Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第378号(2016.05.05発行)

農学部から農林海洋科学部へ ~高知大学の海洋教育研究改革~

[KEYWORDS] 総合的海洋管理教育/海洋資源/海洋環境
高知大学農林海洋科学部海洋資源学科/総合科学系黒潮圏科学部門教授◆深見公雄

高知大学は平成28年度から、従来の農学部を改組し「農林海洋科学部」を設置する。そのなかの「海洋資源科学科」では、海洋の生物/海水/海底鉱物の各資源と環境を総合的・多面的にとらえ、さらにそれらの維持管理を行うために必要な基礎的知識を有する人材育成を行う。カリキュラムの中では、四国5国立大学が連携して実施する総合的海洋管理教育プログラムが必修化される。学士課程(学部)の学生が文理統合的な視点から海洋管理について学べる学科は、全国で唯一のものである。

はじめに

高知大学では、山から海を一体的に捉え、総合科学としての農学の教育・研究をさらに推進するとともに、特に海洋に関する教育・研究の充実を図るため、平成28年度から、従来の1学年学生定員170名の農学部を再編し、学内学生定員を30名移動させて200名とする「農林海洋科学部」を創設することになった。
高知大学は、南四国の豊かな自然と風土をもとに、現場主義に立った地域活性化の中核的拠点として、安全な食料の確保、環境の保全および生物資源の生産と有効利用の面から、地域社会と国際社会の健全な発展に寄与することを目指してきた。なかでも土佐湾や四国沖太平洋の水産生物資源、低温・清浄・富栄養な海洋深層水の海水資源、さらに土佐湾沖の海底に眠っているメタンハイドレートを始めとしたさまざまな鉱物資源など、高知県は豊かな海の恵みを受ける海洋県である。このような高知の地で、高知大学が、生物・非生物を合わせた「海洋資源」および「海洋環境」をキーワードに教育・研究を推進することは当然の理である。
折しも、海洋国日本を確固たるものにするために2007(平成19)年に制定された海洋基本法に基づいた海洋基本計画が2013(平成25)年4月に改定された。その中には、重点的な取り組みとして、「海洋産業の振興と創出に関わる人材の育成」と「海洋教育に関わる人材の育成」が謳われている。このような背景のもと、新農林海洋科学部では、従来の1学科8コース体制から、「農林資源環境科学科(学生定員90名)」「農芸化学科(45名)」に加えて、海洋の生物/海水/海底鉱物の各資源と環境を総合的・多面的にとらえ、さらにそれらの維持管理を行うために必要な基礎的な知識を有する人材育成を行う「海洋資源科学科(65名)」の3学科が設置される。

海洋資源科学科の概要と育成する人材像

海洋資源科学科は、海洋生物生産学コース、海底資源環境学コース、海洋生命科学コースの3つのコースで構成される。いずれのコースにおいても、「海洋資源」および「海洋環境」をキーワードとした分野横断的な教育を実施することで、海を「知り、使い、そして護る」ために、生物・非生物を問わずさまざまな海洋資源を多面的に扱えられる人材育成を行う。このため、海洋資源とそれを取り巻く海洋環境を適切に維持・管理していくための基礎的な知識や海洋法規・経済、あるいは合意形成に関する専門的知識を有する国際的な総合的海洋管理の視野を持った学生の教育を実施する。
このような学科共通の知識に加え、海洋生物生産学コースでは海に面した高知県の地理的優位性を最大限に活かし、海洋生物・水産資源を生産・活用するための専門的な知識を、海底資源環境学コースでは海底鉱物資源の有効活用あるいはそれに伴い生じる海洋環境の維持や保全に関わる問題を解決できる専門的な知識を、また海洋生命科学コースでは有用海洋微生物等の未利用遺伝子資源を探索し、科学的な見地から検証するための専門的な知識を、それぞれ身につけさせる。このように本学科では、海洋資源の有効活用による持続的社会の創造を志し、俯瞰的に問題を分析し実際に行動し解決できる能力を有するとともに、3つのコースそれぞれの専門的な知識を併せもった海洋資源管理にたけた実践力のある海洋専門人材を育成する。これまでの水産学に関連する教育・研究に加え、海底資源環境、海洋天然物資源等に関する知識・技術、さらには上述の総合的海洋管理についての教育・研究も行い、学科全体として海洋専門人材の育成を図ることから、学位に付記する専門分野の名称を「学士(海洋科学)」とする。

カリキュラムの構成

海洋資源科学科では、天然資源の維持管理・有効利用に関連して3コースが教育研究において有機的に連携・機能することで、多様化・複雑化する諸課題の解決に対応でき、地域社会ひいては国際社会においても活躍できる人材を育成するカリキュラムが用意されている。
また四国の5国立大学では、四国地方が南に太平洋、北には瀬戸内海と、四方を海に囲まれ、古くから海の恵みを自然資源・文化・社会等のさまざまな面で数多く享受するとともに、それらをうまく管理・利用してきたことを題材に、海洋に関するそれぞれ特色ある教育研究が実施されている。そこでこれらの大学が協力して、各大学で実施されているカリキュラムを統合的・補完的に運用し、かつ各大学の特色をうまく組み込むことで、5大学のスケールメリットを活かした、先駆的かつ画期的な総合的海洋管理 (ICOM: Integrated Coastal and Ocean Management) 教育プログラムが実施される。本学海洋資源科学科では、他の4大学に先駆けてこのICOM教育プログラムを必修科目群としてカリキュラムの中に組み込み、いずれのコースに所属する学生であっても総合的海洋管理教育を受けることになる。

■四国5大学ICOMプログラム(開講学年)

ICOM教育プログラムは、図のようにコアカリキュラムと選択必修科目群に分かれ、それぞれ6科目12単位ずつ、合計12科目24単位の履修を必須としている。コアカリキュラムは全ての学生にとって共通の必修科目である。このうち1年次の第1学期に履修する「海洋科学概論」は、5大学の教員15人がそれぞれ1回ずつ担当し、総合的海洋管理のために最低限知っておかなければならない、海洋に関する生物学・化学・地学・物理学・工学・社会科学・水産学等に関する基礎的な知識・情報を学ぶための授業科目である。また、選択必修科目群は、4科目群から最低1科目以上2科目以内、合計6科目を選択して履修する。これらICOM教育プログラムの授業科目は、基本的にはe-learningで実施される予定である。ICOM教育プログラムを履修した学生には、5大学の学長名による修了認定証が授与されることになっている。
このように、高知大学農林海洋科学部海洋資源科学科では、地域に根差しかつ国際的視野を有した「海洋専門人材」を育成することを教育理念とする。卒業後は、本学大学院総合人間自然科学研究科の各専攻への進学や、試験研究機関や企業への就職を目指す。このように、学士課程(学部)のうちから、生物学、化学、地学、物理学の側面から多面的に海洋の資源と環境をとらえることができ、さらに総合的海洋管理に関する知識、海洋法規など人文社会学的な観点を有し科学技術の社会還元に不可欠な合意形成に関する知識をも有する人材を育成できる学科は、全国で唯一のものである。(了)

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