Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第377号(2016.04.20発行)

編集後記

国立研究開発法人海洋研究開発機構アプリケーションラボ 所長◆山形俊男

◆各地に異常気象をもたらしたスーパーエルニーニョは急速に弱まっているようだ。今秋には逆にラニーニャ現象が発生しそうである。季節に揺らぎを与える気候変動現象も時計の振り子のように揺れる。しかし、その周期、強度に加えて現象の形さえも地球温暖化の影響を受けて変化している。
◆火の使用以来、人類は炭素循環系を変え、地球大気の組成すら変えてしまった。人類は地球環境を変え、生息可能な惑星基盤さえも危うくしている。地質年代に「人類世(人新世)」を導入する話が議論されているのも、ゆえなきことではない。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が国際連合で採択されたのも、こうした「惑星限界(Planetary Boundaries)」を認識したことにある。
◆人類史上の転換点にあって、私たちはどうすべきだろうか。持続可能な社会に変革するには科学と社会の関係を再構築することが重要である。既存の科学(Disciplinary Science)や学際科学(Interdisciplinary Science)に問うことはできるが、それらだけでは答えられない分野を扱う超学際科学(Transdisciplinary Science)を社会と共に深化させなければならない。市民社会との合意形成に欠かせないリスクマネジメントなどはその代表的なものであろう。近代科学の萌芽期にあって、フランシスコ・ベーコンは『偉大な回復(The Great Instauration)』を著し、人類の良き生を実現するための科学の方向性を示している。その先見性には改めて驚く。
◆今号では、アジアの海洋秩序の安定をめざし、海上保安の指導者を育成する国際プログラムについて恒川惠市氏に、保存修理工事を終え、東京海洋大学の構内に優美な姿を取り戻した明治丸と海事ミュージアム事業の紹介を矢吹英雄氏に、そして垣内康孝氏には「海なし地域」における海洋教育の具体例として蒸発皿を用いた塩づくりを紹介していただいた。今号で取り上げた全ての活動は専門知識を社会に展開し、良き生をこの惑星上に実現する企画として位置づけられるのではないだろうか。(山形)

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