Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第378号(2016.05.05発行)

海なし地域の『温泉トラフグ』

[KEYWORDS]町おこし/地域資源/陸上養殖
(株)夢創造 ◆野口勝明

海のない栃木県山間部において海水の代替となる温泉水「低塩分環境水」と温泉熱の活用により、閉鎖型の陸上循環養殖施設を用いて日本で初めてトラフグの一貫生産システムの開発に成功した。現在、生産量は、年間あたり25tの出荷体制を確立している。 今後とも、地域の資源を利活用し、再生可能エネルギー利用の推進、地域活性化に貢献していく。

地域活性化創造としての取り組み

栃木県那珂川町は、中山間地域独特の少子高齢化による人口減少による過疎化が地域の現状です。その対策として、①地域産業資源の利活用による特産品の開発と遊休農地の利活用、②農商工連携、産学官連携による差別化、高度化、および隣接市町との協調事業、③6次産業の推進による労働の場の提供等を行うことで交流人口の増加、若年層の労働人口の拡充が図れるものと考えます。
以上のことを再認識し材料リサーチを実施した結果、自然環境および地域資源の利活用による事業が有効かつリスクヘッジになるものと考えました。そこで調査の結果、地元那珂川町から湧出する温泉が、塩化物泉であることと、成分分析の結果、ナトリウム、マグネシウム、カリウム等海水濃度の1/4であることがわかりました。さらに、海水の4分の1の濃度は、生理食塩水に類似し海水魚および淡水魚の飼育環境濃度内であることが確認されました。そのためテストプラントを設置し、3条件を設定し、(人工海水0.9%、温泉水0.9%、人工海水3.5%)トラフグの飼育試験を1年間実施しました。
結果は、海水濃度人工海水3.5%に比較して0.9%温泉水および人工海水に成長速度に顕著な優位性が認められました。学術的理論検索の結果、東京大学大学院魚族生理学教室の金子豊二教授の論文にヒットししたため、金子教授に協力要請し、今後の協力を得られることとなったわけです。

商品価値の向上のための産学官連携プロポーザル

温泉トラフグ出荷魚

2009(平成21)年7月30日、地元で可食サイズに成長したトラフグで、地元関係者および県関係者50名による企画『温泉とらふぐと海産とらふぐ食べ比べ』として試食会と金子教授の基調講演を実施し、食味アンケート調査を合わせて行ないました。その結果、食べなれた食通の方から、身が柔らかい、味が薄い等のマイナス意見が聞かれため、商品価値を上げるべく対応を課題として与えられました。
試食会での課題解決に向け金子教授の全面的支援により、温泉トラフグの『味上げ』の研究を学生の修士論文のテーマに取り上げていただき、『味上げ試験事業』が始動しました。その結果、課題解決がなされ、2回目の試食会を100名規模で2010(平成22)年8月30日に開催し、盛況の中好評価を頂き、商業的な初出荷となったわけです。

新規事業の取り組み

平成24年度からは、新規事業の創造として4事業を実施しています。

  1. 1) トラフグ幼魚段階でのトラフグ雌雄判別法の確立による白子生産の効率化
    福井県立大学海洋生産資源学部の宮台俊明教授と東京大学大学院農学生命科学研究科附属水産実験所鈴木譲教授のシーズを活用し、染色体による雌雄判別を行っています。現在、2期目の実証試験中です。1回目の実績として、5,000尾すべてで約100gの白子熟成し2013(平成25)年11月より2014(平成26)年3月にかけて出荷されました。
  2. 2) 低塩環境でのサクラマスの創出
    (独)水産総合研究センター日光分場の協力のもと、2012(平成24)年9月より実施し翌年5月には100kgの生産に成功し、2013(平成25)年9月より1,000尾の1年魚15cmスモルト化※1幼魚を飼育し、2014(平成26)年6月までの8カ月飼育で860g/尾に成長し出荷開始しています。
  3. 3) 優良種苗生産
    宇都宮大学農学部飯郷雅之教授との連携により性格遺伝子の判別を行い、温厚な親個体から種苗生産を行うことで噛み合いを減少させることを目的としており、現在進行中です。
  4. 4) 温泉トラフグ完全養殖のための種苗生産技術の確立開発
    現在、温泉トラフグの稚魚は、海水での飼育個体を購入、池入れしていますが、温泉トラフグの無毒ブランド確立のため、温泉親魚からの採卵、受精、稚魚の生産を行い、卵巣、肝臓および内臓すべて食用とすべく、取り組みを現在2期目実施中です。

今後の展望

温水プール施設を利用した第3プラント養殖施設(250t)

現在、温泉トラフグ養殖施設は、全国10カ所において実施されており、順調に地元貢献されています。今後、温泉サミットを各養殖場で実施し、完全循環陸上養殖事業の重要性について理解を求めたいと考えています。また、東日本大震災以降、各地において再生可能エネルギーの導入が進められていることから、森林や水資源等、地域資源である温泉熱、木質バイオマス、有機バイオマス等の複合利用が進んでいくのではないかと考えております。そこでそれらとの連携事業として余熱利用計画として、熱発電所・熱帯植物園(南国フルーツ栽培)・海洋牧場(養殖事業)・レジャー施設(食材提供)を検討しています。今後、温泉トラフグ事業と、エネルギーの循環として連携を図るべく事業計画を進めています。
これまでの取り組みを評価いただき『平成22年度下野ふるさと最優秀賞』『第19回スポニチ文化芸術大賞優秀賞』『第2回地域再生大賞関東甲信越ブロック賞』『平成25年度とちぎ産業活力大賞』『平成27 年度(第16 回)民間部門農林水産研究開発功績者表彰』を頂いております。今後とも、海なし地域での、地域の資源である温泉を利活用した養殖から、再生可能エネルギー利用を拡張し、事業化推進・地域活性化に貢献していきます。(了)

  1. *1スモルト化=サケ科魚類の中には、成長にともない降海の準備とされる銀毛化変態を生じ、併行して海水適応能を発現する状況。
  2. ●元祖温泉トラフグHP http://www.ganso-onsentorahugu.com/

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