Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第365号(2015.10.20発行)

第365号(2015.10.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(国立研究開発法人海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆台風並みに発達した爆弾低気圧が日本海を北上し、陸海空の交通網が影響を受けるなど、今年は秋になってもなかなか天候が安定しない。このような折り、ニューヨークの国連総会特別首脳会合で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。ここでは飢餓と貧困の撲滅、地球環境の保全、人と社会の繁栄と安寧、平和で公正な社会の保障、それらを実現する国際連携の重要性が謳われ、持続可能な開発のための17の目標と169の具体的な達成項目が示されている。17の目標の中で、海洋に直接関係するのは項目13の気候変化とそのインパクトへの緊急対応及び項目14の海洋の健康保全と持続的な利用である。今後15年間にわたり、各国政府はこの公約の実現に向けて努めなければならない。
◆しかし、この新しいアジェンダには既に批判も出ている。特に、17の目標には相互に関係するものが多く、統合化が必要という指摘や目標達成度を評価するシステムと達成度を測定する指標の導入が必要ではないかという指摘である。ネーチャー誌編集局のJeff Tollefson氏が指摘するように、脱炭素社会をめざす持続可能なエネルギー手段の確保は温暖化対策のみならず大気環境の改善にも貢献し、人々の健康増進にも役立つ。また途上国においては女性や子供たちから薪の確保負担を軽減し、初等教育を受ける機会や経済活動への参加を可能にするかもしれない。持続可能な発展には統合的なアプローチが必要であり、今後はこうした議論が深まっていくであろう。
◆今号では、パナマ運河の拡張工事完了を目前に控えて、Ritter Diaz駐日パナマ大使に新通航料の詳細と新しいビジネスチャンスについて紹介していただいた。ネオパナマックス規格は造船業界への影響にとどまらず、各国の港湾インフラへの影響も大きい。通航量の増大は世界の経済活動全体の活性化も促すことになる。開通後一世紀を超えていよいよ新しいステージが開幕する。スエズ運河を巡る第二次中東戦争に見られたように国際運河は地政学的に極めて重要である。香港企業によるニカラグア運河計画もあり、中南米から目が離せない。
◆秋が深まりゆくといよいよ寒ブリの季節の到来である。寒ブリといえば定置網漁法の氷見である。本川祐治郎氷見市長には、4月にオープンした「ひみ漁業交流館魚々座」における市民参加型の活動について紹介していただいた。古くは高志の国として海を越えた交流があり、奈良、平安時代には渤海国の人たちとの交流もあった地である。大伴家持が美しい自然とかかわる多くの歌を詠んだところでもある。世界の漁村文化を先導する試みがこの地で行われるのは歴史の必然なのかもしれない。
◆最後のオピニオンは加藤道夫氏によるもので、サーファーなどに気象・海象情報を提供する『マリンウェザー海快晴』のサイトについて紹介していただいた。世界の気候は昨年あたりから新しいフェーズに入ったようである。これからは海や空の極端現象がより起きやすくなる可能性が大きい。こうした情報サービスを活用し、充分な備えをした上で海のレジャーを楽しんで欲しい。(山形)

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