Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第378号(2016.05.05発行)

編集後記

◆平成28年度がスタートして1カ月が経過した。この間、熊本を中心とした地震災害に被災された方々に心からお見舞いを申しあげたい。さて、読者諸氏には本ニューズレターが海にかかわる最新トピックスの紹介や問題提起が地域から地球規模までのレベルで縦横無尽に展開していることにお気づきのこととおもう。新聞紙面でいえば、地域版と地方版、そして世界を含む全国版までを一気に掲載したようなものだ。
◆本号でトップを飾るのは、昨年にWWFから公表された海洋版の『生きている地球レポート』の位置づけについてである。WWFジャパンの自然保護室長である東梅貞義氏はWWFによる一連のレポートを要約し、日本の果たすべき役割を提案しておられる。それによると、世界の海の生物数は1970年当時とくらべて激減し、とくに日本人になじみのあるサバ科魚類17種58系群(個体群)が1970年比で3/4減少したとする数字は危機的である。イワシ、アジ、サバ、ブリ、マグロなどを想起すれば、現代の地球の海がいかに由々しい事態にあるかを深刻に受け止めたい。決してうれしい話題ではないが、今後の課題としてたいへん注目すべき内容だ。東梅氏は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを念頭におき、日本が持続的な社会構築を果たす強力なメッセージを海洋資源の管理と持続的利用に向けるべきとの提言をおこなっておられる。オリンピックは単なるスポーツの祭典だけであるのではない。このことを政府はじめ関係各位に強くアピールすべきだろう。
◆リジョナルな話題は、高知大学による農林海洋科学部の新設に係るトピックスである。高知大学の深見公雄教授によると、学部再編は高知大学内の教育改革としてあるだけでなく、四国の五国立大学(高知大、愛媛大、香川大、徳島大、鳴門教育大)間の連携を踏まえた学的な戦略の実践である。いわゆるコンソーシアムのメリットを基盤として、今後ともに海洋教育や高知の地の利を生かした研究と人材育成を推進し、オリンピックとそのあとに続く5~10年間に飛躍的な達成が実現することを祈念したい。
◆地域の話題として、内陸県である栃木県下におけるトラフグ養殖のプロジェクトが紹介されている。那珂川町は那須火山帯の那須郡にあり、東を茨城県に接している。那珂川はアユ釣りや周辺の里山温泉地として知られるが、町内に湧出する温泉成分が海水魚・淡水魚の養殖に適していることから、「温泉トラフグ」の飼育実験に成功し、商品化されている。(株)夢創造の野口勝明氏はその推進役の一人で、トラフグのほかサクラマスの蓄養、温泉熱の産業利用など多角的な事業による地域振興を策定しておられる。町内の馬頭温泉郷の泉質は肌によく、「美人の湯」と聞く。アユもよし、温泉もよし、温泉トラフグもまたよし。 (秋道)

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