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オーシャンニュースレター

第377号(2016.04.20発行)

海上保安政策プログラム(修士課程)の発足

[KEYWORDS]海上保安政策プログラム/高度人材育成/国際人的ネットワーク
政策研究大学院大学特別教授、海上保安政策プログラム・ディレクター◆恒川惠市

2015年10月1日、政策研究大学院大学と海上保安大学校が、(独)国際協力機構(JICA)の財政的支援を受けて共同運営する大学院修士課程プログラム(1年コース)が、東南アジア4か国と日本から第一期生10名を迎えて発足した。

海上保安政策における専門家の育成

海上保安政策プログラム(英語のプログラム名称は、Maritime Safety and Security Policy Program (MSP))は、アジア地域の海域をめぐる情勢が緊迫度を増す中で、力ではなく国際的なルールに基づいた海洋秩序の安定をめざす国々から、海上保安機関の若手幹部候補生を招いて、分析力、実務力、コミュニケーション力を兼ね備えた将来のリーダーを育てることを目的として設立された。

2015年10月1日 政策研究大学院大学想海樓ホールにて、海上保安政策プログラム開講式が行われた。

本プログラムの前身は、海上保安庁が日本財団の支援を受けて、海上保安大学校において平成23年度から実施した「アジア海上保安初級幹部研修(AJOC)」である。この研修プログラムも1年間10名の規模で実施されたが、修了生が学位を取得できないという課題があった。その間、政策研究大学院大学の白石 隆学長と日本財団の笹川陽平会長との間で、東南アジア諸国の海上保安能力向上の重要性が話し合われた。海上保安庁でも「海洋権益保全の充実強化のための高度人材育成検討委員会」を設置するなどの模索を続けた。こうして平成25年度から政策研究大学院大学と海上保安庁・海上保安大学校との協議が始まり、2年の準備期間を経て、2015(平成27)年10月1日の開校を迎えた次第である。

履修期間1年の大学院修士課程プログラム

■2015-2016年海上保安政策プログラム修士課程カリキュラム

本プログラムの対象者は、海上保安庁およびアジア各国海上保安機関の初級幹部職員で、①学士以上の学位を有する者、②海上保安機関の職員で5年以上の実務経験を有する者、③40歳未満の者、④就学に必要な英語能力を有する者、といった条件を満たす者である。日本人を含む全学生は、期間中、東京および広島のJICAセンターに起居し、日本の文化に触れながら、共同生活をおこなうことを通じて、国籍、宗教、文化の違いを超えた相互理解と、生涯を通じて変わらぬ友情を育むこととなる。本プログラムは、この友情を基盤として、揺るぎない海上保安分野の国際ネットワークの確立をめざしている。
本プログラムの授業は、前半(10月~3月)を東京都六本木にある政策研究大学院大学で、後半(4月~9月)を広島県呉市にある海上保安大学校でおこなう。
政策研究大学院大学では、「国際関係論」「国際法」「東アジア国際関係」など、世界や東アジア地域の国際関係を体系的に理解し、分析する能力を磨く授業を中心に実施するが、同時に学生は英語で書いたり話したりするコミュニケーション能力向上のための授業にも出席する。さらに、海上保安政策演習として、世界の海上法執行事例の法的・実務的研究・分析や想定課題についての机上演習を行う。
学生達は、4月に呉に移った後は、「救難防災政策」「海上警察政策」「国際比較刑事法」など、実践能力を磨くための授業を中心に履修する。本プログラムは、国際法や国際関係についての知識を基盤としつつも、高度の実務的・応用的能力をもつ人材の育成を目的としているからである。
学生達は、修士号(政策研究)を取得するために、以上の授業で単位をとるとともに、Policy Paperを執筆しなければならない。なお、講義、Policy Paperの作成は、全て英語で行う。学生は、期間を通じ、授業、演習のほかに日本各地の海上保安関係施設を見学し、先進事例として、日本の海上保安制度の現状を学ぶ。

2015年10月10日 横浜海上防災基地にて開催された「海上保安フェスタ2015 in横浜」のイベント「巡視船いず体験航海」に、海上保安政策プログラムの学生と教職員で参加した。

学術的な論文を書いたことのない学生達にとって容易ではない作業を助けるために、政策研究大学院大学において論文指導のためのゼミを開始している。このゼミでは、研究テーマの決定、資料の探索、発表のための資料の作成などの指導をおこなっている。学生達は既に、海洋汚染問題、海港管理、遭難防止、越境犯罪・違法移民の取り締まり、領海警備の国際法解釈など、それぞれのテーマを選び、Policy Paper執筆の準備を開始した。一人ひとりの学生には、政策研究大学院大学から1名、海上保安大学校から1名の指導教員がついて、マンツーマンの指導がおこなわれている。3月末にはPolicy Paperの中間発表会が開かれた。Policy Paperの本格的な執筆は、呉に移ってからおこなわれる。呉と東京の間の移動は容易でないので、政策研究大学院大学の教員による学生指導は、Skypeおよびe-mailを通じて行われる予定である。

知識の習得とともに国際的人的ネットワークの構築を

第一期生は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム、日本から、それぞれ2名選出された。入学当初は若干緊張気味に見えたが、今では政策研究大学院大学の雰囲気にも慣れ、世界約60カ国から来ている留学生に混じって、授業や大学の行事に参加している。政策研究大学院大学の学生の大半は、発展途上国政府の若手ないしは中堅の職員である。政策研究大学院大学は、そうしたミッドキャリアの官僚を各国の将来を担う指導者に育てることを目的としている。本プログラムの学生達は、自らも自国の海上保安機関のリーダーになるための研鑽を積むと同時に、他国の海上保安機関の仲間や、各国の未来のリーダー達と親交することで、国際的な人的ネットワークを作る機会を与えられている。
なお本プログラムは、(独)国際協力機構(JICA)の全面的な財政支援を受けて、運営されている。学生達の宿舎も、東京ではJICA東京国際センター、呉ではJICA中国国際センターが提供してくれている。その意味で、海上保安政策プログラムは、政策研究大学院大学、海上保安庁・海上保安大学校、JICA、そして日本財団という4者の密接な協力の賜なのである。(了)

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