済回廊の道路インフラ等の整備、④アセアン人口6億という潜在市場としての魅力、⑤日本、中国等とのアセアン連合のFTA・EPAの締結、⑥日本政府による経済支援※等があるからである。
だが、物流インフラや法規制等が未整備なCLMVでのグローバル・ロジスティクスやグローバル・サプライチェーンの構築はまだまだ問題も多い。
そこで、本稿では、いま注目を集めているCLMVの物流面からみた現状とグローバル・ロジスティクスやグローバル・サプライチェーン構築に際しての問題点について考察する。

CLMVにおける物流上の課題

CLMVにおける物流の現状と課題は次の通りである。
第一は、CLMVだけでなく、いまアセアン全体を悩ましている問題は労働者の賃金上昇という問題である。賃金上昇は人口の少ない国ほど早いが、賃金上昇は生産原価や物流費アップの要因ともなるため、雇用者側にとって頭の痛い問題となる。
第二は、CLMVにおける輸出入通関手続きが煩雑で、税関吏等による不明朗な金や賄賂の要求が横行していることである。但し、ベトナムには日本のNACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)をベースにしたベトナム版VNACCSが2014年から稼働、ミャンマーでは同じくMACCSが2016年中旬から稼働予定である。ベトナムではVNACCSの稼働に伴い、輸入時の課税価格が賦課課税方式から申告課税方式に変更され、事後調査が強化されたことで、通関の迅速化と透明性が図られつつある。
次に、通関時間に関して、CLMVの国境(例えばタイ/ラオス)では両国での通関手続きが必要であることに加えて、両国の開庁時間が一致せず、時には翌日の相手国税関の開庁まで国境で待たされるケース、また、事前教示制度が導入されていないため、国境税関吏間での申告コードの解釈の不一致等がみられ、不明朗な金の要求の温床となっている。
第三は、ミャンマー等では、村の出入り口や橋梁の袂に関所があり、村人が勝手に通行料を徴収しているが、問題は、その関所がどこに設置されているかわからないことである。
第四は、ヤンゴン港(ミャンマー)、ハイフォン港(ベトナム)、ホーチミン港(ベトナム)、プノンペン港(カンボジア)等は河川港のため、水深が6~8mと浅いことである。そこで、大型のコンテナ船がダイレクト寄港できないため、シンガポール港や香港港等でトランシップされている。
第五は、ガソリン代が高く、道路・通信、電力インフラ等が悪いだけでなく、外国企業向けは二重料金制になっていることである。また、地方に行くと、舗装道路は少なく、舗装路においてもメンテナンスされていないため、道路の凹凸が多く、貨物の落下、衝撃による損傷などが発生しやすい。また、ラオスやカンボジアの道路は街灯もないため、夜間走行が難しいことである。さらに、雨中走行中でも、幌のかけ方が不十分なため、貨物の雨濡れ事故も発生しやすい。
第六は、倉庫等での荷役機器の運転が乱暴な上に、トラックの積み下ろし、空港や港でのバン詰め、バン出し時には貨物を投げるだけでなく、貨物を踏み台の代わりにしたり、軽い貨物の上に重い貨物を平気で積んだりするため、貨物の損傷が起きやすいことである。
第七は、地場の物流事業者は賠償責任保険を付保する習慣がないことである。従って、事故を起こしても、運転手は即時に解雇されたり、その場から逃げたりして、責任感が希薄な上に企業も損害賠償能力もないため、事故損害は荷主企業が負担せざるを得ないのが実態である。
第八は、CBTA(越境交通協定)が署名、批准されているが、タイ/カンボジア、タイ/ラオス/ベトナム、タイ/ミャンマー間等のトラック輸送において、ダブルライセンスのトラックによる輸送を除いて、国境の屋外での積み替えが必要となるため、貨物の盗難、損傷、密輸等も発生しやすい。

CLMVにおける今後の国際物流の展望

CLMVでいま問題になっている社会インフラや法令等の未整備は日本政府やアジア開発銀行等の支援もあり、今後徐々に解消されていくであろう。
一方、日本国内の産業の空洞化が進み、アジア域内での国際分業が深化する中で、人件費格差と産業集積等を考えた時に、今更一般工業製品の国内回帰は考えられない。そこで、日系荷主企業は、CLMV・日本関係なく、どこに工場があろうと、日本国内の生産拠点と同一と考え、一元化したグローバル・ロジスティクスやグローバル・サプライチェーンの中で管理していくことがますます重要であるといえよう。だが、海外工場操業に際して物流の専門家を派遣していない日系荷主企業が、いま必要としているのは、「荷主のため」ではなく、「荷主の立場」で調達・生産・物流・販売を荷主企業と同期化して戦略的に考えることができる物流事業者である。
そこで、荷主企業が今後CLMVで全体最適なグローバル・ロジスティクスやグローバル・サプライチェーンを構築していくためには、荷主企業の動きやニーズを的確に捉え、迅速かつ確実に実行できる物流事業者とのコラボレーションがますます重要となってくるといえるのではないだろうか。(了)

日本政府によるCLMVへの主な物流支援策としては、(ⅰ)2015年8月に開通した東西経済回廊の一部であるミャンマーのミャワディとティンガニーノ間の迂回路の道路整備、(ⅱ)2015年4月に開通した南部経済回廊のネアックルン橋(カンボジア)の建設、(ⅲ)2013年12月に開通した南北経済回廊の第4メコン国際橋(ラオス・タイ間)の建設、(ⅳ)ハノイ/ホーチミン間およびミャンマーの内陸向け鉄道輸送網の整備、(ⅴ)ダウェー開発プロジェクトやティラワ経済特区(SEZ)の建設、(ⅵ)ベトナムやミャンマーへの日本の通関システムであるNACCSの輸出等である。

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