Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第377号(2016.04.20発行)

明治丸保存修理工事の竣工と海事ミュージアム事業の展開

[KEYWORDS]鉄船/3檣シップ型帆船/重要文化財
東京海洋大学名誉教授◆矢吹英雄

2015年に国の重要文化財「明治丸」の保存修理工事が竣工し、また2016年春には「明治丸記念館(仮称)」が竣工する。東京海洋大学では、海洋立国日本の歴史と文化を学ぶ場、海事社会および地域に開かれた交流の場として明治丸海事ミュージアム事業を立ち上げ、本格的に展開することとなる。

明治丸と保存修理工事の概要

■3檣シップ型帆船の姿が蘇った明治丸明治丸海事ミュージアムの開館日、時間等詳細はhttp://www.kaiyodai.ac.jp/academics/72/77.htmlでご覧になれます。
(写真提供:(有)ゼロ・プロジェクト)

  1. (1)明治丸の沿革
    明治丸はわが国に現存する最古かつ唯一の鉄船で、東京海洋大学越中島キャンパス(旧東京商船大学)に保存されています。同船は、明治政府の発注により燈台巡廻船として1874(明治7)年に英国のグラスゴーで建造され、翌1875(明治8)年から1896(明治29)年まで公務に従事しました。1876(明治9)年に明治天皇が東北・北海道巡幸の帰途函館から乗船され、横浜に安着された7月20日は「海の日(旧海の記念日)」として記憶されています。1896(明治29)年には本学の前身である商船学校に譲渡され、その後係留練習船として終戦までに5,000名以上の高級船員を育てました。同船は、当初2檣トップスルスクーナー型(ブリガンティンとの説もある)の補助帆を備えた汽船として建造されましたが、練習船としての使用開始に伴い3檣シップ型帆船に改造されました。さらに1937(昭和12)年頃バーク型帆船に改装されましたが、1978(昭和53)年に国の重要文化財に指定された後、昭和55年度から8年計画で行われた保存修理工事(以下昭和の修理)で再びシップ型帆船に戻されました。
  2. (2)2015(平成27)年の保存修理工事
    昭和の修理は、船体、マスト・ヤード等の帆走設備、船橋等上甲板の構造物、居住区および調度等船全体にわたるものでしたが、その後の経年変化により特にマスト・ヤード、上部構造物等木製の物件に著しい傷みが見受けられ、大規模な修理が必要な状況になりました。本学では、2006(平成18)年から修理仕様の検討を進めてきましたが、2008(平成20)年7月に文化庁の許可が下り、2009(平成21)年の船体鉄構造部の修理工事に引き続き2014(平成26)年からは船全体の修理工事が行われ、2015(平成27)年3月に竣工しました。今回の主要な修理工事とその概要は次のとおりです。
    • 船体工事:特に船体下層部について漏水が原因と思われる腐食が進んでおり船体強度の低下が懸念されたことから、補強工事と漏水対策工事を行いました。
    • 帆走設備工事:木製マスト(帆柱)、ヤード(帆桁)について割れ目からの水の浸入に起因する著しい腐食が見られたことから、鋼製に更新しました。
    • 上甲板工事:昭和の修理で施工された樹脂甲板は全面にわたり亀裂や表面の剥離が見られたことから、厚さ65mmのチーク材で舗装し本来の木甲板に復元しました。
    • 上部構造物工事:船橋等上甲板の木製構造物全てが水の浸入により著しく腐食していたことから、使用材料を見直すと共に十分な防水機能を持たせた構造としました。

明治丸海事ミュージアム事業

国の登録有形文化財第1観測所(写真左)および第2観測所

東京海洋大学明治丸海事ミュージアム(以下海事ミュージアム)は、明治丸、歴史的な海事関連機器および資料を収蔵する百周年記念資料館、1903(明治36)年に天文観測台として竣工した第1観測所(赤道儀室)および第2観測所(子午儀室)、本年3月竣工の明治丸記念館(仮称)で構成され、事業の運営組織として東京海洋大学明治丸ミュージアム機構があります。また、事業運営の協力団体として本学OBを主体とする明治丸ボランティアクラブ(海事ミュージアムのガイドを担当)およびNPO法人江東区の水辺に親しむ会、深川観光協会、江東区役所職員他で構成される明治丸シンポジウム会議(シンポジウムの企画立案を担当)があります。海事ミュージアムは、海事技術資料の収集と編纂の他、次のような事業を行います。

  • 明治丸の修復および維持管理:船の保存には中、長期の維持管理計画を立案し、これに基づく保守・整備を行うことが重要です。船体の地中埋設部の外板は元の厚さの40%程度に衰耗していると推定され、首都直下型等の大きな地震も想定されていることから、これの修理と船体の補強工事が課題と考えています。
  • 明治丸の周辺環境の整備:明治丸関連史料、海事関連史料を展示する他、セミナー室等交流の場としての機能を備えた明治丸記念館(仮称)が百周年資料館の側に建設されます。記念館は、本学教職員、学生、OB、海運会社等の海事クラスター、江東区および地域住民が連携して行う歴史と文化の発信、地域交流および海事に関する啓発活動の場となることを目指しています。具体的には、次世代の海事産業を担う青少年への海事意識啓発活動、先端海事技術講座等のセミナーの開催、明治丸および百周年資料館と連携した企画展の開催などが計画されています。
  • 明治丸の歴史と文化の発信および交流活動への支援を目的として、毎年、明治丸シンポジウムと特別展示を行っています。明治丸シンポジウムは、明治丸シンポジウム会議の協力を得て2002年から毎年開催しており、明治丸の歴史、明治丸を中心とした商船教育、明治の文化、明治丸と周辺地域との関わりと将来の街づくりといった事柄についての講演、パネルディスカッションを行っています。また、これまでの特別展示には、『船が開く明治 ─ 商船教育140年記念展示 ─』『明治丸の航跡を求めて ─ 海洋立国日本のあけぼの ─』『商船学校をめぐる街々 ─ 絵葉書等でたどる大川周辺の歩み ─ 』等があります。

海事ミュージアムは一般に無料で公開されており、見学者は明治丸ボランティアクラブ所属のボランティアが案内します。(了)

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