Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第375号(2016.03.20発行)

編集後記

◆地下鉄から階段を登りかけるともう沈丁花の馥郁とした香りが漂ってくる。どこか懐かしさを覚えるような、そんな季節がまた巡ってきた。狭衣物語の作者、六条斎院宣旨は「惜しむにもとまらぬものとは知りながら心砕くは春の暮かな」と詠んだが、まさに人それぞれの思いをのせて足早に去ってしまう季節でもある。
◆このところ海洋関係のいろいろな研究集会が開催されている。2月末には(公財)笹川平和財団の本研究所と日本海洋政策学会の共催による「日本の選択を考える─海洋遺伝子資源をめぐる国連の動きにどう対処するか─」と題する学際的なセミナーがあった。国家管轄権区域外の公海と深海底に、海洋開発と生物多様性保全が両立する国際ルールを導入するには、途上国と先進国の利害関係や既存の海洋管理枠組みとの整合性をどうするかなど難しい問題がある。科学的知見を制度設計に生かすことも極めて重要であり、理学、工学と人文社会科学の連携の大切さに加えて、政策担当者との連携も極めて大切になる。
◆東日本大震災から早くも5年が経過し、被災地では着々と復興が進んでいる。今号では女川町長の須田善明氏に「課題先進地」を「可能性先進地」に変える新しい海のまちづくりを紹介していただいた。海辺と後背地がハード面からもソフト面からも緊密に繋がり、ダイナミックに人々が交流する魅力的な場を導入することに女川人のチャレンジがある。既に漁業生産額は震災前以上になり、商業エリアも再開した。復興事業の総仕上げとなる観光交流エリアの完成が待たれる。
◆こうした海のまちづくりには先端科学技術との連携が極めて効果的である。(国研)科学技術振興機構の戦略的創造研究事業「海洋生物多様性領域」を主導してきた小池勲夫氏には、沿岸域の総合的管理に関して実践的な活動を行っている本研究所との合同シンポジウムを総括していただいた。小池氏は海洋生態系を解析する新技術を開発する研究者と現場で生物資源管理に関わっている人たちとの連携の大切さ、それを担うインタープリターの必要性を訴える声を紹介している。現場の実践者と専門家が緊密に交流して、共に考え、協働し、その成果を広く社会に発信する枠組みの大切さである。これは持続可能な社会に向けた変革のすべての局面で不可欠である。
◆最後のオピニオンはアルジェリアにおける海事教育訓練に久しく携わってきた大前正也氏によるものである。政治的な困難を乗り越え、四半世紀にも及ぶ技術協力をひとまず終了するにあたって、その成果を紹介していただいた。さまざまな困難を抱える途上国において人材育成に努めてきた日本の姿がここにある。わが国が国際的な信頼を集めているのはこうした地道な努力があるからである。筆者もアフリカ南部で(独)国際協力事業団のプロジェクトに協力した経験があるが、現地で日々献身的に努力されている方々の活動には心打たれるものがあった。国際協力事業団のこうした献身的な活動はわが国の人々にこそより多く知ってもらう必要があるのではないだろうか。 (山形)

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